chapterⅤ reality -現実- Ⅳ
椿が蓮や昂の秘密に迫る!?お話です。
「ハロー☆ 椿ちゃん♪」
「昂さんっ!? ここは一体……」
「僕のお部屋☆ 椿ちゃんは特別にご招待♪ お茶でも入れよっか?」
驚く椿に――昂は楽しそうに答える。
「待って下さいっ! 私……死んだんじゃ……!?」
「ああ……うん。初めてだよね? この世界の……死。死んじゃったら
データ修復中の時間、この世界でクエストに行くのは無理だよ。」
慌てる椿に昂は冷静だった。
「……そう……なんですか――」
「でもこーゆー設定にしとかないとさ、親衛隊の子達もすぐに
生き返って蓮も絶対勝てないし。椿ちゃんだけ特別早く
生き返らせるのもねぇ……まぁでも、レベル低い子の方が
その分早く回復するようにはしてるから、
親衛隊の子達よりは早く復活できるよ♪」
「今、蓮さんはっ!?」
「1番大きなスクリーン」
「あっ……!!」
そこには……一人で戦い続ける、蓮の姿――
まだ多くの敵が残っている……かなり苦戦しているようだった――
いくら実力があっても、体中に傷を受け、所々から血が流れる……
初めて会った時のように……しかし今の椿には……
一人で戦う蓮の姿を――ただ見ている事しかできなかったのだった――
「見てたよ……椿ちゃんが蓮を守ってくれて嬉しかった
……って椿ちゃん?」
「すぐに復活できない事が――仕方ないのは分かっています……
でも早く助けたいのに……何もできないなんてっ……
蓮さんが――苦しむ姿をただ見ている事しかできないなんて……
私が……私がもっと強ければ……!!」
自分が弱いから、守り切れなかった……
そう思う椿の目には、涙が溢れ出す――
「そんな事ない、自分を責めないで。
君はさっき、蓮を全力で、本気で守ってくれたじゃないか。それに
こんなに強く――蓮の事を想ってくれてる――だから、ありがとう」
そんな椿を見た昂は優しく微笑んだ。
「さっきは……何が起こったか分からなかったんですが……」
「ああ……あれね、蓮とのクエスト中に他のプレーヤーに蓮が
殺されそうになった時、蓮の事――本気で守りたいって
思ってくれた時に発動する、瞬間移動魔法♪君の特殊能力として
追加しておいたんだ~あれには――諷君も驚いてたね」
「……知らない間に、そんな能力が追加されてたのですね……
そのおかげで蓮さんはご無事だったよう、ですが……」
「勝手に追加しちゃってごめんね~でも言わないまま発動されたら
それはそれで嬉しいな~とも思ってて、ね。ちなみに条件付けたのは
モンスターに対してとか、蓮とのクエスト中じゃあない時とかも
含めたら……椿ちゃんの命、いくつあっても足りなくなるからね~」
「私は別に構わないのですが……
もしあの時その能力がなかったら蓮さんは……」
椿は――最悪の事態を考える。
今まで一度もセーブを使っていない蓮が命を落とす――
全てのデータが、初期化する……
椿とは比べられない年月をかけて育ててきたデータ全てを失って
しまうような事態……それは蓮にとって、きっと――絶望的な事……
「……それにしても、どうして昂さんは
あの方に蓮さんの居場所をお教えしたのですか?」
一方、椿は――昂に疑問を投げつける。そもそも今蓮が
苦しんでいるのは、昂が蓮の居場所を魔女に教えたからである。
「……そりゃあ綾ちゃんが、蓮に会いたがってたから?」
「――あの方が、蓮さんを殺そうとしているのを知った上で、ですか?」
「そうだよ」
昂は――迷う事なく答える。
「昂さんは……蓮さんの邪魔がしたいんですか?」
「邪魔――はしてないと思うけど? 椿ちゃんも蓮と同じ事言うね~
そもそも君達が考えてる“邪魔”は実際には邪魔にはなって
ないんだよ……蓮も気付いてるけど。」
「……?? でも蓮さんは、色々無茶をされていて……
会う度に危険な目に遭っていると思うのですが……
あの日、碧さんの強化データさんが暴走した時……
蓮さんが碧さんの強化データさんと戦っていたのは、
昂さんのご命令だったからですよね?」
「そうだけど? ああ僕、はたから見たら完全に悪役っぽいかなぁ(笑)
でも君が――心配しなくても、蓮は大丈夫さ、
こんな事やそんな事で蓮は死なないよ」
納得できず不安に満ちた表情を浮かべる椿に――昂は断言した。
「……? 何を根拠に……??
今も蓮さん、大分追い詰められているように見えるんですけど……」
蓮はかなりの数の敵を相手して、あちこちに怪我を負っていた……
「――そもそも、僕が蓮を殺そうと思えば、いつでも簡単に初期化
できるって時点で分かるとは思うんだけど……まぁいずれ分かるよ、
この言葉の意味も……ここは蓮も未だに気付いてないけどね」
「……??」
「とにかくっ! 安心してよ?――それにしても、さっきの椿ちゃん
心広すぎ~! もうあの蓮の浦島トーク真剣に聞いて天然で
マジレスしてくれちゃうなんてね~普通は引く所だよ?」
「え? 私変ですか!?」
一方昂は――綾達の襲撃前の……浦島太郎についての話に触れる。
「あはは、変わってるっていうか、普通の子だったら、いきなり
説教じみた事言ってなんなの!?ってなると思うんだけどな~」
「そうなんですか? うーん……なんとなくですけど、蓮さんは
人生経験豊富そうな気がして……多分私より年上だろうなって
思っているので……そんなに気にならなかったのですが……
そういえば、蓮さんは……浦島さんに何か恨みでもあるのですか?」
「恨みっていうか~まぁ昔っから彼は嫌いだったよ、あの話。
昔読み聞かせた時から女にデレデレして情けない上、家族捨てる
なんて最低!って……浦島野郎って呼んで見下してた(苦笑)」
「……! 読み聞かせ、ですか?」
「まぁ、リアルじゃ家族だし……僕ら」
……その言い方は、今はそれ以上
詳しい部分は話さない――そんな雰囲気もあった。
「……だから、蓮さんと昂さんは……特別な感じがしたんですね」
「――昔っからひねくれてたけど、昔の方が可愛げあったな~
僕の事も素直に大好きだって言ってくれてたし♪」
「……リアルの蓮さんに、そんな頃があったのですね……」
「大好き」……その言葉は、今の蓮の口からは
到底出てこないと感じる単語だった。
「まぁ好き嫌いははっきりしてるけど、好きなものは好きでちゃんと
好きって主張できる子だよ。彼の事は昔っからよ~く見てるし
彼が生まれた時からずっと一緒に暮らしてるから、色々知ってる。
彼も彼で現実で色々苦労してるし我慢してるから……浦島太郎
みたいに現実逃避ばっかりしてる人達は許せないって感じで
まぁその辺りは共感できる部分もある。僕はそこまで嫌ってはない
けど、彼的には今も昔話の中で嫌いな登場人物No.2ってトコかな」
「No.2……ですか、ではNo.1は……?」
「椿ちゃんと正反対な感じのお姫様。」
「……私と正反対、ですか? それって――」
「……君もよく知ってる、お姫様さ」
「……??」
お姫様、といえど――お姫様が登場する物語は数知れず……
椿には検討もつかなかった……
「僕的にはね~椿ちゃんは……白雪姫っぽいと思う♪」
「……!? それはありえないです! 私そんな美女じゃないですし」
白雪姫と言えば……その美しさをお妃様に妬まれ、殺されかけた事が
あるお姫様だ。その姫の名前を出され――椿は全力で否定する。
「ん~僕は椿ちゃん、可愛いと思うけど?」
「……お世辞でも、ありがとうございます……でもどうして……?」
「だまされて毒リンゴ食べちゃいそうな純粋さとか、小人に尽くして
くれてる所とか? でも椿ちゃんだったらさ~おばあさんから
毒リンゴもらってもすぐに食べないで……おいしそうなリンゴ
独り占めしないで――小人達の為にリンゴ料理作ってて、その
味見の時にポックリ~って感じかもね(笑)っていうか、そもそも
タダでリンゴ受け取らないか。魔女にもリンゴ料理くれそう(笑)」
「……私、だまれされやすいかもしれないとは思いますが……
純粋ではないと思います……でも――やはり自分に住む所を
提供してくれる小人さんや おいしそうなリンゴをくださる
魔女さんにはお返しはしたいと思います!!」
そんな昂の戯言にも――椿は真面目に返した。
「あはは♪ やっぱり君は白雪姫みたいだよ(笑)
ちなみに僕は――悪役絡みか、浦島太郎の亀って感じ?」
「昂さんが……亀、ですか…?」
前者に関しては――正直、否定する気持ちにならなかったが
後者の亀の部分には疑問を抱き、昂に聞き返す。
「まぁ……この世界は、大半のプレーヤーにとっては現実逃避できる
『竜宮城』みたいな感じかもって思ったりもする。僕は――
その世界に誘ってるからね~。まぁでも無制限に遊べちゃったら
浦島太郎みたいな事になるから、1時間で強制終了、だけど」
「……大半のプレーヤーさん……確かに、私が出会ってきた
プレイヤーさん達は、それぞれの形で……この世界を楽しんだり
嬉しそうにしていらっしゃいます……」
このゲーム、BATTLE CHARACTERSが竜宮城のような所……
そう聞いた椿の頭に、今まで関わってきたプレーヤー達の姿が浮かぶ。
皆、現実世界で――それぞれに抱えている物があるのかもしれない。
でも、この世界では――
技が決まってモンスターを倒せて楽しそうな桃、
桃との戦いを心から楽しんでいる竜、
大好きな人と一緒にいられて幸せそうなリア、
他プレーヤーの最大体力を上げて、喜んでもらえて嬉しそうな碧……
現実世界で傷が残らないとはいえ、痛みは本物……
でもそれ以上に、彼らは嬉しそうで、楽しそうだ……
そんなプレーヤー達の姿を思うと
今まで抱いてきた疑問も自然に膨らんでくる――
「でも……でも蓮さんは違う……! このゲームを楽しんでいる
ようには見えない……蓮さんにとっては、この世界は竜宮城
なんかじゃない……!何か……大切な目的を果たす為に、ただ
苦しみ続けているようにしか見えない……どうして蓮さんは
この世界で戦い続けて、強くなろうとしているんですか?」
「……!!……聞いてくれて、ありがとう。
やっぱり、あの時君にコインを託して正解だった」
「え……?」
求めていた答えとは違う、予想外の昂の返事に戸惑いながらも
椿は蓮に初めて会った日を思い出す――蓮に出会う直前に現れた、
片目を隠した美しい青年……一言だけ漏らした
『君に彼の良きパートナーになってくれたら、って』
……その言葉――「彼」とはやはり蓮の事――
「!! ……やっぱり貴方はあの時の……!! でも――」
その姿は昂の姿とは全く異なる――
外見的特徴は……あの時の青年と似ても似つかない。
「……まぁばればれだったと思うし、別に隠し通す必要もないしね。
見掛けは全く違うけど、あれが現実世界の僕――
そもそも現実世界で、そっくりそのままなのは――椿ちゃん位だし」
「ですよ、ね……桃ちゃんも違う姿になるし……
蓮さんも……違いますよね?」
「……瞳の色も髪の色も違う――髪ももちろん短いよ……」
昂は――静かに答えた。
「やっぱり……別人なんですね」
「……椿ちゃんは、RPG化――別の姿の方が良かった?」
「……正直……変身できるなら、もっと違う姿の方が良かったと
思います……でもどうして……初対面だったはずなのに――
あんなそっくりそのまま……?」
「……僕、2年位前にも椿ちゃんの事――見た事あるんだっ☆
椿ちゃんの――知らない間にね」
「えっ……?」
「……“ほたる”ちゃんのお兄さんって、今はどうしてるの?」
「……!? どうして昂さんがその事っ……!?」
椿は、その少女の名前を聞き戸惑う――
それは2年程前に椿の家の神社に訪れた、小さな女の子の名前だった。
「君がほたるちゃんを泣き止ませた姿を見ていたからさ、
それで、お兄さんは?」
「……足に後遺症が残ったようですが、回復されているそうです」
「それなら良かった。
……僕には、そこまでの事は分からなかったから……」
「……なんというか、昂さんは、なんでもお見通しというか……
あらゆる事を知っているように感じるのですが……」
椿は――思い出す。
初めて現実世界の昂、ゲームの世界の昂と会った時の事……
「綺麗な人だなぁ……何を祈ったんだろう……」
「君が――“彼”の良きパートナーになってくれたら、って」
「……それはそうと、君は――どうして此処にきたの?
……やったぁ♪ 蓮に会いたいから、かぁ☆」
昂は――椿が口に出して聞いていない疑問に対して返事をし、
椿が口に出して答えていない事に対しても
椿の心を見透かしたような口ぶりだった。
「……それは、僕は――人の心の声がわかっちゃうから、ね……
この世界が『行きたい』場所に行けたり『使いたい』魔法が
使えるのは心を読み取れるシステムの応用で、僕の力のほんの
一部を利用したもの……まぁ全部が全部って訳じゃあないけど」
「……そもそも昂さんはどうして、そんなお力を……?」
「――僕が願ってしまったから、だろうね……
あの時――"彼"の心を見抜く事ができたら、って」
「……願う事だけで、叶うものなのですか?」
「気まぐれな神様が、僕に力をくれた……そんな感じさ。
もしも誰かの願いが――思うだけで叶ってしまったら……
そんな世界は怖いと思うけど、それが実際に起こって
しまった……それがたまたま僕だった、きっと“今回”は。
……まぁそれだけで納得してもらえるとは思わないし、
なんで僕になったかは僕自身も分からないけどね。
――あの時は……ごめんね、君の心を勝手に覗いて」
「あの……2年前の時の事は……どこから、ご存じなんですか?」
「――最初に君が泣いていた所からだよ」
「……軽蔑、しなかったのですか?」
“その時”の事を最初から――知られていた。
その時に抱いていた自分の気持ちを――思い出す。
「……自分より大きな不幸を背負ってるって感じた人間を目の当たり
にしたら、自然な感情だったと思うけど? それと――さっきの
質問の答えだけど、その時君が嫉妬した――“あのお姫様”が
蓮が1番嫌いな、君と正反対の“お姫様”……」
「……!!」
椿は――思い出す。蛍と話す前に、自分が抱いていた気持ち。
そのお姫様に嫉妬してしまった理由……自分が美人だったら――
あんな気持ちにはならなかったのではないか?
――恥ずかしい気持ちも辛い気持ちも抱かなかったのではないか?
それは封印していた気持ち――自分の中の黒くうずまく気持ち。
自分を必要以上に卑下するきっかけになったその日の事――
「ごめん……嫌な事を思い出させて……でもね、それ以上に君の心は
温かかった。君は蛍ちゃんに気付いてすぐに――蛍ちゃんを
慰めていた。初めて会ったほたるちゃんのお兄さんの無事を心から
祈っていた……その時から、僕は決めていた。いつか君と蓮を――
関わらせたいって」
「そんなに前から……でも、私と蓮さんが関わる事で――
正直、蓮さんや昂さんにそんなメリットはないと思うのですが……」
「そんな事ないよ。君と関わる事できっと――蓮も変わってくれると
思うんだ。自分よりも他人の事を大事にして、優先できる君と
関わる事で、ね。そして――僕はね、蓮にもこの世界を楽しんで
ほしいって思ってる……まぁ僕が楽しく遊ばせてあげれていない
原因にはなってしまっているけど――昔色々あったから……
ありすぎたから、今はあんな感じだけど、彼が僕を大切に思って
くれているように、僕にとっても大切な存在ではあるから……
だから……ねぇ椿ちゃん、彼がこの世界を楽しむには――
どうすれば良いと思う?」
「どうすれば、ですか……? えっと……そういえば蓮さんって
今レベル、どうなってるんですか? もう既に最強だと思うん
ですけど……レベルが高すぎると、あきてしまっている、というか
どのエリアも簡単にクリアできてつまらないと思うんのですが……」
「今でMAXの半分くらいだよ」
「え?半分……?? あれだけ強くてですか!?」
強さに反して最大の半分のレベル――その話を聞いて椿は耳を疑った。
「蓮はレベルの上がりやすさで言えば、最低クラスに設定してるしね」
「蓮さんが最低……?」
「まぁ、僕が『そう』設定したから――仕方のない話……蓮も1日
1時間しかプレイしてないけど、僕の次に生まれたRPGキャラ
だから、他プレーヤーよりプレイ歴長いのと……セーブ使わないの
とでカバーしてるのさ。ちなみに椿ちゃんはレベルの上がりやすさで
言えば最強クラスなんだよっ♪」
「えっ……!? そうなんですか!?」
「うん、だから始める時期が遅くても……例え1日1時間しか
できなくても――本気で頑張ったら……蓮に近付けるよ。」
「そうなんですね……!では1時間でも気合いを入れて頑張ります!
他は……目に見える成果、とかあったら……と思ったんですが……
例えば、ゲームでレベルが上がったら嬉しくなると思うんですけど
このゲームって自分のレベル上がったかどうかって
分からないんですよね……」
「ああ、そこね~このゲームはその辺りは基本的に数値化しない方針
なんだ~その方が現実っぽくて面白いかな、とも思うしね。
まぁ強制イベントとか必要になる時は出るようにしてるけど」
「……というか、そもそも蓮さんって
どういうゲームがお得意だったりお好きなんですか?」
「んーまずロープレは、ちまちまレベル上げるの面倒だって
言ってやらない(笑) 好きなジャンルは音ゲーかなぁ。
僕の代わりにレベル上げ手伝ってもらってたりもするし(笑)」
「蓮さん、音楽系ゲームもされるんですか?」
正直意外だと感じたジャンルを挙げられ――椿は聞き返す。
「ああうん、手さばき指さばき結構すごいし(笑)歌も上手いと思う」
「歌とか歌われるんですね……」
「他は……格ゲーとかシューティングとかはまぁできる方。
後はパズルゲームも得意かな~
頭はいいからパズルとか問題解いたり系は結構得意だね。」
「だったら、そういう要素をこのゲームにも取り入れるのは……」
「それは却下♪」
「ええっ……どうして――」
「だってそれは他のゲームに任せるし、それを超えるの
僕が作るの無理だしパクリかよ!って怒られそうだしね~(笑)」
「……ではどうすれば……??」
自分が思い付く事は言ったつもりではあるが――
なかなか蓮を楽しませるアイデアは浮かばなかった。
「色々考えてくれてありがと☆
でもね~僕が頑張らなくても もっと簡単な事があるんだよ!」
「もっと簡単な事、ですか……?」
「椿ちゃんが蓮を楽しくしてくれたら良いんだよ♪」
「えっ……!?」
「椿ちゃんに、なってほしいな~
浦島太郎を楽しませてくれていた――乙姫様みたいに♪」
「おっ……乙姫様だなんて、そんな……私には役不足です、
そもそも蓮さんは……」
蓮は――明らかに男尊女卑、女性不信を絵に描いたような人間だ……
そんな蓮を――楽しませる自信はない……
「ああ、あの筋金入りの女嫌いはね~小さい頃からなんだよ。
女性そのものを軽蔑しちゃうのは……まぁ家庭環境的にも
仕方ないっていえば仕方ないんだけど、
剣道の師匠の影響も強くて、ああなっちゃってるんだよねぇ……」
「……蓮さんは現実世界で剣道をされてるんですね」
「元剣道部で副部長もしてた。……強い選手だったよ」
「ぴったりですね……それでそのお師匠さんが――」
「康さんっていう、男尊女卑の塊のような人」
「え……? 昂さんと同じ名前ですか?」
師匠の名前も、今話している彼も――“コウ”、椿は聞き返す――
「……まぁ僕が”コウ”って名乗ってるのは――由来的には彼だけど、
リアル蓮の師匠は健康の康で“コウ”。康さんに関しては――
僕や――蓮の名前の由来になった人も、どうにかしたいって
思っていたり、思ったりで」
「蓮さんにも由来になった方が……?」
「うん、漢字は『清廉潔白』の『廉』……もう、数年前に
病気で亡くなってしまっているけれど、“僕達”にとって
とても大切な人だったよ」
「……そう、なんですね……」
亡くなった……そう聞いて、言葉に詰まってしまう――
「僕はね――その人と約束をしたんだ。僕がその人の願いを叶える、
と。その人の願いは――僕の願いでもあってね。
椿ちゃんにも協力してほしいなって」
「? その願いって――??」
「リアル蓮に、恋愛を教えてあげて、って♪」
真剣な椿に対し――昂は楽しそうに答える。
「!!? そんな願いなんですか!?
って……私全然役に立たないと思うのですが……」
「そんな事ないよ。僕的には――リアル蓮にお見合いとかじゃなくて
ちゃんとした恋愛をしてほしいって思ってるし、その人もまぁ……
リアル蓮の将来について色々心配してたからさ~僕の場合は、
魔法のゲームを使ってかなり強引な方法取ってるけどね~。
……まさか、彼は僕がこんな事できるようになるだなんて
夢にも思わなかっただろうし、今も生きて話ができてたら――
びっくりしてるだろうね。ちなみに! 普通のゲームの性別って
選べるけど、この世界では――現実世界でも恋愛が
成立するように、性別はランダムにならないようにしてるんだ。
僕は他の人にも恋愛楽しんで欲しいなって思ってる♪
あっでも もちろん僕は同性同士の恋も応援してるから、
その時は――愛で性別の壁をぶち破ってほしいけどね!(笑)」
「……私が蓮さんを好きになっても、蓮さんが私の事を好きに
なってくださる事はないでしょうし、恋愛は成立しないと
思うんですけど……」
「ううん、きっと――椿ちゃんなら蓮、落とせるよ!
さっきも蓮照れさせてたしね(笑)」
「……その自信はどこから湧いてくるんでしょうか……」
「……椿ちゃんみたいな子、蓮はなんだかんだで放って
おけないよ。自分の事後回しにして、相手立てれる謙虚な子。
それと自分の利益考えないで動ける所とか。まぁ椿ちゃんを
選んだのは、色々あるけど――やっぱり、君を選んで正解だった。
蓮の事心配して責めないでいてくれて……本当に、ありがとう。
……話そらしまくって、ごめんね? じゃあこれから椿ちゃんには
――特別に教えるよ。蓮がこのゲームの中で戦い続ける理由。
それはね……僕にしか――叶えられない願いを――叶える為……
昔僕は――彼に約束した、このゲームの“あるエリア”を
クリアできたら、僕は君の願いを叶えるって。そのエリアは
レベルMAXが必須条件だから――ずっとレベルを上げ続けてる」
「……願い……?
それは――昂さんだけにしか、できない事なんですか?」
「……そうだね。彼が欲しがっているのは僕の気持ち、だから」
「昂さんの気持ち……?」
「……僕は、彼の事が大好きだ。……子供の頃から
ずっと一緒の大切な“家族”……僕の、唯一の…
でも――あの時から、僕は彼を許せない……だから……」
そこで、 昂は言葉を詰まらせ――真剣な眼を椿に向けた……
「椿ちゃんには、蓮の純粋な気持ちを……穢して欲しい」
「……? どういう意味ですか? ……蓮さんの気持ちは
――純粋な気持ちではいけないのですか……!?」
蓮の純粋な気持ちを否定する昂の言葉――椿は思わず、声を上げる……。
「……“あの時”彼が抱いた気持ちは――純粋すぎた。今もそう。
だから僕は――彼を許せない。すごく単純な事、なんだよ。
僕は同じ気持ちを――ほんの少しでも、別の方に向けてほしいって」
「別……ですか……??」
「彼にとって“彼女”が憎しみの対象になる事は仕方ない事だとも
思っている……でも……あんな事があったら……あんな事をしたら
……少しでも……ほんの……ほんの少しでも……抱いて欲しかった
……今からでも遅くない……!!――でも、今の彼は理解しよう
とも思っていない。僕はそれが許せない……変わらない、
彼の心がとても哀しい……僕は気付いて欲しいんだ……
こんな方法を使わなくても、元々すごく単純な話だったって事。
この世界で戦い続ける事に意味があるのか……それは蓮自身も
気付いている……でもこのままじゃ心の底から――僕も蓮も
納得できる“終わり”にはできない……けれど、蓮が椿ちゃんと
接する事で――良い方向に変わるって――僕は信じてるよ」
「……よく……分からないのですが……昂さんは……何が……狙い
なんですか……? 私はっ……どうすれば良いのですかっ……?」
「……簡単な、事だよ……蓮の事、見ていてくれたら……一緒に
いる事で、きっと――蓮の戦いを――終わらせる事ができる……
君にしか頼めない、蓮を……蓮の心を、救ってあげて……!」
一方でスクリーンの中の蓮が、魔女以外の者を倒し終える――
だが蓮の体は、大きく傾いた――
「蓮さんっ……!!」
「……おしゃべりは、ここまでだね――おめでとう!椿ちゃん、
復活の時間だよ! ――じゃあ頑張ってね♪ 頼んだよー☆」
先程とは一変した明るい口調で、昂は椿を送り出す……
「……!!」
周りの景色が瞬時に戻る――昂の部屋は完全に消えていた。
「昂さんの言葉……どういう意味なの……? 私が関わる事で
蓮さんの気持ちが穢れる……?? 昂さんはそれを望んでいる……?
それは良い事なの…?悪い事なの…?? 昂さんは蓮さんを許さないって
言っていたけど……蓮さんは昂さんに一体何をしたの……? 分からない
……でも……でも……今はとにかく……初期化なんてさせない……!
頑張っている、苦しんでいる蓮さんを放っておけない……
これまで積み上げてきたもの、なかった事になんてできない……!
だから急がなきゃ……!」
多くの謎を秘める、昂の言葉――その意図が気になって仕方ない……
でも今は蓮の事を助けるのが先決――椿は蓮の元へと向かった――
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一方で、昂は思い出す――
「俺を許してくれ……許してくれ……!!」
それは――現実世界の蓮に、かつて自分が何度も言われた言葉。
彼の罪が原因で失明した、戻らない左目――
その現実を目の当たりにした彼は、現実世界の昂に何度も謝っていた。
「もう……もう……それ以上謝るな!!
それ以上謝ったら――僕は君を一生許さない」
痺れを切らした、現実世界の昂は――かつて、現実世界の蓮に
そう言い捨てた。それから――彼は謝れなくなった。謝る行為
そのものに――抵抗を抱くようになった。そして――能力を得た後、
現実世界の昂は蓮に約束した――魔法のゲームの特定のエリアを
クリアする事ができたら、彼の願いを叶える事。
それはまるで――求婚された、美しいお姫様が彼に課した、
伝説上の生き物が持つ、宝物を探す事と同じ事……。
――きっとこれは馬鹿げた茶番。けれど、彼自身も
その真意を分かった上で――戦い続ける事を選んでいた。
「いつか、椿ちゃんには――知らせないといけない。
残酷な彼の罪を……過去を……君の為にも、君を突き放そうと
する態度は変わらないだろうけど、多分もう彼は、自分からは
言い出せなくなる……ごめんね……でも、君には――その事で
最初から彼を否定的な目で見て欲しくない……僕は彼が
大好きだから、彼には……幸せになってほしいから……
僕と雪華では”できない”事も……君達だったら、できるから……」
蓮の元へ急ぐ椿を見つめながら、昂は呟く――
「“蓮”……今は――意地悪して、ごめんね。でも……あの時は
僕の左目だけですんだけど、僕の気持ちが理解できるまで、
雪華を本気で殺そうとした君には――それ相応の意地悪は
させてもらう……でも、僕の気持ちを理解できたら――もう、
終わりにできるから……その時はもう、僕に償おうとする必要
なんて……罪悪感を抱き続ける必要なんて……なくなるんだよ……」
瀕死の重傷を負っている蓮を見ながら――昂はそう呟いた。
そして考える――過労がたたって病死してしまった、
自分達の家族……“蓮”の名前の由来になった人……
「僕が名付けた蓮って名前――貴方の”廉”からもらった名前
……貴方の遺言、僕が叶えて見せるから――僕も心から、望む事
だから――『彼』に恋愛を教える――…さん、僕が代わりに
叶えてみせる、貴方の遺言を叶えたら、いつの日か――康さんも
変わってくれる……最期まで、気に掛けていた貴方のたった一人の…、
僕にとっても同じ存在の……僕はその願いを――椿ちゃんに、託すよ」




