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prologue

「――今日はいくらもらえるかなぁ……」


9月も終わりに近付く、ある日の放課後――

眼鏡をかけた巫女装束の娘は、のんびりと……そう呟いた。


このお話の主人公の1人、妃宮椿ひめみやつばきは……

すっかり習慣化した、家の神社の掃除をやっていたのだった。

その目的は、単純にお金目当てである。

修行に出ている姉の桜に代わって境内を掃除する事で、祖母からお小遣いが

もらえ――次のイベントの同人誌を買う資金にしようという魂胆だった。


「お掃除するだけで、お小遣いがもらえるなんて

 家が神社で本当に良かった~♪」


心の中で、そんな事を思っていた、その時――

彼女に近づく、一つの影……


「こんにちは」


突然現れたその人物は……青紫色のセミロングの髪、顔の左半分を髪で隠し

スーツを着ていた。小柄な体格、女にも見間違えてしまいそうな容姿の青年――

彼は椿と目が合うと……軽く一礼し、微笑んだ。


「あっ……こんにちは」


椿も一礼すると――彼は賽銭箱の方へと進んで行った……

賽銭を投げ、手を叩き、真剣な様子で――手を合わせた。

椿はその一連の動作を背後から見つめる――


「綺麗な人だなぁ……何を祈ったんだろう……」


そう、椿が思っていると、

一連の動作を終えた青年がこちらを振り返ろうとする――


「って! そんなにジロジロ見てたら失礼だよ私!」


そう思った椿は慌てて、再び掃除を始めた。

青年が椿とすれ違う――その瞬間、彼は囁いた――……


「君が――“彼”の良きパートナーになってくれたら、って」

「……えっ!?」


椿はその言葉に反応したが、

振り返った時には、彼はもういなかった――


「今の気のせい……? “彼”って一体……? って……!?」


そう思った瞬間――椿の目の前に、血塗れの剣士の姿をした

コスプレイヤー(?)が降ってきたのだった……


「……っつぅ……」


椿の目の前に降ってきた少年――切れ長の瞳で、水色のマントを身に纏い、

足首まである長い銀髪を後ろで一括りにしていた……彼の美しさに、

椿は思わず見とれてしまった――だがしかし……


「きゃあああぁぁぁ~!!?」


椿は悲鳴を上げた……当然である。

その血は、間違いなく本物だった……いくつもの傷――

そして左手で押さえている腹部からは……止まる事なく、血が流れていた――


「きゅっ……きゅきゅきゅきゅきゅっ救急車救急車ぁ~!!」


椿はとにかく、剣士を助けようと家に駆け込もうとした――が……


「待てっ!? お前っ……俺が……『見える』のか……!?」

「……?? そりゃ見えるから助けようと……」

「今の俺の姿は……『普通の人間』には――見えていない……!!

 声も聞こえていない……!!」

「えぇぇっ!? じゃっ……じゃあ

 どうすれば貴方を助けられるのですかっ!?」


椿は必死で返した――……


「……見ず知らずの奴を……助けてくれるのか……?」

「当然ですっ! 見殺しになんてっ……できません!!」

「じゃあ……コインで変身っ……」

「えっ……?」


辺りを見ると、境内の賽銭箱の上で――銀色に光るコインがあった――


「……これ……??」


椿は走る――そして、それを手に取った瞬間――……


「きゃっ……!!?」


目映い光が椿を包む――そして、先程剣士が言った通り変身――……!!






……かと思いきや……


「……あれ?」


どういった訳か、椿の姿は――先程と同じ、巫女のまま。

全く変わっていなかった……


「なっ……全然変わってねぇ!?」


これには少年も驚いていた……。


「どっ……どういう事ですか!? 全く変わってないんですけど!?

 変身って……○ーラー○ーンとかっ……○リキュアとかっ……

 そーゆーのじゃあ……!? ……夢見た椿のバカーっ!!」

「そんなの知るか……! こーゆー時に限ってバグったのか!?

 普通の奴なら……“RPG化”できるはずっ……」

「見つけたぁっ♪」


数秒前までは、変身モノを夢見ていた椿が落胆する中、

上空から聞こえた声の先には――箒に乗った、魔女の姿……

ピンク色の露出の激しい衣装に、何故かウサ耳。

椿とは対照的に細いウエスト+巨乳……


「ゆー事聞かない悪い子はぁ~おしおきしちゃうんだからぁっ!!

 絶対逃がさないよぉ♪ って……何その子? もしかして仲間ぁ?

 超弱そ~!!」

「なっ……仕方ないじゃないですかぁっ!

 “アールピージーカ”?? ……とかなんとか知らないけど……

 まだ変身もしてない生身の人間なんですからぁっ!!

 もう一度っ……ってあれ? ……さっきのコイン消えてる!?

 えええぇっ!? どっ何処に~!?」


先程手に取ったはずのコインは、何故か消えていた――……


「コインが……なくなった……だと!?

 ……まさか……じゃあ……本当にその姿がお前のっ……!?」

「おしゃべりはそこまでよぉっ!! くらいなさいっ!」


そして、魔女の持つステッキから――少年目掛けて光の矢が降り注ぐ――……


「ダっダメ~っ!!」


椿はとっさに、身動きの取れない剣士の前に出た――

どうすればいいかなんて全くわからない……でも――

ただ、守りたい……助けたい――……!!


その瞬間、何が起こったのか――分からなかった。

気が付くと、椿の目の前には魔法陣――


「何……? ……これ……?」


光の矢は魔法陣に触れると、反対方向へ――つまり、


「なっななななな~!!? きゃああああぁぁぁっ!!」


光を放った張本人、魔女目掛けて飛んでゆく――


「○×△□?~っ!!」


避けきれなかった魔女は、妙な奇声と共に……どっかん。


「いったぁぁ~い!! 私の美貌がぁぁぁっっ!!

 つっ……次は絶対負けないんだからぁ~!!」


煙が晴れた後……ボロボロになった魔女はそう言い残し、消えてしまった――


「やった……の……? でも消えちゃった……??

 って!? それよりっ……大丈夫ですかっ!?」


血塗れの剣士の元へと向かう――


「っはぁっ……はぁっ……うぅっ……」


虫の息の剣士の姿――先程と変わらず、流れ落ちる、血――……

今すぐなんらかの処置を取らないと、確実に息絶えそうだった――……


「……自業自得……か……さっきの奴も……俺も……

 これで――ゼロからやり直し、か……

 くそっ……こんな事になるなら――……使っとけば良かった」


少年は、そう呟いた――


「え? それよりっ……どうすれば……」

「……もう、何も……しなくていい……

 この傷じゃあ……もうすぐ――死ぬからな……」


慌てる椿に対し、少年は自分の運命を悟っているようだった――


「そんな事……言わないで下さいっ……!!」

「……さっきはサンキュ……また……逢えたら……

 その時は――絶対ぇ……借り……返す……から……」


少年は、かすかに微笑む――


「ダメっ……死なないでっ!! ……って……??」


椿の手から白い光――それを剣士の傷口にかざすと、

傷が塞がり、それどころか、血塗れの服の血が消え、

破れた箇所も何事もなかったかのように修復した……

そして、少年の顔色は、みるみるうちに良くなった――


「何これっ!? 傷がっ……それに服もっ……!?」

「嘘……だろ……? 一瞬で……?」


これには、二人共、驚きを隠せなかった……


「え? あのっ……大丈夫……ですか……?」

「ああ、完治した……でも……やっぱり……『創造者』の……?」


傷は治ったものの、剣士は微妙な表情――


「良かった……!」


椿は満面の笑みを見せる――……


「……!」


それを見た剣士は、一瞬表情が止まった――


「……? どうかなさいましたか……?」

「……まぁいい……何も知らねぇみたいだし……

 創造者の差し金でも……本気で助けようとしたみてぇなら……」

「何言ってるんですかっ!?

 困っている人を本気で助けるのは……当たり前ですよっ!?」


常識だと言わんばかりに、椿は言い張った。


「……そう、か……俺は――……なのに」

「えっ……??」

「……なんでもねぇ……にしても……何か礼をしねぇと……」

「そんな……お気になさらないで下さい!

 私も自分でも何をやったのか、よくわかりませんし……」

「とりあえず――あれだけ強力な回復魔法

 使ったなら……魔力回復アイテムが無難か」


そう言って、剣士は右手の平を上にする。


「……!? なっ……なんで出てこねぇ!? まさかバグか!?」

「へっ……??」

「……こうなったら次は……金出てきやがれっ……!!

 ……これも出ない……? 仕方ねぇ……他に使えそうなやつ……

 これも出てこねぇだと!?

 ……ちょっと待て……どうなってるんだ!?」


剣士は何かを出そうとしているようだったが――

出てくる気配は全く見られなかった。


「まさか……『意図的』な……バグ……??

 ……『アレ』をしろという意味か!? そのつもりで……!?

 でも『アレ』は……! くそっ……創造者の野郎っ……これが狙いかよっ!?

 くっ……けど……これだけの事をしてもらっておいて……

 何もしないのは……俺の道理に反するし……」

「えっと、その……本当にお礼なんて私は……」

「……だから、お前が良くても俺が良くねぇって言ってんだろ!

 ……とにかく、今の俺に1つだけできる事がある……

 『それ』さえすれば、俺は道義を貫く事ができる……

 てめぇに対して貸し借りなしにできる……!! 

 だから――ちょっとツラ……貸してくれ」

「えっ……!? んっ……!?」


焦る椿を気にせず、剣士はそっと目を瞑る――……

椿の頬に手を添えて、彼が行った事――

それは……紛れもない、口付けだったのだ……

そして数秒後、唇を解放した少年は、赤面する椿にこう言った――


「照れるな……こうしねーと魔力譲渡できねぇんだよ……」


冷めたような口振り、だが――頬は赤かった。彼も当然照れていた――……


「……強引だったけど……これで貸し借りゼロだからな……!」


そう言って、彼は消えていった――呆然とする、椿を残して――……


「……えぇっ!? ちょっっと待って下さっ……いない……!?

 消えた……!? どうなって……!?」


椿は訳も分からず、混乱していた――


「……♪」


一方……木の陰から、そんな椿の様子を見る一人の少年の姿――

コートを羽織った悪魔の少年は――楽しそうに、笑っていた――……

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