chapterⅦ jealousy -嫉妬- Ⅳ
竜と桃が再会し、桃が竜に……しちゃう お話です…!
「あ~……もう……ドラゴン撤退させたのは良いけど、
まさか炎がここまで広がっちゃうとは、ね……」
炎に囲まれた桃は――必死に氷を召喚し続け、自分の身を
守っていた……しかし、飛行能力を持たない桃は――炎の海から
自力では出られない。魔力温存の為に、偵察で召喚していた蝙蝠も
全て撤退させ、今は残っている魔力で生き永らえているが……
既に最後の魔力回復アイテムも――尽きてしまっていた。
「……あつい……苦しい……でも……自業自得だったよね……」
魔法の暴走の原因は――分かっていた。付き合っている訳では
ないのに、竜と椿の魔力の譲渡を見て、想像以上に動揺してしまった。
胸が苦しくなった。それが原因である事は――間違いなかった。
「このまま、終わっちゃうの、かな……」
優勝して、報酬を手に入れたかった――竜との約束を果たしたかった。
――今は竜を殺してしまう可能性があるから、竜の前ではドラゴンは
使わない。でも、自分が優勝して、ドラゴンを完全にコントロール
できるようになったら――発動しても竜を殺さずにすむようになる。
そうしたら、竜が見たがっていた、自分の召喚したドラゴンを
竜に見せようと……そう思い続けていた。
「……もう……いっか……どうせ――次会える保証も
どこにもないんだし……そもそも竜は、私の事なんて――」
そう思っていた時――
「桃!!」
「えっ……きゃあっ!!」
――桃の前に、竜が現れる。竜は桃の腕を強引に引っ張り、
自分の絨毯に乗せ――炎の中から脱出した。
「……竜……? ってアンタ何してるの!?」
「え? なんかピンチっぽかったから助けた、みたいな?」
「いくら飛べるからって何無茶してるの!?
ダメージ受けてるじゃない……火傷も……!」
竜の絨毯に乗せられた桃は――竜の体やステータスを見て声をあげる。
竜の体力ゲージは20%以下にはなっていないが――
半分以上は確実に下がっていて、体のあちらこちらに火傷もあった。
「あ~結構熱いし、今もひりひりしてる……焼け方もリアルだな、
これ。でも火だるまになってはねーし、これ位平気。
リアルと違って――跡残るとかもねーし気にするなよ」
「でもっ……そもそも私達は敵同士でしょ!?」
「いや、別に敵助けたら失格とかねーし?」
「だからって……
強制イベントに……アンタの……竜の命に影響するじゃない!」
「いや、それよりお前が死にかけてたじゃねーか……」
「私はいいの!」
「良くねぇよ!」
竜も声をあげる――
「……どうしてよ!? 私はセーブ使ってる……
死んじゃってもまたやり直しができるのよ!?」
「……それでも嫌なんだよ、ゲームだって、全部元に戻るって
分かってても、今そんな風に苦しんでるの、見たくねぇ……
それにしても、これ……すげー炎使いに襲われたのか?」
「……全部、私がやったの」
「えっ……!? お前こんなすげー魔法使えたのかよ!?
もったいぶりやがってさ~俺とのバトルでも見せてくれても
いーじゃねーか! あっもしかして――ドラゴン召喚できたのか?
だったらソイツも見たかったなー」
場を和ませる為か、体力がないながらも――竜はそう零す。
「そんなの……できる訳、ないじゃない……!」
「えっ……??」
「……制御できないのよ……! だから嫌だった……!
殺したくない……! 竜の事だけは……絶対自分のせいで
死なせたくない……! 今だって自分の魔法のせいで……
アンタの寿命減らして……私のせいで……こんな危険な目に
遭わせて……!! ……私の事なんか構わないでよ……!
何勝手な事してるの……私の気持ちも知らないで……
私の気持ち無視して……!! 私は……私は――!!」
本当は――危険を冒してまで助けてくれて嬉しかった。
嬉しいと同時に、自分の魔法のせいで、竜にダメージを与えて
しまった事が辛かった。いつも通り、素直にお礼も言えず、
言い放ってしまう……桃の瞳から自然と――涙が零れる。
「……また、泣かせちまったな」
竜はそう言って――桃の頬に触れ、指で桃の涙を掬う。
「え……? またって……??」
「この前、俺が死にかけた時」
「……!? まさか……あの時……意識あったの!?」
「――体動かなかったけど、全部聞こえてた……俺の名前呼び掛けて
くれてた事も、震えながら回復魔法使ってくれてたのも、主義の事
覚えてくれてたのも、死なせたくないって思ってくれてた事も」
「……! 忘れて……!! 今すぐあの時の事全部忘れてよ……!!」
桃は――羞恥心で赤面しながら言い放つ。
「それは無理。
だってすげー嬉しかったし、忘れたくても、忘れられねぇよ」
「……!!」
「それより……会ったら、会えたら、早くお前に会って
どうしても伝えたい事があったんだ」
「えっ……?」
「この前の事、本当にごめん」
「……!!」
「……ずっと謝りたかった、最低って殴られてるまで気付かなくて
……桃の気持ち考えずに、勝手に、あんな事して――
嫌いな奴からあんな風に魔力もらっても、迷惑に決まってるよな」
竜は申し訳なさそうに、真剣な眼で桃を見つめる……
「……それ、今言う事!?」
「今言わずにいつ言うんだよ!?
次いつ話せるか、わからないじゃねーか!」
「確かにそうではあるけど……あの時は、その……びっくり
したの……誰かにあんな事されるの、初めてだったから」
「え? 俺が初めて!? ……嘘だろ!?」
たどたどしい態度の桃に――竜は驚く。
「嘘じゃないわよ!? アンタの中の私どうなってるの!?」
「いや、普通ーにリアルでそういう経験してるような
気がしたからさー慣れてるかと……」
「リアルでも彼氏作った事ないんだから、そんな経験ないわよ!?」
「……そう、だったのか、なんだ、リアルは俺と同じだったのか
……でも経験あったとしてもそんな簡単にしていい事じゃ
なかったから――ごめん」
「……もういいわよ、それより――
あの時の事、そんなに気にしてくれてたんだ」
「そりゃあ、さっさとちゃんと謝ろうと思ってたけど――
なかなか会えなくて」
「……私こそ、言い過ぎた、ごめんなさい……最低っていう程じゃ
なかったと思うし、そこまでアンタの事嫌いって訳でも、
迷惑って事も――」
「じゃあ……アレは、桃的にはアリなのか?」
「……!! それは――って! それより!
さっきの、椿ちゃんにも……ああしたの?」
「……!! 眼鏡っ子にはあんな風にはしてねーよ!
……って痛ぇ! 何するんだ!」
「……だとしても、私の親友に何手ぇ出してるのかな~って」
そう言って桃は殺気じみた表情で、竜のほっぺを――思い切りつねる。
「あれはただの魔力の譲渡! 手ぇ出すつもりねぇし!!
つーか眼鏡っ子は蓮一筋だろ!?」
「まぁ、確かにそうね……っていうか、ちゃんと許可もらってた訳?」
「……どんな方法を使っても俺を恨まないか
って聞いたら、もちろんって――」
「はっきり譲渡するとは言わずに一方的にって事?」
「……うん。」
「はぁ……もうそれ、許可もらってたうちに入らないわよ!?
椿ちゃんびっくりしてたでしょ!?」
「……そう、だな……すぐ謝ったけど、軽率だったよな俺……」
「リアルでもああいう事、簡単にしてるんじゃあないでしょうね?」
「しねぇし!! ……っていうかリアルでした事ねぇよ!!」
「……遊び人っぽいのに」
「まっそー思われても仕方ねー気はするけどさ……でも
俺――好きな奴いるから、眼鏡っ子には手出ししねぇって」
「ふーん、いてもキスできるんだ、恋愛的な意味で好きでもない子に」
「普通はしねぇから! 眼鏡っ子のは戦略! あれは戦略だから!!」
「戦略ねぇ……私は絶対、好きな人以外とは無理だけど」
桃は、戦略の為とはいえ――椿にキスをした竜を諫めるように言う。
「……って……あれ? さっきの椿ちゃんにははっきり戦略って
言ってたけど、私の時のは……? 普通はしないって言ったって
事は……まさか……?? って! ないないない!!
私の事は言い逃しただけ! 多分!!」
その一方で考えてしまう……竜が自分の事をどう思っているのか。
そして、気付いてしまう――竜が椿に対しては
はっきり戦略だと言った事に安堵してしまっている自分に。
「まぁとにかく、調子に乗って入れちまったのも
ごめんな、びっくりさせて」
「――まぁアンタは変態だから、仕方ないって諦めてる」
「変態ってなぁ……相変わらずだな、お前の中の俺」
「事実でしょ、変態魔導師」
桃自身、本当はどんな顔をして竜に会えば良いか分からなかった。
でも再会してみると、自然と会話が進む――
そして、素直になれなくても、口喧嘩のような会話になっても、
話せるだけで嬉しいと――そう思ってしまっている自分もいた。
「……まぁ、ここまでくりゃあ、安全ってとこか……
眼鏡っ子の所に戻る前に――体力やばそうだから一旦降りるぜ」
炎を抜けた後――竜の絨毯は徐々に降下していく……
「そう、ね……」
「あっ……そういう事しねーって信用はしてるけど、
俺が回復してる間は俺に攻撃魔法とかはしないでくれよな」
「分かってるわよ、いつものバトル通りでしょ」
「サンキュ♪」
そうして竜は桃を絨毯から下ろして回復薬を飲む。
「は~生き返った――
……っ……!? えっ……!? んっ……!?」
そして、竜が回復薬を飲み終えた瞬間、突然
桃は竜の唇に――強引に自分の唇を押し付ける。
「……!? ……っ……!?」
そして少しずつ、竜の魔力ゲージが上がり、桃の魔力ゲージが
下がる――それが意味する事……桃にとって初めての、
自分からの魔力の譲渡だった。
「なっ……ななななな!? 何やってんだお前!?」
突然の桃からの魔力の譲渡……
竜にしては珍しく――かなり動揺し、赤面していた。
「かっ……勘違いしないでよ!? これは運賃なの! その絨毯で
私運んだせいで魔力消費したでしょ!? 仕方ないじゃない!
今私魔力回復アイテムないし! いつ返せるかもわからないし!
こうしなきゃフェアじゃないの! 異論は認めないから!!
…っていうか、この前のアンタ、同じ事したでしょ!?
私もこれ位びっくりしたから、これは仕返しなんだからー!!」
桃自身勢いでした譲渡に――自分自身でも驚いていた。
そして言い訳するように、竜以上に赤面し竜に言い放つ――
「ぷっ……ははははっ!」
「そっ……そんな笑う事!?」
「異論なんかねーよ、仕返し最高!」
そう言って、竜は満面の笑顔を見せる――
「……~っ~……!!」
その表情を見て桃はまた、赤面してしまう。
「さっき自分は好きな人以外は絶対無理って言ってた割に……
できるじゃねーか、譲渡。ん……? いや、まさか、な。
いやいやいや今回は例外! 勘違いするな、はそういう意味で
言ったんだよな! きっと……!」
もしかしたら……
それは心の中で思うだけにして、竜はいつも通りの態度に戻る。
「つーかてめぇは誰と組んでるんだ? 共闘しなかったのかよ」
「……蓮よ」
「はぁ!? あの蓮かよ!? 余裕で優勝できそうじゃねーか!」
「……そうね、きっと今頃、プレーヤー殺しまくってるでしょうし
……っていうかアンタは椿ちゃんほっといて大丈夫なの?」
「そりゃ心配ではある、けど……」
竜は言葉に詰まる――置いてきた、共闘していた椿が心配ではある。
しかし正直な所、今の竜は椿を助けに行くよりも――……
「……眼鏡っ子にアシストしてぇ所ではあるけど、
先にてめぇと決着をつけてからにしてぇかな」
竜は桃にバトルをけしかける。いつも顔を合わせたら、している
ように……2人にとっての、2人だけの恒例の遊びを――
「……!! そう、ね……この前は邪魔が入ってできなかったけど
……元々約束してた事だったし」
「んじゃやるか、いつも通り――
今日はお互い――魔力ほとんどない状態だけど」
「上等よ……! ……えっ……!?」
そして、2人が攻撃態勢に入った瞬間――
桃のパラメーターは消えてなくなった。
「……私のパラメーターが消えた……!? まさか……」
「嘘だろ!? ――まさか、あの蓮がやられたのか……!?」
桃のHPは20%以下にはなっていない……。
それはつまり――蓮の敗北を、意味した結果だった。




