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chapterⅧ allowance -斟酌- Ⅱ

椿とシーフ、蓮と昂、それぞれが話をする お話です。

「……もうこれ私、強い人に遭遇したら終わり、だよね……

 でも……残らなきゃ、優勝はできない……!

 最後まで頑張らなきゃ……――それにしても

 さっきの竜さんの譲渡にはびっくりしたなぁ……」


椿に残された魔力はわずか……しかも1人。

不安な気持ちを抱えて、警戒する一方で――椿は思い返す。

竜に気を遣わせない為、そして強制イベントに勝ち残る為、

すぐに気持ちを切り替えたが――先程竜は突然、椿にキスをした。

椿の魔力を回復する為とはいえ、恋愛感情を持たない者同士での

キス……それは現実世界の椿にとって、ありえない事だった。


「まぁあれは完全に戦略だし……蓮さんも……初対面の私に

 しちゃってた事もあるし……うん、特別な意味なんて

 絶対にありえないし、状況的にも仕方なかったけど……

 雷音ちゃんから聞いてたのとは違う感じだったなぁ……

 やっぱり、それはつまり竜さんは桃ちゃんの事――」


竜が椿にした魔力の譲渡は――桃にした魔力の譲渡とは全く質が

違う。桃にした譲渡は、確実に特別だったのだろうと思い返す。


「上手く――話せてたら良いなぁ……

 それと、あの蝙蝠桃ちゃんので間違いないみたいだし

 見られちゃったっぽいし……変に誤解してませんように……」


桃はおそらく、竜が椿にキスをしたのを蝙蝠を通して見てしまって

いる。恋愛感情のない者同士の戦略故のキスであり、弁解しなく

ても理解してくれているだろうと信じてはいたが、やはり不安に

なってしまう……。


「……こんにちは」

そんな事を考えている椿の前に――正面から歩いてきた

1人の男のRPGキャラが椿に笑顔で挨拶をした。

頭にはバンダナをまき、七部丈のジャケット、Gパン姿……

足首までありそうな、長い水色の髪を――三つ編みにしていた。


「……! 貴方――もしかして、さっき私達の

 アイテムを奪ったシーフの方……?」

「ぴーんぽーん♪ それでさっき蓮倒してきたんだ☆」

「……!!! 私達のアイテムを使って……!?」

「そーだよ♪ あっでも殺してはないから、安心して?

 あくまで、20%以下にしただけ。」

「……そう、ですか」

蓮が死んではいない事に安堵する気持ちはあったが――

自分達のアイテムを使い、蓮は倒されてしまった……。

もしあの時、アイテムを奪われなければ――そう考えると、椿は

心が痛む……そして――目の前のRPGキャラに複雑な気持ちを抱く。


「――どうして、その事を私に……?」

「だって――蓮の事、かなり気に掛けてくれてるでしょ?

 毎週世話になってるね、蓮が。ありがとー♪」

「……貴方、蓮さんのお知り合い、ですか……?」

「そう、リアル蓮の事も――よく知ってるし、昂とも蓮とも――

 元々は同じ関係。君の事は昂からもよく聞いてて知ってたよ、

 いつか会いたい、話したいって思い続けてた……

 初めまして椿ちゃん、これからよろしくね~☆」

「蓮さんと昂さんの現実世界でもご知り合いの方……?

 元々同じ関係?? えっと、その……よろしくお願い、します……」


強制イベント中にも拘わらず、椿を攻撃する事なく会話を続ける

シーフ――不思議に思いながら、椿は会話を続ける……


「……この人、何者なの……?? 蓮さんと昂さんと――

 具体的にどういう関係の人……?

 蓮さんの事すごく知ってる……??」

「……警戒、しなくてもいいよ? こんな話しながら襲うなんて

 悪趣味な事はしない。そもそも――優勝する気なんかないし」

「えっ……!!?」

「後は竜君と綾ちゃん次第♪ 綾ちゃん余裕で勝てそうだけど

 竜君も強いだろうし、なんとかするかもね~」

「……いくら竜さんが強くても、

 貴方が魔力回復アイテムを奪ったから……!」


「……気付いてなかったみたいだね」

「えっ……??」

「自分、竜君の魔力回復アイテム――全部は奪ってないよ?

 竜君も――気付いてるはずだけど?」

「うそっ……!? だったらどうして――!?」


椿は――竜との会話を思い出す。確かに竜は自分のを盗られてると

言っていた。でも――全てが盗られたとは言っていなかった……

だが、それならどうして自分に譲らず、それしか手段がないかの

ように魔力を譲渡したのか――椿には全く理由が分からなかった。


「……本当に自分で使う為に残したくて、勝ち残りたくて、

 椿ちゃんに譲らなかったって感じ? 敵を騙すならまず味方から

 って言うし――……まぁでも綾ちゃんが勝ったらその時は

 ――自分が報酬椿ちゃんにあげるから安心して☆」

「えっ……? 貴方何言って――??」


シーフは強制イベントに勝つ気がなく、むしろ報酬は椿に譲ろうと

すると言い出す……。意図が分からない椿は――酷く困惑していた。

「そうしたら全部解決するでしょ?何もしなくても

 手に入れられる、おめでと~♪」

「いえいえ! ちょっと待って下さい!

 もしそうだとしても――私、受け取れないです!

 シーフさんが優勝したら、シーフさんが受け取るべきです……!」

「あはは、やっぱりそう言うと思った~……

 でも椿ちゃんは――優勝報酬手に入れたら、蓮に渡すつもりでしょ?」

「あっ……はい、そう、ですけど――」

「……自分が椿ちゃんにあげたいのと、

 椿ちゃんが蓮にあげたいのと――何が違うの?」

「……!!」

椿は指摘され、ようやく自覚する……蓮もきっと、シーフからの

申し出を断った椿と同様に椿が優勝報酬を手に入れても断る事を……


「……蓮も素直に受け取らないだろなぁ……

 それを考えずして、優勝して手に入れようとしたの?」

「……はい……」

「まぁそれは昂の事だから、強制的にもらわせるだろけど(笑)

 それで――本当に、ハッピーエンド……だと思う?」

「えっ……??」

「……蓮が願いを叶えたら、この世界で戦う理由がなくなる」

「それで蓮さんが、苦しみから解放されるなら、私は――……!!」

「……それはつまり、蓮がこの世界で無理矢理遊ばされる理由が

 なくなる……椿ちゃんといる理由が、なくなる……

 蓮と別れる時が来るという事でも?」

「……!!」


「動揺したね……ほら、隙だらけ」

そう言ってシーフは――椿の背後に回り込み、

椿の首元に小型のナイフを突き付ける。

そして――もう片方の手で椿の頬をなでながら、微笑んでいた……



「……あのシーフは何者だ? ――アイツと……何を話してる?」

一方、椿とシーフのやり取りを音声なしで

モニター越しで昂に見せつけられている蓮は――昂を睨む。


「――僕が聞かれて教えるような人間だと思う? それと――

 会話の内容に関してはお互いのプライバシーを守る為にも

 教えてあ~げな~い♪ 聞かせてもあ~げな~い♪……って

 いうか、椿ちゃんとあのシーフが何話してようが――

 蓮には関係ないでしょ? それともやっぱり気になる~?

 椿ちゃんがあ~んな感じでシーフに迫られちゃってるの☆」

「そういう訳じゃねぇ!」

「あははっそうだよねぇ、椿ちゃんがどこで誰と何してようが

 蓮にはま~ったく関係ないよね♪……あっ!ちなみに今日ね!

 なんと!椿ちゃん……」

「……!」


そう言いながら、昂は――

大画面に、竜が椿に魔力を譲渡したシーンを映し出す。

「蓮以外の子から魔力譲渡されちゃったんだよね~

 お相手は今回組んでる竜君☆」

「……それがどうした、

 強制イベントに勝つ為に必要な事だったんだろ」

「さぁね~竜君、魔力回復アイテム持ってるのにやっちゃった

 辺り、プレイボーイなのかも~♪ 椿ちゃんも嫌がっては

 なかったみたいだし。でも良かったねー☆ 初キッス奪った

 ――彼女の呪いの一部を解いたのが君だったのは不幸中の幸い?」

「……何が言いたい?」

「――椿ちゃんが君を追いかけたのは、彼女に最初にキスを

 した人間が君だったからさ。それが竜君だったら――

 竜君を好きになっていたかもしれないって事。

 それは困るでしょ? 君自身が」

「……別に俺は困らねぇ! アイツが誰を好きであろうと――」

「本当にそうかなぁ? まっでも安心していいよ☆

 椿ちゃんは一途に蓮の事――ちゃんと想ってくれてるから♪

 その証拠、特別に話の一部――聞かせてあげる!」

そう言って、昂は――シーフと椿の会話の

1シーンをモニターに映し、音声をオンにする。



「椿ちゃんは――優勝報酬手に入れたら、蓮に渡すつもりでしょ?」

「あっ……はい、そう、ですけど――」



「……!」

「――これは嘘の音声じゃあないよ?罪な男だねぇ、蓮……

 今椿ちゃんが戦っているのは蓮の為。蓮に優勝報酬を渡す為。

 これを受け取ったら君は――」

「……バカな女だ……俺は受け取らねぇ……! この戦いは――

 誰かの手を借りないで自分の力で終わらせねぇと意味が

 ねぇのに……!」

「――蓮はそう、思ってるよね、思い――続けてるよね?

 でもその拘りが――椿ちゃんを縛る事になっても良いの?」

「それは……第一アイツが俺のクエストに付き合わされてるのは

 てめぇが勝手に決めた事だろ!!」

「……まぁ確かに今は、僕が決めた事に蓮と椿ちゃんは

 従ってるにすぎないよね~……あっ!だったらこうしよう!

 嫌なら嫌で今日を機に椿ちゃんとのクエストは終わらせて

 あげてもいいよ?――終わらせてあげよっか? 蓮が望むなら

 ――そうするよ☆ 今のうちに別れの挨拶――考えておきなよ♪」

「……!?」

戸惑う蓮に、昂は――楽しそうに笑っていた。

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