chapter Ⅷ allowance ―斟酌― Ⅵ
ゲームの世界では強制イベントでの椿&蓮&昂、そして現実世界では正也が…!?なお話です。
「決めたんだね」
「……はい」
そして椿は蓮の前に立つ――
「あの、この優勝報酬、蓮さんに受け取って頂きたいんです……!」
椿は意を決す――別れの時期を早める事になるかもしれない。
それでも――椿は、この優勝報酬を蓮に渡す事にしたのだった。
「……それはてめぇが手に入れたアイテムだ! 俺は受け取らねぇ!!」
……一方シーフの指摘通り、もちろん蓮は――
椿から素直にアイテムを受け取るような事は――しなかった。
「でも……!」
「俺の実力じゃねぇし! 受け取る訳にはいかねぇよ!
てめーレベル低いだろ!? 自分の為に使えよ!」
「蓮さんに渡す事は自分の為でもあるんです!
私は蓮さんに――幸せになって欲しいって思ってますから!」
「……! それでも俺は――!!」
「は~いはいはいはい、これ位の事態は十分想定の範囲内だったよ(笑)
まぁ二人共折れる気はないから、二人が妥協できる案を僕から……
ひとまず、アイテムは蓮が受け取る……
――それを使うタイミングは蓮に任せる、これでどう?」
蓮と椿を見守る昂は――ウインクして妥協案を話す。
「私はもちろん、それでもかまいません」
「……!! ――俺に拒否権はねぇよな?」
「うん♪ もちろん!」
「蓮さん、勝手な事をして、押し付けてしまって――申し訳ございません
……でも、どうしても辛くなった時は無理せずに使って頂きたいと
思っています」
「……仕方ねぇ……受け取るだけだからな!!」
「は~い、これにてデータ譲渡完了ー♪ 蓮が使いたいと思ったら
使えるようになったよ☆」
「……蓮さん……本当に、使われないの、ですか??」
「さっきも言っただろ!? 使う訳ねーだろーが!!って!?」
蓮が断言した後――自然と椿の瞳から、涙が零れた。
「……ごめんなさい、私、最低……です……」
「てめぇはいきなりなんで泣き出して何に謝ってるんだ!?」
椿の涙の理由が分からない蓮は――ひどく困惑した。
「……だって、蓮さんが救われて欲しい気持ちは本当なのに……
本当に使われたら、その時は蓮さんとお別れ……だから……
使わなくて良かったって思ってしまって……ごめんなさい、
そんな事、思ってしまって――」
「――最低……なんかじゃねぇよ」
「えっ……?」
「正直、てめぇが俺との別れがそんなに悲しい事だと思ってる
理由は理解できねぇけど……その……ありがと……な」
「……え……?」
「――俺はこのアイテムは使わないつもりだが……
俺の事を考えた故の行為ではあるみてぇだから、
一応、礼は言っておく……一応、だからな!」
蓮は一応と強調しながらも――照れくさそうに椿に礼を言っていた。
「いえ、どういたしまして……!
受け取ってくださって、ありがとうございます!」
「だから、てめぇが礼を言う理由はねーから!」
「ねぇねぇ蓮♪ それだけじゃあ僕、ものたりない気がするんだ~」
そんな2人を見て――昂は楽しそうに切り出す。
「何が言いたい?」
「蓮が椿ちゃんに、何かお礼するべきだって思う☆」
「確かに借りは――返せるうちに返すべきだと思うが……」
「えっ……??」
「ねぇ椿ちゃん、蓮に今して欲しい事言ってよ!」
「そっ……そんなのいきなり言われても困ります……!」
「――なんでもいいから言ってさせろ!
こういう事はさっさと終わらせておくにこした事ねぇ!!」
「えええええ!?」
昂と蓮にいきなりそう尋ねられ――椿は困惑する。
「……だったら――チューにする?」
「……何ふざけた事言ってるんだ!?」
「それは絶対ダメです!」
「えっ……?」
全力で拒否する椿に……一瞬、蓮は戸惑う。
「あはは~残念! ふられちゃったねぇ蓮(笑)」
「ふられてねぇし!」
「ふってないです!!」
「え~?ダメかなぁ?? 椿ちゃん今日、竜君にされてたけど、
あれはOKだったんだ~?」
そう言って――昂は意地悪そうに微笑む。
「そういえば……」
「あれは……! 勝つ為だったからです! 普通はそんな事しませんから!
だってそういう事は……普通は恋愛感情なしではダメですし!
こういうのはちゃんと!蓮さんが好きになった方に――
してあげて頂きたいです!」
「……成程ね~減るものじゃないのに(笑)」
「蓮さんの幸せが確実に減りますから! ――私なんかじゃダメです!
可愛くないですし、性格も良くなくて……蓮さんが可哀想です……」
「……てめぇはどこまで自己評価低いんだ!? 少なくとも俺は
てめぇの事、可愛くねぇとは思ってねぇし
性格良くねぇとも思ってねぇよ!」
「えっ……」
「容姿に関しては、男に媚びて厚化粧してる輩は無理だが」
「ちなみに蓮は――女の子に対して可愛いって
感性は今の所ないから、これは彼なりの誉め言葉だよ♪」
昂は――嬉しそうに、椿に囁き蓮の言葉を補足する。
「……!」
「てめぇ……余計な事言ってるんじゃねーだろーな!?」
そして、椿は思い出す……
「誰がお前みたいな根暗なブスにキスなんてするかよ!」
……それは――中学時代の椿が言われた言葉。低すぎる、自己評価の
原因にもなった事。そんな言葉を投げつけられた経験のある椿に
とってはおおげさかもしれないが、蓮の言葉は十分救いだった――
「……君、本当に無意識に
椿ちゃんの呪い解いちゃってるよね~……」
「何の事だ? それより――」
「えっと……えっと……あっ……!」
椿は何かを思い付いたようで――声をあげる。
「ふふっ……何か思い付いたみたいだね~♪」
「……なんだ、言ってみろ」
「あっ……あの、その嫌だったら拒否して下さい! 無理はしないで下さい!
でも今はこれしか思い付かなかったというか……
おこがましいとは思うのですが……」
椿は――蓮にして欲しい事が決まった様子だが、
しどろもどろになってしまう……
「だからなんだ?」
「……名前を、呼んで頂きたいです」
「……は……?」
予想外の答えに――蓮はぽかんとしてしまう……
「えっ……あっ……そのすみません!
……ただ一度、蓮さんの声で聞いてみたいというか!」
「……――そんな簡単な事、かよ……
――本当に、欲がねぇんだな、“椿”は」
そう言って、かすかに――蓮は微笑んだ。
「……!!」
「……なんだよ」
「はっ……はい! 耳に焼き付けました!!
ありがとうございます!!」
椿は――見逃さなかった。呆れの感情の方が強いであろうが――……
一瞬、ほんの一瞬だが、蓮は自然に微笑んでいたのだった。
「じゃあ強制イベントはこれにてお開き! システム的には通常の
クエストに戻れるけど――椿ちゃんはどうする? 続き、できるよ♪」
「あっえっと……では少しだけ修行してから、現実世界に戻ります」
「そっか♪」
「ではまた、蓮さん、昂さん」
そして椿は頭を下げ、エリア移動する事にした――
「ああ」
「は~い、バイバ~イ♪」
昂は――楽しそうに椿に手を振る。
「……蓮、今回は――アイテムに頼らなかったね。このまま
しばらくは椿ちゃんと一緒にいる事を選んだ……その解釈でOK?」
それから昂は蓮を見上げ――問う。
「……別に、あいつといる事を選んだ訳じゃあねぇ……そもそも今更
こんな簡単な方法でクリアできるとは思ってねぇからな。今回の
茶番は――何が目的だ? 始めからアイツらを勝たせるつもりで、
この形で俺にアイテムを手に入れさせた……
こんな事で、俺の気持ちは――変わらねぇ」
「でも君――気付かなかったと思うけど、
さっき一瞬、椿ちゃんの前で笑ってたよ?」
「……! ――気のせいか、バグだろ」
「――まぁそれはそれとして……だったら、君はどうやって――
君の戦いを終わりにする気なの? 本当は分かってるんでしょ?
……気付いてるんでしょ?」
「……! それでも俺は――!!」
何かを言いかけ、蓮は――昂の前から姿を消す。
「あっ……まぁいっか、そろそろ良い時間だし。今日の尋問は
これ位にしてあげよっかな。それにしても、今日は色々本音を
聞き出せたけど――……さぁ、椿ちゃんにはいつ、どんな感じで
――真実を話そうかな」
そう零す昂の表情は――複雑そうだった。
「……今日は色々あった、な……」
それから、魔法が解けた後――生徒会室から外を眺めながら、
正也は一人の少女の事を思い出し……思いを馳せていた……
今日たくさん話ができた、一人の少女から受け取った――
……そして、その時に感じた、少女の気持ち。
した会話、一言一言。幸せな気持ちが、込み上げる……
もっと、知りたい……
もっと、話したい……
もっと、一緒にいたい……
自分の正直な気持ちを伝えるべきか、伝えないべきか……まだ迷いはある。
そもそも自分に“彼女”を愛する権利はあるのか――それも分からない。
自分の「現実」を知られたら、離れられるかもしれない。
「……でも俺は…が好きだ……好き、なんだ……」
嫌でも、自覚してしまう。魔法が解けた後でも――想ってしまう。
浅はかかもしれなくても、愚かであっても、夢のような世界での恋を、
現実世界の恋にしたいと願ってしまう自分を――もう、止められなかった。
「えっ……!? ……あれは……?」
そんな正也の視界に――
生徒会室から見える屋上に突然、巫女装束の同級生が現れる。
「……妃宮、さん……?」
一瞬だが、正也は見逃がさなかった。椿の服が巫女姿から、制服姿に戻る
瞬間を……BATTLE CHARACTERSのプレーヤーの、RPGキャラの「椿」が、
現実世界の「妃宮椿」に戻る瞬間を……――そして、元に戻った椿は
正也にその姿を見られた事に気付かず、空を仰ぐ……
「今日は本当に、色々な事があったなぁ……蓮さんはまだ――
ゲームの中かな……それとも、もう現実世界に――
……蓮さんは現実世界では――どんな人、なんだろう……」
出会った事があるかもしれない。
出会った事がないかもしれない。
もう魔法を解いて、元の現実世界に戻っているかもしれない。
まだ魔法を解いてなくて、ゲームの世界にいるかもしれない。
何も手掛かりのない、現実世界の蓮……
それでも椿は――
“どこか”に存在する“彼”に想いを馳せていた――
小説家になろうが きっかけで、このお話を知って&読んでくださっている方、誠にありがとうございます! かなり稚拙な文章&短所も多いキャラ達の物語を見守って頂け幸せいっぱいです…! ブログの方では既に続きを公開済ですが…次の章、特にⅡから本格的に「現実世界と仮想現実の違い」を突き付けるような展開になります。1日1時間だけ遊べる魔法のゲームが舞台だからこそ、の部分も書けたらなぁと思いますので、引き続きよろしくお願いします…!




