chapterⅠ encounter -遭遇- Ⅰ
椿が変身?できた次の日、隣のクラスの親友・雷音にその話をすると……?色々な説明回です。
「……はぁ……何だったの……かな……」
剣士を助けた翌日の休み時間、椿はコインを片手に溜め息をつく――
昨日剣士と別れた後、我に返ると側に落ちていた銀色のコイン……
剣士を助けた時は、確かになかったはずなのに……。
始めに手にした時は気付かなかったが“B.C.”と刻まれていた――
それからは何をしてもあの時のように光る事はなく、ただのコインに
思われたが……不思議と心魅かれ、学校にまで持って来てしまう程……
そのコインを見つめていると、昨日の事が鮮明に蘇る――
「……夢じゃなかった、よね……また逢えるかな……」
椿がそう呟いた時の事――
「……ちゃん! ……つ~ば~き~ちゃ~ん~っ!!」
「わぁっ!!」
大声で呼ばれて気が付くと、目の前には金髪ツインテールの少女。
隣のクラスの親友、空原雷音の姿があった。
「どうしたの? 今日はいつもにも増してぼ~っとしてるよ?
まさか……また妄想とかしちゃったりぃ~?」
「えっと……それは認めるけど――
その前に雷音ちゃん、なんでうちのクラスに?」
休み時間とはいえ……もうほんの数分程で、休み時間が終わるタイミング――
「椿ちゃんのクラス、今日古典あった!? 時間割変更、さっきまで
忘れてて――次の時間なのっ……あったら一式貸して! お願いっ!!」
「あっ、うん――」
そして、椿は雷音に古典の教科書とノートを渡す。
「ありがと~☆ わぁっ……やっぱり椿ちゃん、予習完璧っ♪
さすが古典の姫っ!」
軽くノートの中身を見た雷音は、満面の笑顔を見せた――
「私ので良かったら、いつでも貸すからね」
椿も雷音につられて、微笑んだ。
「うんっ……! で…さっきの妄想の内容、なんだったの??
椿ちゃん『認める』って言ったよね?」
雷音は一変して、意地悪そうに微笑む――
「えっ? それは――その……絶対信じてくれないとは思うんだけど……」
信じてもらえなくても、椿は雷音には昨日の事を全て話そうと思っていた――
一番の親友だったから……
「なぁに?」
「昨日ね、空から剣士さんが降ってきて、助ける為に変身?
して魔法が使えて――って言っても信じない、よね?」
そう言って、コインを見せる――
その瞬間、雷音の発した言葉は意外なものだった……
「椿ちゃんも『バトキャラ』のプレイヤーなのっ!?」
目をキラキラさせながら興奮する、雷音の姿――
「……『バトキャラ』……?」
「わぁ♪ 超嬉しいっ! ね、ね、今日の放課後、一緒にクエスト行こうよ!
椿ちゃんのRPGキャラ超見たい!!」
「えっ? ええっ?」
自分の他にも同じような経験をした者が、こんなに近くにいたらしい……。
「雷音ちゃんっ……何か知ってるの!?」
「もっちろん♪ 私もプレイヤーだもん☆」
「『プレイヤー』って……?」
その瞬間、6限の始まりを告げるチャイムの音――
「あっ! チャイムだっ! じゃあ放課後、屋上でね~☆」
「あっ……」
よくわからないまま休み時間は終わり、その話は放課後まで
おあずけとなった……。その後もちろん、6限の授業は……
全く集中できなかったのであった――
そして、放課後の事……椿は屋上へと向かった――
屋上の扉を開くと、そこには既に――雷音の姿。
「雷音ちゃん、お待たせ――!!」
「うんっ♪ じゃあ早速RPG化しよっ☆」
「……えっと……ちょっと待って! 私っ……言葉の意味が全然わかんないん
だけどっ……『アールピージーカ』とか『バトキャラ』とかっ……」
コインを出そうとする雷音に対し、椿は尋ねる……
「へ? もしかして……説明とか受けてないの?」
「説明どころかっ……行き当たりばったりだったよっ!?」
どうやら、2人は違う巻き込まれ方をしたらしい……。
「え? 普通は『鏡の間』に飛ばされた後、
『インフォメカウンター』で悪魔の子から説明受けるらしいのに……?」
「……らしい……?」
雷音の人事のような言い方が、椿には引っ掛かった……。
「あっ…私は『鏡の間』に飛ばされた後は、その時一緒にいた
中学同じ先輩がナビしてくれたから、悪魔の子から説明は
受けなかったけど……普通は会って一通りの説明もらえるはずだよ?」
「知らないよっ!『鏡の間』とかいう場所ですら……」
椿には、何の事か全くわからなかった――
「え? じゃあ椿ちゃん……何があったか……順を追って説明してくれる?」
これには、雷音も驚きを隠せなかった――
「うんっ……まず昨日は、境内の掃除してたら――男の人が参拝に来て……」
「どんな人?」
「……確か、スーツ姿で青紫色のセミロングのストレートヘア、
左目――髪の毛で隠してたなぁ……」
「ふ~ん、実際にもいるんだ、そんな髪形……つまりは○○○のキタローヘア?」
「うん、そんな感じ」
雷音の発言に、椿は思わず苦笑する――
「……それで、参拝の後、私に『彼のパートナーになって欲しい』って言って
消えちゃって……そのすぐ後に、銀髪で水色のマントの剣士さんが――
血塗れで降ってきたの……」
「え? まさか……現実的にありえない長さの超ロン毛でチャイナ服の?」
「あっ……うんっ! 足首までありそうな毛、後ろでくくって……
って!? もしかして雷音ちゃん、その人知って……!?」
剣士の特徴を言い当てた雷音の言葉に、椿は興奮してしまう――
「うんっ! ……会った事はないけど……その特徴から察するに――
噂の最強プレイヤー、“蓮”だよっ!」
「……“レン”……?」
「“蓮”って書くらしいよ。椿ちゃん蓮に会ったんだ~! すご~い!
でも血塗れかぁ……きっと何十人も一度に相手したんだろうな~……で?」
「えっと……助けようとしたら……『コインで変身しろ』とか言われちゃって……
それで賽銭箱の上で光ってたコイン手に取ったら――」
「RPGキャラに変身☆ って訳だね♪ そっか~そういう状況だったから、
鏡の間には飛ばされなかったんだね~で、そのRPGキャラは!?」
「え? 待って! その“アールピージーキャラ”っていうのは……?」
勢いづく雷音に対し、椿は不思議そうに問う――
「あっ……ごめんごめん!“RPGキャラ”っていうのは、“バトキャラ”の
プレイ専用の自分の使用キャラ――ちなみにRPG化は、“RPGキャラ”に
変化――つまり、変身する事っ☆ 椿ちゃん、ゲームあんまりやらないって
前言ってたけど、RPG=ロールプレイングゲームって事位は知ってたよね?」
「うんっ……! あっ……成程……それで――“RPG化”なんだ……」
「そうっ! ちなみに“バトキャラ”は“BATTLE CHARACTERS”
っていう1日1時間だけ遊べる、魔法のゲームの略――
コインの“B.C.”が、それ」
「え?つまりコインでその、ゲームの体になったから魔法が使えたの?でも……」
蓮が落ちてきた場所も、椿が魔法を使った場所も、“ゲームの世界”ではない
実家の神社――そんな話が信じられるはずがない……
「始めは驚くと思うけど、バトキャラ専用の異空間に行かなくても――
現実世界にいながらでも、魔法は使えるの!」
「えっ? 確かにそういう説明になると思うけど……
もしあの時……攻撃が家に当たってたら、家壊れてっ!?」
今更ながらも、椿は心配し始めた……。
「あははっ♪ 大丈夫大丈夫☆ 攻撃はRPGキャラにしか効果ないよっ!
それにバトキャラのプレイヤー以外には、
攻撃どころかRPGキャラすら見えてないよっ!」
「あっ……! どうりで……!」
蓮の言葉を思い出す――救急車を呼ぼうとした時、
蓮は、今の姿は『普通の人間』には見えていない、
声も聞こえていないと言っていた……
これは、そういう意味だったのだ――
「……ゲームの体にしては……すごく苦しそうだったような……」
「そりゃ、リアル体感ゲームだもんっ! 痛みは本物だよっ!」
「うわぁ……でも……あれ? あれがゲームの体って事は……
RPGキャラが攻撃されたら、現実の体は……?」
「え? RPGキャラで受けた傷は現実には残らないよっ!
RPGキャラが死んで、現実でも死んじゃったらシャレにならないしねっ!」
心配する椿に対し、雷音は明るい口調で答えた。
「そう、だよね……じゃああの時――あのまま蓮さんが死んじゃってても……」
「現実の体は当然無事って訳! でも死んだ時って――
下手したら自分のRPGキャラ初期化しちゃうからねぇ……
じゃあ説明はこれくらいにして、続き続き♪ 椿ちゃんのRPGキャラは!?」
雷音は期待に胸をふくらませていた――
「……変身前と……全く一緒だったよ……」
椿は淋しそうに答える――
「え? 嘘でしょっ!? RPG化って……“他人になる魔法”の事だよっ!?」
雷音は椿の言葉が信じられない様子――
「本当だよっ! 全然変わらなかったの~!!
それには蓮さんも驚いてたし、でもコインはなくなって……
そりゃ私だってちょっとは期待したけど~!!」
そう叫んだ後、椿はいじけて地に「の」の字を書き始めた……
「あっ!ごめんごめん! お願いだから、いじけないで~っ!! それってきっと
……超絶激レアなパターンだからっ! ねっ? それで? 続きはっ!?」
「ウサ耳の魔女が来て攻撃してきて……よくわからないけど――
助けたい、って思ったら、魔法陣が出て攻撃跳ね返せたの!!」
「成程……カウンター魔法使ったんだね☆」
「で、魔女の子は消えちゃって……その後に蓮さん助けようとしたら……手から
光が出て……傷どころか、服も綺麗に戻って……もう信じられなかったよ……」
「そーね、バトキャラはゲームだから、RPGキャラにとっての
回復魔法=修復魔法だし……回復というよりは綺麗にする感じ、かな?」
「それから――」
「ん?」
続きを話そうとする椿が頬を赤らめる――それを雷音は不思議に思った。
「魔力返す為とかで……その……キス……されちゃった……」
「ええええぇぇぇぇ~!! あっ……あの人っ……めちゃめちゃ
冷たくてキッツい性格らしいのに~っ!? そっ……それ以上の進展はっ!?」
椿の発言に興奮する雷音――
「ないよっ!! ないないっ!! その後すぐに
『……強引だったけど……これで貸し借りゼロだからな……!』
って言って……逃げられちゃった……」
「ほぉ~……蓮って思ったより良い奴なんだ!! それに――“魔力の譲渡”
ってね、“本当に渡したい”って思った相手にしかできないらしいから――
ちょっと憧れるな♪ それで……ホレたの? 蓮に?」
そう言って雷音は意地悪そうに微笑む――
「……うんっ……もうずっと……その、蓮さんの事が頭から離れなくて――
今までは男の子って……好きになっても……憧れてるだけで敬遠しちゃってた
けど……今は違う……もう一度蓮さんに会う為なら――なんだってしたい……」
「そっか♪ なら私も協力するよっ!!
椿ちゃんにもよーやく憧れ以上が見つかったんだしねっ☆」
「ありがとう、雷音ちゃん……!!
そういえば――雷音ちゃんはどうして……“バトキャラ”やってるの?」
「ん? ああ私は――もちろん、自分のRPGキャラ育てて戦うのが楽しいから☆
後ね、レベル上がったら“2代目”もらえるかもだしっ!! あっ椿ちゃん、
今のRPGキャラ嫌だったら、2代目キャラに期待してみたら?」
「2代目……??」
椿は、不思議そうに聞き返す――
「うんっ!! ――もらえる時期はバラバラらしいけど、
RPGキャラって1人につき2人まで持てるんだって☆
……私の知り合いには、まだ実際持ってる人はいないんだけど――」
「そうなんだぁ……」
「後はね――強くなって……どうしてもぶっ飛ばしたい奴がいるのっ!」
「え? それって……どんな人?」
「変態。」
「へっ……!?」
「あの変態アラビア三つ目小僧め~! 神聖なRPGキャラをあんな真似で使う
なんてっ……絶対に許さないっ……!! この前も引き分けだったけど……
今度会ったら絶対やっつけて……二度とあんな真似させないんだから~!!」
椿の問いに対し、雷音の返事は完全な愚痴だった……。
それから二人はRPG化する事となった――
「じゃあRPG化しよっか♪」
「えっと……どうするの?」
「『変身したい』って思いながらコイン投げるのっ!!」
「え? それだけで?」
椿は信じられない様子――
「大切なのは、『思う事』だから」
「えっと……荷物は?」
「パチられたらヤだから一緒にRPG化しちゃえばいいのっ!」
「ええっ!? そんな事も?」
「RPG化後の姿に影響はないからねっ! じゃあいっくよ~!」
「うっ……うんっ……」
「せ~の……」
そして二人は同時にコインを投げる――二人は光に包まれる……
「……やっぱり服……着物になってる……でも……変わり映えしないなぁ」
「わぁっ……椿ちゃん、やっぱり似合うね巫女姿!!」
「え……?」
すぐ隣から、聞き慣れない声が聞こえた――
そちらに目を向けると、見慣れぬ姿の少女がいた。
肩にかかる位の黄土色のストレートヘア、薄いピンク色のマントに
薄い黄色のブラウス、赤い色のチェックの入ったピンクのミニスカートに
焦茶色のニーソックスとローファー。片手には赤い本を持っていた――
「ええっ!? 雷音ちゃんっ!?」
「あっ! この姿の時は『桃』って呼ぶように!」
「あっ……うんっ! でも……そんなに変わっちゃうんだ……声まで……」
「あぁ、確かにね―自分がしゃべってるのに、
普段の自分の声じゃないから、始めは違和感あったけど」
「可愛いっ……!」
「ありがとっ♪ あっ……ところで椿ちゃんのキャラ名は?」
「えっと……もう、本名でいいよ……普段の姿と変わりないんだし……」
変わらない姿に諦めた椿は――迷う事なく答える。
「そう? なら私も普段通りに呼ぶけど……でもむしろそっくりすぎるから、
もしリアルの知り合いに会っても本物の椿ちゃんだってバレなさそうだよね~
……にしても、ここまでそっくりなんて……椿ちゃん、
キタローさん(仮名)とは本気で初対面だったの?」
「え? うん、もちろん……」
「どっかから椿ちゃんの写真入手してそのRPGキャラ作ったとかっ!?
それかまさかっ……キタローさんって椿ちゃんの……?」
「まっまさか……でも……なんでよりにもよって――」
「う~ん……謎だねぇ……って! 速くしないと1時間終わっちゃう!
じゃあ早速……椿ちゃんの為に初心者エリアに転送~☆」
桃は楽しそうに、椿の手首を引っ張る――
「えっ? きゃあぁっ!?」
そして二人は光に包まれ――屋上から姿を消したのだった……。