【短編】仲の良い女友達に嵌められた俺には、最初から選択の余地はなかった!?
執筆の合間に、気まぐれで書いたショートストーリーです。
俺には仲の良い女友達がいる。
学校内でもよく一緒にいるし、2人で遊んだりする事なんてしょっちゅうある。
でも、俺達は付き合っているわけではない。
恋愛感情があるわけでもない。
ただの友達だ。
いや、彼女とは親友と呼んでも差し支えないくらいだろう。
それほど彼女とは仲が良いし、一緒にいるのは本当に楽しい。
彼女も俺と同じように感じてくれているはず。
だから彼女とは常に一緒にいる・・・
そしてその関係は・・・
これからもずっと変わらない・・・
そう考えていた・・・
そんな日常を送り、気が付けば高校2年の夏休み直前。
昼休みの屋上で、俺・榊原真人は友人である彼女・生島花恋と昼飯を取っていた。
そして2人共、昼飯を食い終わり弁当箱を片付け終えた所で花恋が口を開いた。
「あのね、ちょっと相談があるんだけど・・・聞いてもらっていいかな?」
「ん?ああ、いいよ。どんな事?」
「えっとね・・・あのね、私ね・・・」
「うん」
・・・言いにくい事なのかな?
花恋が言い渋りながら、ゆっくりと話している。
そんな中、俺は慌てさせずに花恋の言葉をじっと待つ。
そして・・・
「好きな人が出来たの・・・」
「・・・」
花恋の言葉が、あまりにも衝撃的すぎて言葉が出なかった。
え!?
花恋に好きな人!?
そんな人がいた素振りは無かったのに・・・
まあ、俺が鈍くて気づかなかっただけかもしれないけど・・・
と、衝撃を受けた俺が色々と考えて何も話せないでいると、花恋はムスッとする。
「ちょっと、何も言ってくれないの?」
「あ、ああ、ごめん・・・そ、そうなんだ」
「そうなんだって・・・それだけ?」
「あ、いや、いきなりすぎてビックリしちゃってさ・・・」
「まあ、確かにいきなりこんな事言ったら、驚くのも無理はないよね」
「あ、ああ、うん・・・」
確かに本当に驚いた。
驚いたけど・・・
花恋とは友人として仲はいいけど、恋愛感情があるかと聞かれたら・・・
正直微妙な所だと思う・・・
というのも、一緒に居て楽しいのは間違いない。
だからといって、男女の関係を想像できるかというと、今の所はそういう事を考えた事がなかった。
だから、花恋に好きな人が出来たと聞いた時はもちろんショックを受けたけど、それが恋愛から来るものかと聞かれるとよくわからないというのが正直なところ。
ただ、もし花恋がその好きな人と付き合うとなった場合、俺との時間が減るのは少し寂しいなとは思っていた。
「そ、それで・・・結局、相談というのは?」
俺はそんな気持ちを誤魔化すように、特に好きな人の事には触れずに相談の内容を確認する。
「うん・・・それがね、好きな人が出来たのはいいんだけど・・・正直自信がないの・・・」
「自信?」
「うん・・・告白して受け入れてもらえるかどうか不安で・・・」
「・・・」
確かにそれは難しい相談だな。
告白なんて、してみなければ成功するかどうかなんてわからない。
特に、今は相手が誰かが伏せられているから、なおさら相手の人が花恋の事をどう思っているのかなんてわからない。
だから俺が出来るアドバイスなんて限られている。
さすがに花恋もそんな事は承知の上だろう。
それでも、花恋が俺に相談してきたという事は、もうすでに告白する決意をしているという事。
その後押しをしてほしいという事なのだと思う。
だから俺は・・・
「そっか・・・でも、きっと大丈夫だ!絶対に成功するから自信を持って告白した方がいいって!」
「・・・本当?」
「ああ、本当だとも!」
「そっかぁ・・・じゃあ、勇気を出して告白してみようかな?」
「うん、それがいいよ」
「うん、ありがとう・・・でも、そこまで言ってくれたからには・・・もしダメだった時は責任取ってくれるんだよね?」
「えっ!?せ、責任!?」
「そう、責任」
「な、なんで・・・?」
「だって、大丈夫・成功するって言ってくれたのは真人くんでしょ?だから告白するの。でも、もしフラれたとしたら傷心するのは私だけだなんて、そんなのはずるい・・・」
た、確かに俺は自分が告白する訳じゃないから、彼女が求めていただろうとはいえ軽はずみに告白しろなんて言えるんだ。
告白する事自体が相当緊張するだろうし、もしフラれてしまった時の事を考えると怖いに決まっている。
なのに俺は高みの見物を気取って、口先だけ告白しろだなんて無責任にもほどがある。
そう考えた俺は・・・
「・・・わかったよ。俺が出来る限りの責任は取るよ」
「本当!?よかった!ちゃんと、間違いなく責任とってよね!」
「あ、ああ、無理な事じゃなければだけど・・・」
「うん、それは大丈夫だと思うよ!」
「それならいいけど・・・」
「うん。じゃあ、早速告白してくるから、ここで待っててね?」
「えっ?今から!?」
「うん、思い立ったら吉日ってね・・・というか、早くしないと決心が鈍りそうだから」
「そ、そっか・・・頑張ってね。応援してるから」
「うん、ありがとう!行ってくるね!」
彼女はそう言うと、俺に背中を見せて立ち去っていく。
その後ろ姿を見ながら、俺は一抹の寂しさを感じていた。
告白が上手くいけば、もう俺とは遊べなくなるのかもしれないな・・・
それどころか、一緒に居る事すら許されないかもしれない・・・
そう思いながら、彼女の背中をずっと目で追う。
そして無情にも彼女は屋上から出て行き、後に残るのは彼女が出て行った時に鳴ったドアの閉まった時のバタンという音が耳に響き渡るだけであった。
・・・・・
彼女が居なくなった屋上では、俺の前に一吹きの風がピューっと通り過ぎる。
そして俺の心はぽっかりと穴が開いたような虚無感に陥り、ボーっとするしかなかった。
すると、そこに・・・
バタン!!
と、再び屋上のドアが開かれた。
そしてそこに現れたのは・・・
花恋だったのである。
「えっ?何!?出て行って間もないのに・・・?」
俺がそう困惑していると、花恋は俺の前にやって来る。
「どうしたんだ?えっ?戻ってくるの早くないか!?」
「えっとね・・・私告白しに行くって言ったでしょ?」
「ああ、うん・・・それにしては・・・」
「だから、告白しに来たの!」
「えっ!?」
「やっぱり、雰囲気って大事だから・・・」
え・・・?
どういう事だ?
告白する相手って・・・
えっ、俺!?
「スーハー・・・ふぅ・・・うん、大丈夫!」
驚きで固まり目が点になっている俺をよそに、花恋は深呼吸しながら気を落ち着かせているようだ。
「真人くん!」
「は、はい!」
俺は緊張しながら身構える。
「す、好きです!付き合って下さい!」
「・・・・・」
俺はとっさに声が出なかった・・・
だって、俺は花恋とは友達だと思っていたから。
友達でいたいと思っているから。
「だ、ダメかな・・・?」
何も言わない俺に花恋は不安そうな顔をしながらも、俺の言葉を待っている。
さっき感じた花恋と一緒に居たいという気持ち。
この気持ちに嘘はない。
でも、やっぱり花恋とは・・・
友達でいたい・・・
だから俺の出した結論は・・・
「ごめん・・・」
「・・・・・」
俺が謝りながら頭を下げると、一瞬の沈黙がこの場を支配する。
そんな空気に耐え切れなくなった俺は、理由を説明しようと思って顔を上げると・・・
なぜか花恋は笑っていた。
「あははっ、やっぱり駄目だったかぁ・・・」
「・・・」
ちょっと悔しそうな言葉とは裏腹に、花恋の顔には随分と余裕が見えた。
なんで、そんな笑顔で!?
と疑問に思っていた俺に、花恋は・・・
「そっかそっか、フラれちゃったかぁ・・・じゃあ、真人くん?」
「は、はい!?」
「責任取って、私と付き合ってね♪」
「・・・・・」
はああああああ!?
え!?ちょっと待って!?
どういう事!?
「え?だって、私がフラれたら責任取ってくれるっていったよね?」
「いや、言ったけどさ・・・」
「だから真人くんには、ちゃんと責任取ってフラれた私を拾う義務があるのです♪」
「えええええええ」
なんだそれ!
なんだよそれ!!
どっちにしても、俺は花恋と付き合う事が決まってたって事!?
結果として、最初から俺に選択肢が無かったって事!?
告白が成功すればそれでよし。
成功しなくても責任取らせるから問題なしだったって事!?
最初の真面目な雰囲気は何だったんだよ!
緊張した面持ちはなんだったんだよ!!
くそう!嵌められた!!
くやしい~!!
そう思いながらも、何だかんだ言って俺の心が満たされているのを感じていた。
俺は嬉しい気持ちで一杯になっていた。
そこで俺は理解した。
今まで俺は、花恋の事を友達だと思っていた。
・・・いや、思い込もうとしていた。
恋人になったら男女のもつれなどで、今までの関係が壊れてしまうかもしれない。
でも、友達ならそんな事で壊れる事はない。
だったら友達のままでいれば、ずっと今の関係を保てると思っていたんだ。
でも本当は、俺も心の底では・・・
花恋の事を女性として好きなのだと・・・
それは今までもずっと・・・
最初から好きだったのだと。
結局の所は、俺の勇気の無さ・・・
関係が壊れる恐怖に怯えて前に進まなかった俺の弱さが原因・・・
それを、勇気を持ってある意味でぶち壊してくれた花恋に本当に感謝したい。
そんな花恋は・・・
「ふふっ、これから宜しくお願いしますね。私の・・・大好きな彼氏さん♪」
いたずらが成功した様な顔をしながらそう言った後、本当に嬉しそうで幸せそうな満面の笑顔を俺に向けていましたとさ。
お読みいただきありがとうございます。
別の連載を手掛けている中で、思い付きで書いたものです。
気軽に楽しんでいただけたら幸いです。
当作者の作品としては、だいぶ毛色の違う作品ですが、たまにはいいかなと思って投稿しました。