chapterⅥ linkage -連関- Ⅲ
引き続き碧の強化データ&レイナのお話です。
「それより……教えて、アンタは――私の“何”を知ってるの?」
「俺様は! レイナのトップシークレットを知っている…!」
「……トップ……シークレット……?」
レイナはその言葉に息を飲む――
「レイナのスリーサイズは上から八じゅ……っふごぉぉぉ!?」
「……だからそういう事を言うのはやめなさいよ!?」
レイナは慌てて――強化データの口を塞ぐ。
「……もういいわ……そういう質問より、アンタには色々聞きたい
事あるの――扱いは“碧の2代目”と同じだって考えて良い?」
「ん? ああ、そーゆー事だな♪ レイナも2代目持ちだから
分かると思うけど、普段碧が体力少ないまま俺様を発動させたら、
俺様も体力少ないまま……魔力も同じと考える!」
「アンタは――強い攻撃魔法が使える以外、飛行能力も持ってるの?
アイテムとか羽とか――そういうのなしでも」
「おうっ! 俺様はそーゆーのないけど飛べるんだ☆
ほら! 正義のヒーローってそんな感じじゃね! 〇ンパンマンとか!」
強化データは堂々と、自信たっぷりにそう言った……
「……正義のヒーローって……アンタが……?? むしろ悪役
っぽいからバイキ……ってそんな事はどうでもいいわ……
そういえば、さっきはよく私の場所が分かったわよね……
あの魔法はアンタには無効なの?」
「あっ姿消すやつか! 他プレーヤーには見えなくなるみてぇだが
俺様には無効だぜ! なぜなら!俺様のレイナ分析発見センサーは
有能だからな!」
「……アンタからは逃げても無駄って事ね……」
「え~? 逃げちまうのかよ!? つーか逃げなくてもいいのにさ~
さっきも俺様放置プレイで寂しかったんだぜ?」
そう言って、強化データは頬をふくらませる。
「……そう言われても、アンタが絶対私を攻撃しない
保証がないから、一応警戒するのは当然よ」
「む~……だったら! 俺様は誓うぜ! レイナには攻撃しねぇ!!」
「――攻撃だけじゃなくて、さっきしたような事もね」
レイナは先程、いきなり抱き付かれた事を思い出す……
「さっき? ああ、あれな! ……ダメなのか!?」
「……ダメに決まってるでしょ……」
「……ちぇっ……さっきついでにもんどきゃ良かったぜ……」
「――なんか聞捨てならない言葉が聞こえた気がするけど、
碧の為に殴らないでおくわ……」
先程のように、内心は強化データを殴ってしまいたかったが……
碧もダメージを受けてしまうので、レイナは我慢する。
「それと、アンタが苦しみ出すのって、具体的にどうなった時?」
「……まず1つは魔力が少なくなった時だ――俺様の場合は――
特殊な設定でな、魔力の一部が、“状態維持”に使われる――
状態維持に回す魔力がなくなると、すっげー苦しくなる」
「だったら、アンタが苦しみ出した時――
魔力回復薬飲めば問題ないって事?」
「まぁ大体の場合はそういう事だな。でも! それでなんとかなっても!
俺様は基本的に1日30分しか碧の体は乗っ取れねぇんだよな~
だから、その時間切れになった時も苦しくなる」
「え……? たったの……30分?」
「おいレイナ! 30分なめんなよ? ウル○ラマンの10倍だ!!
すごくね?」
強化データは得意気にそう言った――
「……比べる基準、それで良いのか疑問だけど……
それよりアンタ……発動初日、もっと長い時間暴れてなかった?」
「あぁ☆ あれは創造者の初回サービス♪ あの日の俺様は色んな設定
例外でさ、だから、あの時の俺……テンパッちまってプレーヤー
殺しまくったな! はははっ!」
強化データは笑っていた――
「……何人殺ったの?」
「ん? 確か3人……あっ! これは碧いじめた天罰!!――後の2人は
重傷ってとこかな~。なんつーか俺様、血の色が超好きでさ、本能?
つーか、創造者の初期設定で。見てると気持ち良くって――戦ってる時
――魔力使ってる事もついつい忘れちまうんだよな~それ位好きだ!
大好きだっ! それにあの時は特に『ついに俺様の出番来たぞ~!!』って
感じで――正義の味方の俺様が碧をいじめた奴らを華麗に成敗したぜ!」
強化データはプレーヤー3人を殺した事をドヤ顔で自慢する――
「……碧に酷い事をしたプレーヤーなら仕方ないとして
他の人達が何者かは……認識できなかったの?」
「え? 1人は蓮だろ? アイツは知ってる。創造者の関係者だし……
もう1人は知らねぇな……そいつに関してはデータもらってねぇもん」
「その1人……あの魔導師の子、碧の友達みたいよ」
「マ・ジかよ~!? うわ……どうしよ!? 俺様ショッキ~ング~!」
強化データはようやく自分の行った事の重大さに気付いたようだった――
「……蓮はいいの?」
「蓮の心配までして優しいな、レイナは。でも! アイツは心配いらねぇ!
なぜなら! 蓮だけは殺しても絶対ぇ死なねぇからな!!」
「……は……??」
思いもよらない答えに、レイナは間の抜けた声を出す。
「おおっ! これ、レイナの前では言えたぜ!
俺様は優しいから! この前セーブ使ってなくて内心
ビクついてる蓮にも教えてやろーと思ってたんだけどさ、
創造者がプロテクトってたから言えなかったんだよな~……
ん~なんでだろ……おおっ分かった! この設定知ってたら
蓮は椿に魔力を譲渡してなかったから、かもな!」
一方強化データは――
以前蓮の前では言えなかった事が言えてご機嫌だった。
「……?? その話はどうでもいいとして、
殺しても死なないって……どういう意味よ?」
「ん? あぁ言葉のまんま! アイツは何やっても死なねぇんだよな~
死にかけても常に! HPがギリギリ0.000000001くらいは残る設定に
なってる。だから蓮が死ぬ事は――絶対にあり得ねぇよ」
「それ……本当だとしたら、かなりズルい設定ね……
どうりで最強のプレーヤー、な訳だわ。セーブ使ってなくて
死なないのなら、他のプレーヤーより圧倒的にレベルが
上がりやすくて最強になるのも当然じゃないの」
他のプレーヤーよりも蓮は圧倒的に優遇されている……
そう感じたレイナは思わず――愚痴をこぼす。
「まぁそこは創造者も考えてて、蓮はレベル超上がりにくくして
調整してたり、『家族』だからしゃーねんじゃね?」
「……創造者の家族……それで、私の事も詳しかった訳ね」
レイナは蓮と話した時の事を思い出す――
「創造者は蓮の事大好きだし、蓮も創造者の事大好きで
お互い大事で思い合ってるのにさ……色々あったみたいで
創造者は蓮の事が許せねぇらしい――だから、蓮には結構酷い。
無敵設定があるのも『死ねない』方が苦しい事も――
あるかもしれねぇから、かもな」
「……確かに、一度死んでやり直した方が楽な場合もあるわね」
レイナはそれなりのプレイ歴を持つ。強敵に出会った時、何度かは一度
死んで、レベルを上げ直して、再挑戦する……そんな経験も積んでいる。
しかし戦闘中、苦しむだけで他に何もできない状態が長時間続くとしたら
……? 痛みもリアルであるこの世界、1時間で強制的に魔法が解ける
とはいえ、それは決して楽な事ではないだろう……。
「……って! そんな事より!! アイツ! 碧のダチだったのか!?
それめちゃ気まずいヤツじゃねーか!」
「……大丈夫よ、碧が代わりに謝ってたわ」
「それじゃダメに決まってんだろがぁっ! 俺様直じゃねぇと !!
会わせてくれ! アイツに!!」
強化データは真剣な表情でレイナに訴える――
「いきなりそう言われても……私はあの子の事よく知らないし
碧に頼んで会う日決めてもらうしかないと思うわ……」
「よぉし! 分かった! 頼む碧っ!! 会わせてくれ!!
つーか悪かった!! この前は暴れすぎちまった!!
今度は気ぃ付けるから……俺様の事を許してくれ~!!」
強化データは、自分の身体に向かって叫んでいた……
「まぁ、それはなんとかするにしても……やっぱり不便よね、それだと
……碧に話し掛けるにしても、自分の体に向かってとか……」
強化データは碧の体を乗っ取る事で、動いたり、話したりする事が
できる……レイナや他のプレーヤーが相手の時は問題ないが
碧とは直接話せない……
「確かに、レイナとはこうやって直で話せるけど、
碧には一方的で――レスポンスねぇのは淋しいな」
「強化データだから仕方ないかもしれないけど……アンタって色々
不便そう ね……状態維持の事とか……碧の体乗っ取らないと
こうして話せないとか、自由になれても1日30分とか、
血が好きとか、全部――創造者が設定した通りになるんでしょ?」
「そう、ではあるけど――俺様は――すっげー嬉しいんだ!
碧がいたから俺様は存在できるようになった! それに、こうして
また――レイナが俺様を召喚してくれて話せて楽しいぜ!!」
強化データは明るい笑顔を見せる――
「そもそも――どうしてアンタは作られたの?
始めっから碧の強化データとして作られていたの……?」
「……それは――
ある日、創造者は考えた……元々初期設定で
回復魔法しか使えないRPGキャラがいたら――
それで僧侶キャラの1人を攻撃魔法が使えないように設定した。
そして、そのRPGキャラに当たった者がいたら、
攻撃魔法が使えなくても、そのRPGキャラを使い続けるか――
もしそのキャラを使い続ける者だったら、ご褒美に
最強クラスの攻撃魔法が使えるようにしてあげよう、ってな」
「――それが碧とアンタって訳ね」
「まぁでも、それはあくまで2代目的な存在……元々は“姿を変えて
攻撃魔法が使える体にする”事だけが目的だった……レイナの2代目
みたいなようにな。でも――碧だったから……優しすぎる碧は
攻撃使える体になっても、攻撃魔法を使う事を躊躇うかもしれない
って創造者は考えた……俺様のデータによると、碧って性格的に
いきなり攻撃魔法使え! ……って言っても無理っぽいんだろ?」
「……確かにそうね……」
碧の性格からして、積極的に攻撃魔法は使いたがらない――
「だから、慣れるまでは自動機能で使わせよう! ってノリでさ、発動
させたら“データ”に全部やらせちゃえ☆ ……って感じだなっ!!」
強化データは楽しそうに答えた。
「それで、アンタが……??」
「――正確には、“俺様としての器”が――つまり俺様の中身……
俺様の心――それができたのは、それからしばらく後――創造者の
唯一の誤算だ……データが、“心”を持つ事、なんてな――」
強化データは真剣な眼差しを向ける――
「 ……他のデータは、心……ないわよね……??」
「ああ……基本的にデータのキャラって、こうやって人間と――あんま
会話したりしねぇから、心なくても平気だろうし――ここまでちゃんと
人間と話せる、“データ”は、俺様ともう1人――ロッサ姉位らしい」
「……ロッサ……ああ、ナビゲーターの子ね」
「ロッサ姉には心はねぇけど、俺様みたいに、ちゃんと人間と会話できる
んだろ? ロッサ姉が1番最初にできたらしい……この世界と“人間”
を繋げる為に……」
「……でも、どうして――アンタは、“心”持つ事ができたのかな……」
レイナは静かに黒碧に問う――
「――それは創造者が願ったからだ、俺様には心を持って欲しいってな」
「……それは、願って簡単に叶うものなの? そもそもこのゲームが
実現しているのも、創造者の願いによるものなの?」
「……“願うだけで願いが叶う力”……気まぐれな神様って奴が
創造者に力をやったらしい。それでこのゲーム“BATTLE CHARACTERS”
は実現した……でも“心”を持つ事ができたのは――俺様だけ。
……それはまぁ、奇跡、ってやつだろ?」
「……奇跡……ね……そもそも創造者はどうして、
アンタには心を持って欲しいって思ったのかしらね」
「それは――俺様が楽しいって思えた方が俺様が嬉しいから、
じゃねぇかな! 多分!!」
「そう……
それと、アンタを発動できるのはやっぱり私だけなの?」
「そうだな~初期発動以外はレイナにしかできなくなってるぜ!」
「……創造者はどうして、そんな設定したのかしら……ね」
「――ん~それは……ん~……これは……どうしてだろうな!
俺様には創造者が考えてる事全部はわかんねぇし。
とにかく! これからも俺様の発動はレイナにかかっている!
俺様の為に尽くしてくれ! 責任重大だぜ! よろしくな!」
「――アンタに尽くすつもりはないけど……」
「俺様ふられた!? 俺様ショッキ~ング!!」
「……碧の為にも、適度にって所かしらね」
ショックを受ける強化データに呆れながらレイナはクールに返す。
「おうっ! それでも良いぜ! じゃあ適度によろしくな! じゃあ
そこでだ! 今日は俺様からレイナにプレゼントがあるんだ!」
「? ――何よ、いきなり……」
「レイナ、お前に――この偉大なる俺様に
偉大なる名前を付ける権利をくれてやるっ☆」
「……は……?」
思いがけない、強化データのプレゼントにレイナは唖然とした……。
「――聞こえなかったのか? 今はまだ『★碧君の強化データ★』
だけどさ、俺様の新しい名前の名付け親になる権利を譲渡する!!
もらってくれ!! 名前を変えて名前を付けて保存、してくれ!」
「……それって……権利の譲渡じゃなくて
普通はそっちから頼む物じゃないの……?」
「――え? そうなのか? じゃあ頼む! レイナに頼む!!
……レイナじゃねぇと意味ねぇんだよ……“創造者”以外で
初めて話す人間だし、お前しか俺様召喚できねぇし――うん。
やっぱお前以外にありえねぇっ!
さぁ! ギブミーマイネェ~ム、プリーズ!!」
「……じゃあ片仮名で、“ヒロ”……」
「おおっ! 良い名前じゃねぇかっ!!
俺様に相応しい……って! 速ぇぇぇっ!! 即答かよっ!?」
一瞬で返したレイナに、黒碧は驚いた。
「……何よ? ……不満……?」
「いやいや、もうちょい悩めよっ!! 絶対ぇ今適当につけただろっ!?」
「……適当じゃないわ、ちゃんと考えてた――碧からの頼みで」
「碧……って――今、俺様と体共有してる……?」
その名前を聞き、強化データの表情は一変する――
「そう、碧が――
『“彼”に名前を付けてあげて下さい、
“彼”はデータじゃない、“意志”を持って行動する――
強くて 堂々として 自分にはない物を持つ、憧れの姿――
だから 我儘だとは思いますが、お願いします』 って――」
「マジかよっ!? うっわ……すっげー嬉しいっ!!」
強化データは笑いながら、少し照れた可愛らしい表情を見せる――
「じゃあ今日から俺様の名は、“ヒロ”だっ!
それにしても――なんで、“ヒロ”にしたんだ?」
「……“ヒ”は漢字だと“緋色”の“緋”……
碧の名前が瞳の色だから、アンタも同じ由来にした」
「おおっ! そうか! だったら碧とお揃いか~! 嬉しいぜ♪
じゃあ“ロ”は?漢字あるのか!?意味は!?」
「……一応“露”だけど……意味は――……ないわ」
「“露”……おおっ! 俺様にぴったりだな!
漢字だと“緋露”……画数多くてなんかかっけーぜ!
ますます気に入った! でも意味は――ないのかよ!?」
「……“ヒ”の下で男の名前に続けるとしたらって考えたら
そうなったってだけよ」
「でもすげー偶然! ロッサ姉の“ロ”とお揃いだ!
碧ともロッサ姉ともお揃いだなんて――嬉しすぎるぜ!
レイナ! お前すげぇよ!!」
「……すごくないわ、ナビゲーターデータの子は頭になかったし……
そもそも……露の方は……でも結果的に気に入ったのなら、それで決定ね。」
「本当にありがとな、レイナっ! それと碧っ!!
サンキュー☆ 愛してるぜ~!!」
ヒロはいきなり、そう叫んだのだった――
「……愛してるって……意味分かって言ってるの?」
「……え? 俺様は2人共大好きだから言ってみた!」
「……まぁ恋愛感情的な意味はない、という事ね……
それと、そんなに叫ばなくても……十分聞こえてるわ」
「い~や! これでも全然足りない位だ! この湧き上がるような
幸せを、全身で表すには、な……碧とは感覚共有してるから、
俺様の声、聞こえてるだろ? だったら、大声で言うのが1番、と。
ほ~らやっぱ天才だろ? 俺様っ☆」
「……最後の一言がなかったら、良かったのに」
自分の事を「天才」と呼ぶヒロの姿に、レイナは呆れていた――
「え~? だってさぁ、“データ”で“意志”持ってるの、
俺様だけだし――俺様は特別っていうか……まぁとにかく、
俺様はすごいっ! うんっ!!」
「……確かに……それは 凄いと思うわよ……アンタ、本当に――
“データ”なのよ……ね……本当に――現実の体、とかは――」
「ん? ねぇよ、そんなんっ! そもそも俺様は“存在”自体が
超不安定で――創造者でもコントロールしきれなくて
こうして碧の体を借りる事でなんとか会話はできてるけど、
次もこうしてちゃんと発動されるかどーか――俺様にもわかんねぇ」
「それって……いつ死ぬのか分からないって事……?」
「死ぬっていうか――消滅するって言い方の方が正しいな。
俺様の心はいつか消えてなくなる。
……俺様にとっては“この世界”が全てだ……俺様のデータによると
レイナや碧――“創造者”に、他の“プレーヤー”は
“現実”って所から――こっち来てるんだろ?」
「……まぁ、そうね」
「俺様はデータだからよぉ、きっと知らねぇ事も多いだろーけど、
まぁ……うん。気楽にいこーぜ☆」
「……気楽って言われても……アンタがいつ消滅するか分からない
とか……正直……どう接すれば良いか分からないわ」
レイナも碧も……ヒロは自分達の意志でまたいつも通り、
いつでも、何度でも発動すると――軽く思っていた。
ヒロの命がそこまで短いとは、思っていなかった。
「――どうして、気楽に考えられないんだ?」
「だってアンタは……寿命が短すぎるかもしれないって事でしょ?」
「……まぁ確かに、俺の命は短いかもしれねぇ。
でもさ“現実世界”の“人間”も、いつ死ぬか――わからねぇだろ?
ぶっちゃけ、レイナも碧も――明日も“絶対生きてる”って
自信を持って、言えるのか??」
「……!! 確かにそう、だけど……」
「――それならさ! 同じじゃん!!
おそらく俺様の心は――そこまで長くは持たねぇんだけど、
せっかく今こうして碧の体借りて自由にさせてもらえるんだったら!
楽しまなきゃ損だって俺様は思う!! ほらほら暗い話は
これで終了! 俺様は“今”を楽しむ為に――早速
今から一緒に遊ぼうぜ♪ 俺様とレイナ、それと――碧と!」
「えっ……??」
「俺様と一緒って事は、碧も一緒って事だろ! 楽しめるうちに
俺様は人生……あっ俺様の場合は『データ生』か? うん!
『データ生』を楽しむ! それが俺様の主義だ! 確か俺様のデータに
よれば、戦争の森って所、めちゃくちゃレベル高いらしいじゃねーか!
戦いたくってうずうずしてるんだよ! 俺様い~っぱい倒すから!
レイナにはサポートを頼む!! レイナも強いから期待してる!!
ほら行こう! 一緒に――クエスト楽しもうぜ!」
そう言って――ヒロは楽しそうにレイナの手を引く。
「……全く、強引なんだから……まるで――」
――レイナは思い出す。同じように、強引に手を引かれた時の記憶――
それは中学時代の時の事――
「ほら早く! 一緒に見に行こっ!」
「そんなに引っ張らなくても分かってるわ……
貴女の大好きな――……君が活躍する試合だから、
テンションが上がるのはわかるけど……」
「……!! もうっ絢女ちゃん!!」
「ふふっ……分かりやすいわね、鈴奈は」
今はもう、話す事ができない状況になってしまった
自分がこの世界で「零雫」と名乗るきっかけになった
「親友」と呼べる1人の少女との思い出――
「鈴」から「令」を、「奈」から「雫」を。
大切で大好きな親友の一部から名付けたこの世界での名前。
そして――零の雫……もう泣かない。涙は流さない。
そう、自分自身に課した……そんな理由でも付けた名前。
親友を助けられなかった。それどころか――罪悪感から逃れる為に、
自分の心を護る為に、親友の好きな人を酷く傷付けてしまった。
後から酷く後悔した。今でも――“彼”に謝れなかった事を悔やんでいる。
これ以上悲しい気持ちになりたくない。そして――他人を傷つけたくない。
その為にも――できる限り、他人には関わらない。
碧に借りを返したら、またこの世界でも“1人”に戻ろう。
そう決めていた――その為にも、感情は押さえつけてきた。
だが、その決意が……一瞬、緩む――
「本当に、仕方ない……わね」
……そう零すレイナの表情は――ほんの少しだが、微笑んでいた。




