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chapterⅣ mind -本心- Ⅵ 

気まずい空気の椿&蓮の前に あの子がやって来て話を進める お話です。

「……てめぇ……いつまでそこに突っ立ってるつもりだ?」

「――それは……ここにいちゃ……いけません……か……?」


碧とレイナが去った後――激しく拒絶したにも拘わらず、

自分の前から去ろうとしない椿を蓮は睨む……。

椿は――蓮の言葉に従い、何もする事はできなかったが……

せめて蓮が回復するまで、他の敵が来ないようにと見張っていた――

回復途中の蓮を戦わせたくなかったから……


「俺の視界からさっさと消えろ」

蓮はきっぱりと、冷たい口調で言い放つ――

「でも今、敵が来たら……」

「……俺をなめてるのか? ……俺がこのフィールドの

 雑魚モンスターや他プレーヤーにやられるとか思ってんのかよ?」

「そういう訳じゃ……

 ただ、今……蓮さん……怪我していらっしゃるから……」

「この程度の傷……もう慣れたぜ……

 平和ボケしてるてめぇには わからねーだろーがな。

 俺の事はてめぇには関係ねぇ……だから、とっとと消えろ!!」

「っ……でもっ……」

「……何だよ? まだ何か言いてぇのか!?」

蓮は鋭い眼をして、椿を睨みつけた――

そんな蓮に怯えながらも、震える声で……椿は口を開く――


「……私……先日貴方にお会いして――あの時の事、嬉しくて……

 もう一度貴方にっ……お会いしたいと思ってたんです……!!」

「……お前は、もう俺にとっては他人だ……てめぇの事なんか

 知ったこっちゃねぇ……あの時の事は忘れろ……アイテムも金も

 出せなくてどうしようもなかったからしたにすぎねーんだ……

 俺も……落ちたもんだぜ……だから、あの時俺は――

 もう一度、決心した……!! もう二度と……他人の力は

 借りねぇ……!! アイツにどんなに邪魔されようが……

 絶対ぇ俺は、一人でクリアしてやる……!!

 でなきゃ意味がねぇっ……もう俺に関わるんじゃねぇ!」


蓮がそう、叫んだ瞬間――


「はいはい、ストップストーップ!」

「げっ……貴様……」

「……貴方は……あの時の――!!」


明るい幼い子供の声――と共に現れたのは、小さな槍使い……

それは以前、椿が助けたヒトモドキを槍で一刺しした、

蓮と似たデザインの少年だった……そして少年は、笑顔で椿を見る。


「あっ、やっほ~☆ この前は怒らせちゃってごめんね~

 自己紹介、まだだったね……僕は――“創造者”の“コウ”。

 管理人、みたいな感じかな? あっ……ちなみに漢字は~……

(スバル)”から1本引いた、“昂”だよっ☆ よろしくね、椿ちゃん♪」

「え? あ、はいっ……よろしくお願いします……ってそれより……あの、

 どうして……私の名前……それに……お二人はどういうご関係で……?」


「えへへっ……それは管理人だし当然♪ そして蓮との関係は秘密~☆」

「おいっ! なんでてめぇが此処にいるんだっ!

 何しに来やがったっ!!? 大体てめぇはいつも身勝手すぎるだろっ!?

 今日だって死にかけたぞ!?

 てめぇは……いつもいつも俺の邪魔ばっかりしやがって……!」

楽しそうに話す昂に対し、蓮は勢い良く怒鳴る――

「え~? 別に邪魔、はしてないと思うよ? 今日も無事死なずにすんで

 おっめでと~☆ ……相変わらず君はセーブ使わないんだねぇ……」


「……ったりめぇだ……

 でなきゃ一生かかってもクリアできねぇように作ってあるんだろ?」

「あははっ♪ ――攻略条件は前から言っている通りで変わってないし

 その件に関しては……蓮もとっくの昔から気付いてる事でしょ?

 ……ってその質問、今更だよね?」

「……相変わらずそういう答えか……

 愚問だったぜ……それよりてめぇ……」

「ああ、何しに来たかって? それはね~椿ちゃんにお願いがあって♪」

昂はそう言って、椿の方を見る――

「……私に……ですか……?」

「来週から、蓮のクエストに付き合ってあげて」

「断るっ!!」

昂の言葉に蓮は――真っ先に口を開いたのだった――


「大体なんで俺が

 こんな見ず知らずも同然の女と組まないといけないんだ!?」

「まぁ蓮……落ち着きなよ。」

怒りを露わにする蓮を、昂はなだめる――

「何も“永遠”のパートナーにしろとか重い話はしてないじゃないかー

 お試し的な感じでさ~あくまで、“臨時”の」

「“臨時”……ですか……?」

椿は続きを促すように昂に聞き返す――


「うんっ! ……蓮、前から言ってるけど、君は攻撃力は

 最強レベルでも、回復能力は極端に低い――だから、僧侶系の子

 ――つまり、椿ちゃんと組むのが1番良いんだよ?」

「勝手に決めるな! ――何度も言ってるだろ!? 俺は1人で――」

「あの話、白紙に戻すよ? ――僕の言う事聞かないと」

昂がそう告げた瞬間、蓮の表情は一変する――

「きっ……汚ぇぞ! 完全に嫌がらせじゃねぇか!!

 ……あの話がなくなったら――今まで戦ってきた意味も 俺が……

 “蓮”としてこの世界にいる意味も……なくなるじゃねぇか!!」

椿には、入り込めない雰囲気だった――


「……なんとでも言えば? 『僕』は、君にどう思われようが

 構わないしね~白紙になるは嫌でしょ? 初期化よりも更に残酷な事

 だもんねぇ……そもそも女嫌いの君が、この前椿ちゃんにお礼をした

 のも、それだけ蓮の命に執着してるから、初期化されたくない気持ち

 からだもんね~分かってるよ、それ位の事。でもこれは蓮にとっても

 有利になる……本当は分かってるでしょ?“本来”の君の望みの

 実現に、大きく近付く悪い話じゃあないって事。……僕は、今の

 君に――椿ちゃん以外の人間についてここまで干渉するつもり、

 ないからね……嫌でしょ? 白紙に戻される事は……」


「ちっ……仕方ねぇっ……」

「やった☆ これで交渉成立♪ 蓮をよろしくねっ!! 椿ちゃん☆」

「……あの……私はどうすれば……」

舌打ちする蓮に楽しそうな昂……

一方椿はいきなり話を進められても、

具体的にどうすればいいか分からなかった――


「……そうだね――週1くらい、蓮と組んでクエスト行って☆

 うーんと……今日と同じ曜日、同じ時間帯、大体空いてる?」

「あっ……はい、大丈夫、です……」

「じゃあ決まり~♪ 来週もこの時間、この場所に来て……

 それから蓮とクエスト☆ あっ蓮!! 約束破ったら――」

「……わかってる……不本意だが仕方ねぇ……

 おいてめぇ……足引っ張るんじゃねぇよ!!」

「……はい……」

蓮と毎週会える事になったが――この態度に、今のレベル……

正直足手纏い……邪魔にしかなれそうにない……

だから椿は決意する――


「あの……私、もう……行きますね……」

「ああっ……うんっ! 椿ちゃん、ありがとねー☆」

「……蓮さん……ご迷惑をおかけしてしまうかもしれない事は

 申し訳ないですが、また来週――お会いできる事楽しみに

 しています――それと今日は――目的は違っていたかもしれません

 が……私達を助けてくださって、本当にありがとうございました。

 では……」

「……」

蓮は、無言だった。

椿の方を見ようとも、しなかった――

「バイバーイ♪」

対照的に昂は、笑顔で手を振ってくれた――


そうして――椿が向かったのは――

「……時間が許す限りっ……

 少しでも良いから……強くなりたいっ……!!

 蓮さんに……少しでも――近づく為に――!!」

別のフィールドで、椿は戦うのだった――




「やっぱり良い子だな~椿ちゃん♪ あれだけきつい事言われても、

 最後に君にちゃんとお礼、言ってくれたね」

「……てめぇは……何を考えてやがる?

 どうして無理矢理、女と関わらせようとする!?」

「……蓮、椿ちゃんは君が思っているような女……

 “あのお姫様”みたいな子とは違うと思うんだ……

 女だからって決めつけちゃあダメだよ。

 まぁ……君が女を憎むのは、(コウ)さんの事もあって

 仕方ないだろうし そこは新城(しんじょう)家を擁護しようとも思わない。

 でも広い世界の中には素敵な女の子が存在する事――

 君にも、信じたいと思えるような、女の子もいるはず――

 それを知って欲しいって思うから――

 きっと……椿ちゃんがそうだよっ☆ 」

「……そう簡単にいくものかっ!!」


蓮は――昂の言葉を強く否定する。

「……今日、椿ちゃん……君だけじゃなくて

 自分を殺そうとした強化データでさえも助けようとしてたよね?」

ふと昂は――強化データと椿が接触した話を持ち出した。

「……それがどうした?」

「……あの子なら、受け入れられるかもしれない。

 ――君の現実――

 “普通”の子なら、受け入れられない君の『罪』も――」



「ゲームの世界と現実世界では――訳が違うだろ!?」



そう言って――蓮は昂の左目の前に剣を突き付ける。

昂は――動こうともしない。

それは――“今”の“彼”に“できない”事である事も見抜いていた……



   『……そう、か……俺は――罪人なのに』



ふと、昂は――真剣な瞳で蓮を見つめる。

「……っ……!!?」

その言葉を聞いた蓮は――表情が、一変する……

「椿ちゃんは聞こえてなかったみたいだけど、忘れたとは――言わせない。

 あの時……『困っている人を本気で助けるのは当たり前』って……

 そう言った椿ちゃんに――

 無意識かもしれないけど、君は確実にそう言ってたよ?」


それは――椿に助けられた時……間違いなく、蓮が零した言葉だった。

「……!!」

「……椿ちゃんは本当に可哀想な子だよねぇ……自己評価低すぎるって

 いうか、こんなブサイクな自分にキスしてくれた人=見た目で自分を

 判断しない良い人だって判断して君に好意を持っちゃったんだもん

 ……僕の、計算通りにね」

「――とにかく

 生半可な気持ちで、他人の心に深入りしようとしたら

 どうなるか……次に会った時も――思い知らせてやる」

「……手加減しなくていいよ、その方がきっと――椿ちゃんの為にもなるし。

 君の犯した罪についても――早めに知らせておいた方がいいかもしれない。

 まぁその辺りは……今の所は君に任せるけどね」

「とにかく、あの女と毎週クエスト行くとしても――

 俺は絶対に……1人でクリアしてやるから……!!」

そう言い残し、蓮は消えて行った――




「……やれやれ……」

そして、昂も――自分の、この世界の本拠地に戻る――

「……あっ……椿ちゃんだ……」

その場所のモニターの1つに、戦う椿の姿があった――

「後数秒で、時間終わっちゃうのに……

 蓮みたいに、ギリギリまで――粘るなぁ……でもぶっちゃけ、

 真実を知ったら――あんな風に頑張る必要も――ないと思うんだけどね。

 蓮も初めっから、分かってる事だし」

それは、冷めた瞳で漏れる――本音。


「現実世界での後ろ盾がない……

 そんな皮肉な理由もあって君を選んだけれど

 あの時、君を殺そうとした強化データでさえも助けた君なら――

 彼の罪も、気持ちも、受け止めてくれるかもしれない……そして――」


昂は別のモニターに、目を向ける――そこに映るのは――

毎日1日1時間……血塗れになりながらも、激痛を伴い続けても、

ただ一つの願いの為に――終わる事のない戦いを続ける、蓮の姿――


「……それが無理でも――せめて、蓮が僕の気持ちを理解できるように

 なったら、蓮の戦いも終わる……彼がいつか雪華(せつか)にも、

 今の蓮が僕に抱いてくれている――同じ気持ちを抱いてくれた時……

 その時初めて、君が1番に望んでいる、僕からの気持ちを

 あげるから……その時が君の戦いが終わる時だから……

 それまでは――君が望む、僕の気持ちは――絶対に渡さない。」


そして、両方のモニターから、二人の姿が消える――

それを追うように、昂の魔法も解ける――


「椿ちゃん、純粋過ぎる蓮の気持ちを――穢してあげて。

 ……そしていつか、蓮の戦いを――今のままじゃあ一生終わらない、

 救われない、償いの戦いを――終わらせてあげて」


ゲームの中での幼い子供の姿から、髪の色が変わり、短くなり、

背も伸び――瞳の色も、形も、体格も――別人の姿に戻る。


現実世界の“彼”は――そう、呟いた。

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