chapterⅦ jealousy -嫉妬- Ⅰ
冒頭はあの子の過去。chapterⅦ&Ⅷは2章連続で強制イベントのお話です。
「……羨ましい……ずるい……こんな……
こんな跡だらけの体なんか捨てて……
“あいつ”みたいな楽な生き方できたら良いのに――!」
……“他人”になりたい……
それは――かつての“彼”が願った事。
そして、魔法のゲームのコインは――
現実逃避を願った“彼”の願いを叶えてしまう……
――“彼”が変化したその姿は――
幼い頃憧れた、なりたかった未来の自分……魔法使いの姿だった。
それからしばらく経ったある日、
椿と桃がクエストに向かっている途中――
「強制イベント発動ですわよ~☆
皆様、“月の泉”に強制集合ですわー!」
椿の耳に馴染みのない少女の大声がフィールド上に響き渡る――
それと同時に椿達は光に包まれる……
「!? なっ……何これっ!?」
「あ~……最近クエストと重ならなかったな……強制イベント」
混乱する椿に対し、桃は冷静だった。
「なんなのこれっ!?」
「そっか~椿ちゃんは初めてだったね! まぁ頑張ろっ!
ちゃんと開始前に説明もあるから大丈夫!
敵になった時は――本気で……戦おうねっ!!」
「……てっ……敵~っ!?」
そうして2人は――“月の泉”に飛ばされた……気が付くと、
そこは――かなりの数のRPGキャラで埋め付くされていた……
だが、椿の隣に桃の姿はない――知り合いと一緒に飛ばされた
者もいれば、自分達のように逸れてしまった者もいるようだった。
「……どうしようっ……桃ちゃんと逸れちゃった……
強制イベントなんて初めてなのに……」
と、椿が困っていた所――
「よっ! メガネっ子♪ ――久し振り、だな!!」
「……竜さんっ……!!」
聞き覚えのある声の先――そこには竜が居た。
「あの時は――世話になったな!! 本当にサンキューなっ☆
……なかなか会えなかったから、今更だけど――」
「いえ――あの時はご無事で何よりです……ところで、これは一体……?」
「あぁ……初めてなのか? 強制イベント」
「あっ……はいっ……!!」
「じゃあ、今からの説明、よ~く聞いとけよっ!」
と、竜がそう言うや否や――
「はーい☆ 皆様、ごきげんよう~♪ 今回の説明も
BATTLE CHARACTERSのナビゲーターである私、
ロッサが務めさせて頂きますわ~!!」
先程聞いた声と同じ少女の声がフィールド上に響き渡る――
中央のステージに、マイクを持った1人の悪魔の少女が立っていた。
カールがかった金髪の長髪、臍と膝から下を露出した衣装……
お嬢様のような話し方だった。
「……ナビゲーターさん、かぁ……あの人――データ……?
それとも――」
そう、椿が考えているうちに――
「ではまず初心者様に、軽く――この“強制イベント”について
説明させて頂きますわ~♪」
ロッサという名の悪魔は説明を続ける。
「いけないっ……ちゃんと聞かなきゃっ……」
「この強制イベントは経験のあるプレーヤーの皆様には
お馴染みですが、参加中の時間は変身制限時間の1時間に
含まれません。先程強制で中断された各プレーヤーの
戦闘データは、強制イベント終了後、完全に復元されて
続きからお楽しみ頂けるので、ご安心下さいね♪
……ただし! 復元するからと言って……イベント中に
死んでしまった場合、『死んでしまった事実』は変わりません。
……死んでも保証はいたしませんので、セーブを使っていない
プレーヤーの方はイベントを参加されるのであれば、参加前に
セーブを使う事を推奨いたしますわ」
「わっ……セーブは使っておかなきゃ……
私弱いから、簡単に死んじゃいそうだし……」
ロッサの言葉を聞いて、椿や周りのほとんどのプレーヤーは
セーブを使い始める――
「そして、このイベントでもイベント中に消化したアイテムは
イベント終了後、全て復元されますの。なので! 持っている
アイテムは使い放題! 全部使用してもイベント終了後、
全て元通りなので、出し惜しみなしで戦って下さいませ☆
またこのイベントで得た経験値については…イベント終了後
ではなく、中断されたクエストがあれば、そちらのクエストが
終わってからの上乗せとなります事をご了承下さいまし」
「このイベント――制限の1時間に入らないし、使ったアイテムも
元通りになるなら参加しやすいかも……だったら、参加して
みようかな……蓮さんは……今日来てるのかな……蓮さんは
参加するのかな……でも……このイベントでもし死んじゃったら
――今までのデータ全部、消えちゃうって事……??」
ロッサの説明を聞きながら、椿は心配してしまう――
今この世界に来ているか分からない、蓮の事――
「イベント発動中は、他エリアでのクエストは不可ですわ~
イベントに興味のない方は、帰ってくださってもよろしくてよ☆
ちなみに――今回のイベント参加報酬は……最大体力回復
アイテム10個、最大魔力回復アイテム各10個、イベント
終了後に各プレーヤーに配布いたしますわ。
そして、自分の“組”が負けるまで“現実世界”に帰れません
から、用事のある方は帰るなら今のうち、ですわよ~
負けた場合は……死んでしまった場合は、強制イベント
終了まではログインできない状態となります。その間、
コインは黒色に変わっているので、いつもの色に戻った時が
イベント完全終了の合図となります。体力が残っている場合は
観戦のみ可能で、回復系以外の魔法は使えない状態となります。
観戦中は、万が一攻撃を食らってもダメージはないのでご安心を!
それから、今回の優勝者報酬は――かなり豪華!
使用魔力永久半減データ、またはレベルが今の2倍に
なるデータ、そしてスキル1種最強レベルになるデータ
……いずれかをお選び頂けますのよ~!!」
「お~! これは過去イベの中での最高報酬じゃね!?」
「これは参加しねーと損だな!」
周りもざわつく――
「えっ……? レベルが今の2倍になるアイテム……??」
椿は、その部分に反応してしまう――
「では、帰る方は――さよならですわぁっ!」
その声が響き渡ると、一部の者は、消え始める――
その者達は“現実世界”へと帰って行ったようだった……
「えっと……これって――
本当に終わるまで帰れない設定――なんですか?」
消えゆくプレーヤーの姿を見ながら、椿は竜に問う――
「ん? ああ、そういう風になってるんだ……
メガネっ子は――どうするんだ? 帰るなら、今のうちだぜ?」
「――特に予定はないので、残ろうと思います……
でも、ちょっと怖いです……」
「……他の奴らとバトルするのが、か?」
「――それもありますが……よく考えると……RPG化した状態だと……
昂さん……その、創造者さんの意志で私達を帰れなくできちゃう
んだなって――」
椿は不安そうな表情を見せる――
「まぁな……確かにそうだけど――なんとなく、創造者って奴は――
この能力悪用する気なさそうだし、大丈夫だろ☆
それにさっき悪魔の奴が言ってた通り、強制イベント中の時間は
プレイ制限の1時間の中にカウントされねぇしアイテムも全復活だし
余裕あるんだったら――長くRPG化した方が得って思わねぇか?」
そう言って竜は笑う――
「――そうですね」
「……そろそろ、参加人数も決定したようですわね~☆
じゃあ、今回のバトルの内容について、説明させて頂きますわねっ♪
今から、各RPGキャラの皆様に――“パラメーター”が表示されます
わ……赤色の“体力”と青色の“魔力”の2種類――その“体力”
ゲージが20%以下になるまで戦って、最後まで残った方を
優勝としますわよ~!」
そして説明の途中、椿の前にも“パラメーター”が表示される――
「今お近くにいらっしゃる、パラメーターナンバーが同じ方と組み、
どちらか一方でも体力が20%以下になった時点で、その組は
負けとしますわ……負けた場合、そのパラメーターは自動的に
表示されなくなります。またこのイベントでは……相手を“殺す”
必要はありませんし、敵の体力ゲージを見て、体力の少なくなった
機会を伺って攻撃するのも1つの手、ですわ――それから、運営的
には、どのような結果になろうとも、このイベントで負けたプレーヤーは
勝ったプレーヤーを恨まず! ゲームなのですから、楽しくプレイして
頂ける事をお願いさせて頂きますわ♪」
そう言ってロッサはウインクをする――
「それから! アイテムが必要な方の為、今からイベント開始までは
特別にその場でお金とアイテムを交換できるオンラインショッピング
的な事ができるようになっていますの。何か買いたいと思った方は
パラメーターの所の買い物ボタンを押して作業して下さいませ!
では、これより10分後に開始しますので準備の方、お願いします
わね~! カウントダウンは5分前から1分前までは1分毎に、
それから30秒前になりましたら、1秒毎にカウントをさせて頂きます。
そして公平にする為に、1分前に各組ランダムの場所に自動転送
させて頂きます。魔法もイベント開始までは回復系以外は使用
できない設定にさせて頂き、事前トラップ等のズルはできないように
させて頂きますわね。また質問事項がありましたら、私に聞いて
頂きましたら、可能な範囲で答えさせて頂きますわ。全体に告知が
必要だと判断した場合は、皆様にも聞こえるように回答させて頂き
ますわね。最後に、勝ち残った組は――このステージにお戻り
下さいまし。では皆様、ご健闘を祈りますわ~!!」
そう言って、悪魔の少女が締めると――各プレーヤー達は
周りのプレーヤーを見回し、ナンバーが同じ相手を確認する。
「ナンバーが同じ相手、という事は――じゃあ、竜さんと……?」
自分のナンバーを確認した後、竜のナンバーに目をやると――
偶然か必然か――ナンバーは、同じ物……
「あぁよろしくな、メガネっ子♪ やるからには、優勝目指そうぜ!」
「はいっ……!! 竜さんとご一緒だと心強いです……!」
「そうか? サンキューなっ☆ ところでさ、メガネっ子――
使える魔法と持ってるアイテム、一通り教えてくれねーか?」
「えっ……?」
竜は真剣な眼で切り出す――
「戦略練りたいんだよな。できれば能力詳しく教えておいてくれると
助かる! あっもちろん俺が使える魔法や持ってるアイテムの事も
全部話すし、アイテム必要なら貸すぜ! どうせイベント終わったら
返ってくるから気にしないし!」
「もっ……もちろんですっ! ありがとうございます!
――正直どうすれば良いか分からなくて――」
「決まりだなっ♪」
そうして、2人は――作戦を練り始めた。
一方その頃、桃の方はというと――
「わっ……私が組む相手って……まさか――蓮なのっ!?」
「間違いねぇ――番号が同じだからな……おい女っ!
お前が死んで足引っ張んじゃねーぞ!!」
「なっ……!」
こちらは――かなり険悪な雰囲気だった……。




