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chapterⅨ collapse ―崩壊― Ⅱ

椿と雷音が仮想現実での恋愛について真剣に話すお話です。

「……雷音ちゃん……話って――何だろう……」

強制イベントの次の日の放課後――

「放課後、話があるから屋上に来て欲しい」

……そう雷音に言われた椿は、恒例の待ち合わせ場所へと足を運ぶ――

扉を開けると、まだ誰もいない――

椿は外の景色を眺めながら、雷音を待つ……。

「……一緒にクエストって感じでもなかったし……どうしたんだろ……」

椿を呼び出した時の雷音の雰囲気は、何時もとは明らかに違う感じがした。

気になりはしたが――クラスが違う事もあり、放課後まで待つ事にした。


「やっぱり……バトキャラ関連の事かな……? なんだか強制イベント

 の為とはいえ私、竜さんとキス……しちゃったのはなんだか申し訳ない

 っていうか……気まずいというか……だからって私から話題にしたり

 ……謝る……のも違うような気がするし……その辺りは竜さんも

 ちゃんと説明してくれてるとは思うけど……」

椿は考える――友人の事を好きになってくれた、一人の少年の事を……

「――上手くいったら良いな……竜さん、悪い人じゃなさそうだし」

そして、ぼんやりと空を見上げる――


「竜さん、実際は……どんな人なんだろう……」

魔法のゲームの中で出会う人々――その姿は、1日1時間魔法の力で

変身した姿。普段は現実世界で、同じ空の下で生きる人――

その現実世界での姿は想像もつかない――元々現実世界で関わっていた

雷音や、話をして知った昂を除いては、誰の現実の姿も知らない……

想像しても、現実とは全く別人だという場合もある……その時は、

その人に対して失礼ではないか……? そう思って、今までは――

あまり深く考えていなかった……。その手掛かりも、存在しない――


「……そういえば昨日――まさか、もう会ってる……

 なんて事は――ないよ、ね……気のせい……だったよね……?」

ふと、椿は思い出す。

昨日竜が一瞬、自分を名字呼んだような気がした事を。

「……まさか、聞き間違いだったよね――それに会ってるとしたら

 別に隠すような事でもないだろうし、言ってくれても良いと思う

 し……それより竜さん、あの時――……竜さんみたいな人間って

 どういう意味なんだろう……??」

椿は、竜の言葉を思い出す……


「……俺みたいな奴の為に、あるのかなって……」


BATTLE CHARACTERSが何の為に存在するのか……その話になった時、

竜は――確かにそう言っていた。その後ロッサが現れ、会話が遮られ

椿には――その真意が理解できないままだった。



「……ごめん、待った? 椿ちゃん――」

色々な事を考えているうちに、扉を開けて――雷音がやって来た。

「あ……ううんっ……ちょっとぼーっとしてて……それで、話って――」

「椿ちゃんに――聞きたい事が、あって」

雷音の口調はいつもより落ち着いて

――と、いうよりも沈んだ印象だった。


「……えっ……?」

「椿ちゃんは……蓮の事、本気で……好きなんだよね……?」

「えっ……? どっ……どうしたの突然っ……」

改めて聞かれた椿は――戸惑ってしまった。

「真剣な話なの……現実の蓮に会ってみたいとか……会って……

 現実でも付き合いたいとか……そういう事、思ってるんだよね……?」

「……それは……もちろん……いつか、そうなれたらなって……

 思ってるけど……」

「蓮の年齢とか……どこに住んでるか……現実の姿も素性も……

 知ってないんだよね……?」

「……それは……知らないけど……」

そう、椿が返した瞬間――


「それなのに……本気で好きって言えるのっ!?」


雷音は、強く言い放った――……

「……え……?」

「……蓮が実はヤクザとか……現実では少年院入ってるとか……

 もしそうでも……椿ちゃんは――蓮の事を愛せるの……??」

「!? ……いきなり……そんな……どうしたの!?

 ……雷音ちゃんっ……いくら……仮定の話でも、

 いきなり――蓮さんの事、一方的に悪く言わないで……!!」

「でも……その可能性だって否定できないんじゃないのっ!?」

「でも……私は……」

椿は信じたかった……蓮が、悪人ではない事を――


「……今の椿ちゃんは……浮かれてるだけなんだよっ……! 蓮の現実

 知らないのにきっと……心の中じゃ勝手に相手、理想化してるだけっ

 ……!! そんなの……絶対後悔するっ……絶対に……絶対に……!!」

「……雷音ちゃん、初めと言ってる事、違いすぎるよっ!! ――前……

 同じような状況だった時は……応援してくれたのに……どうして!?

 どうして――今更になってそんな事言うのっ!? 今更止めるなら……

 初めから応援なんかしないでよっ……!」

椿も強い口調で言い放つ――


「私だって……初めは応援するつもりだった……でも……

 今になって引き留める事にした理由なら……ちゃんとある!!

 だって今の椿ちゃん……春咲先輩の状況とそっくりなんだもんっ!」

「え……? ――“ハルサキ”??」

それは、椿が初めて耳にする名――

「リアさんの本名だよ……先輩の事、覚えてる……?」

「え? ……うん」

リアという少女……それは、過去に魔法のゲームの中で一度だけ出会った

現実では雷音の中学時代の美術部の先輩――BATTLE CHARACTERSの

世界の中でゲーム内恋愛をしていて、椿の事も応援してくれた人物――


「……別れたんだって」


「……え……?」

「……ふられたの、ジャックさんに」

「……!!」

「……あの2人、付き合いはゲームの中だけしかなくって……

 会う約束の為に……お互いのメアドだけは交換してたみたいで……

 それ以外はお互いに何も知らないまま付き合ってて……本名でさえ

 知らなくて……ジャックさん……リアさんの事鬱陶しい、重い、

 もう付き合ってられないって……リアさんふって、もうこのゲームも

 飽きたから、やらないって言って、メアドも変えて……

 本気で連絡取れなくしたんだって」

「……そんな……酷い……」

「……酷い? ……何言ってるの?」

雷音は、椿を睨む――


「……え……?」

「……先輩の為に必死で励ました……でも……心の中では思ってた……

 先輩の自業自得なんだって……!! ……そう簡単に好きになって

 良い訳ないじゃない……そう簡単に信用すべきじゃなかったんだよ……

 あんな現実世界でもない世界、1日1時間しかいられないのに、

 それだけで相手がどんな人間なのか、そんな簡単に判断できる訳

 ないじゃない……あの世界には……確かな物なんてないんだ……!!

 優しさだって上辺だけかもしれないし、

 嘘付きだって……きっとたくさんいる……!」

「……でも……本当の事を言ってる人だっているはずだよっ!?」

「……どうやって確かめるっていうのよ!?」

「……っ……それは……」

嘘か真実か、確かめる事はできない……相手の心が読めない限り、

想像して判断するもの――100%の絶対など、存在しない――


「……ほら、ないでしょ?」

「……じゃあ……雷音ちゃんは……竜さんの事も……

 全部嘘だって言い切れるのっ!?」

「――言い切れるよ……全部嘘だって、言いきってやる……!!」

「そんなっ……それじゃあ竜さんが可哀想だよ……! 竜さんは……」

「椿ちゃんは、竜が現実世界でどんな人か知ってる訳っ!?

 いいかげんな事言わないでっ!!」

雷音の口調は更に強まるばかりだった。


「知らないよ……私は……竜さんが現実世界でどんな人かなんて……

 でも……昨日……色々話して改めて感じた……竜さんは桃ちゃん……

 雷音ちゃんの事、大切に想ってくれてるって……!私から見ても

 嘘なんかじゃない……本当に大切に想ってくれてるんだって……!」

「でも……もしも……そうだったとしても、私は――……!

 もうどうすれば良いか分からない……どうして……ただのゲーム

 なのに……ゲームのはずなのに……こんなに心、崩されるの……

 ――ごめん……椿ちゃん……こんなのただの……押し付け、だよね?

 ――分かってるの……私……最低だって……

 最低な、人間だって……!! ごめんっ……でも、嫌なの……

 椿ちゃんも同じように、はまりすぎて……後戻りできなくなるのは

 ……!! だから……だからっ……!! ごめんねっ……!!」

そう言って、雷音は屋上の扉を開け駆け出す……

雷音の瞳には、涙が溢れていた……。


「雷音ちゃんっ!?」

椿は急いで追い掛ける――雷音は勢い良く、階段を下る――

その時――

「きゃっ……!?」

「うわっ……!?」

雷音は、1人の少年とぶつかってしまった――

「雷音ちゃん……!? 大丈夫!?」

「……空原さん?」

それは、雅晴だった――

「――中里君……!? ごっ……ごめんっ……!!」

雷音はそう言うと、また走り出し、視界から完全に姿を消す――


「あっ……」

「……悪ぃっ……邪魔したか……?」

雅晴は心配そうに、椿を見る――

「ううん……そんな事は……」

「空原さん、泣いてたみたいだけど――」

「……まぁ色々あって……それより、中里君はどうしてここに――」

「ん? ただ、たまにさ、無性に行きたくなるんだよな、

 ここ……時間、ある時とか――眺め良いし……入って良いか?」

「え? なんで?」

「……後から来て邪魔しちまうかなって」

「そんな事ないよっ!――それより私も帰るから、平気っ……!」

椿は急いで荷物を取る――


「――追い掛けるのか? 空原さん」

「さっきは……追い掛けなきゃって思ったけど……多分、今の私が

 行っても上手く話せなくて余計に……傷付けちゃうし……

 雷音ちゃん何処にいるか分からないし、きっと

 落ち着くまで時間掛かると思うから、無理かな……」

それにRPG化していたら、何処に行ったかも分からない……

椿は心の中で付け足した。


「……そっか……俺で良かったら、相談とか力になれたら……とは

 思うけど――雰囲気的に俺とかには話し辛そうな感じだよな?」

「……そんな感じ、かな――

 気持ちだけ、もらっておくね、ありがとう中里君……」


これは――さすがに、個人的な問題である上に、魔法のゲームが深く

関わる――雅晴はきっと、BATTLE CHARACTERSの事は知らない

だろう……そう、考えた椿は遠慮した。

「まぁ、大変そうだけど――本当に仲良いんだったら、

 すぐ仲直りもできると思うぜ?」

「うん……ありがとう……じゃあ……」

「バイバイ、妃宮さん」

それから、椿は階段を下る――


「……何を言ったら……良かったんだろう……?」

先程の、雷音とのやり取りを思い出す――

気の利いた言葉が出ない自分が、ただ心苦しかった――

「……それに……」

雷音に言われて、認識した事――

「……好きでいるのは、危険……なの……かな……?」

1人の剣士を想う――



「――」

一方雅晴は、雷音の零した涙から、中学生時代を思い返す――


「……今は俺の事――どう思ってるのかな、藤岡さん。

 ――今も俺の事恨んでるかな……それとも今は――

 もし“そう”だったら、気にしてなかったら良いけど」

蘇る、自分の目の前で涙を流した、一人の少女とのやり取り――

その少女の言葉は、当時雅晴の心を突き刺した……

今も、言い放った言葉と同じ気持ちかもしれないし、

今は変わっているかもしれない……

でも、現在はもうお互い違う学校に通っていて

“今”のその少女の気持ちは――分からないままだった。


「……村上は……今、何してるんだろ……

 何を思って――俺の事、どう思って生きてるんだろ……」

雅晴はそう呟き、一人の少女を思う――



「中里君、――好きです、付き合って下さいっ……!!」

「もちろんっ!!」

そうして付き合う事になった二人……

しかし、その女子生徒は――雅晴と付き合い、それが周りに知られた事で

同じクラスの女子から酷いいじめを受け、学校に来れなくなってしまった。

雅晴の前から何も言わずに姿を消した……


「……むしろ、俺の事なんて――……

 とにかく、元気にやってっと良いんだけど、な……」

そう呟いた後、雅晴は屋上から姿を消した――

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