神の教え
時刻は昼頃。貴族らしい不健康な生活を送るサイズにとっては、普段ならようやく起きてくる時間。
サイズは珍しく、この晴れやかな陽気と同じどこか晴れやかな表情で、草原を歩いていた。
どうにか朝早く起きて、暗くなったら寝るという一般的な生活習慣にも慣れたところである。高級貴族になって年の浅いサイズであるから、まだ怠惰に浸りきっていなかった点が幸いした。
旅を始めて三日。道すがらの宿駅に立ち寄りながらの馬車の旅も、最終日だけは徒歩での移動となった。
「ピアちゃんたち、どうしてるかな?」
物資を積んだ馬をリードしながら歩くアンジュが、静けさを打ち破るように言った。
「毎日毎日。同じ質問をしてよくも飽きないな」
旅の共はアンジュだけである。ピアとソルは留守番させている。
前を歩くのは、今朝出発した宿駅で雇った案内人。御者も宿駅に滞在させ、帰りに備えさせている。
「だって心配じゃん。あんなちっちゃな子を置いてくなんて」
「小さくても魔族だぞ」
「サイズは心配じゃないの? 大事な奥さんなのに」
サイズは、どうやら国家の命運を分ける自らの使命を忘れているらしいアンジュに呆れながらも、一先ず夫らしい理由を返答する。
「問題ないだろ。屋敷の警備は万全だし、あのメイドだっている。貴族のいない屋敷を攻撃したって革命派の連中にとっては意味もないしな」
「ふーん。ところで毎晩執事長さんと念波で交信してるのは?」
「常に新たな情報を入れておくのは為政者として当然のこと。その日王国で起こったことを知らせてもらっているんだ」
「ふーん。でもそれにしてはピアちゃんのことばっか聞いてるよね。『エメラルド嬢はどうだ』とか」
「なっ! どうやって傍受したんだ俺の念波!」
「あ、やっぱりピアちゃんのこと聞いてたんだ」
「まさか鎌かけたのか! あ、いや、違う。これはあれだ。敵の行動を常に把握するためであって……」
「焦ってる焦ってる」
サイズの悔しそうな赤ら顔を見て、アンジュは満足そうに笑った。
サイズは毎晩、たしかに執事長と交信し、家や国家の情勢を尋ねた。しかしその質問のほとんどはピアについてであり、ピアの様子を確認してから眠るのが、最近のサイズの日課であった。
「しかし貴族さん。珍しいですねえ。迷いの森に行きたいだなんて」
黙って先を歩いていた案内人が、不意に声をかけた。
「入ったら二度と出れないって話じゃないですか」
「入ったら出られない、ねえ……」
サイズは案内人の言葉に、怪訝そうに返す。案内人は、どこか苦労人的な哀愁を漂わせる細目の男である。迷いの森までの道を知っているということで、宿駅の主人から紹介された人物だ。
迷いの森は、高山の南半分に広がる広大な樹海である。その名のごとく、一度入ったら二度と出られない。近隣ではそう噂されているらしい。
「ところであんた、なぜ迷いの森までの道なんて知ってるんだ?」
「え? そりゃ、地元の人間ですし」
「地元の人間でも迷いの森に用なんてないだろう。何も取れないし、うっかり入ったら二度と出られないんだぞ」
「それはほら、金になるんですよ。たまに冒険者とか来ると、案内できるのは私くらいだから」
「……そうか」
サイズは怪訝な顔を崩さず、納得した。
「いやね、私は入ったことないんですが、今まで何人か案内してましてね。帰ってきた人は一人もいません。ま、みんな酔狂な冒険家だったから、遭難したって文句言えないんですけどね」
すでに森に差し掛かっているらしく、辺りには木が乱立して視界が悪い。
「でも貴族さんは賢明だろうし、引き返した方がいいんじゃないですかい?」
「生憎その賢明な判断とやらができる状況でなくてな。行かせてもらう」
「そうですかい……」
案内人は急に立ち止まると、不意に振り返り、その苦労人面の口元をひしゃげさせた。
「なら、遭難したって文句言えませんよね」
案内人の合図を皮切りに、辺りから下卑た笑い声が木霊する。気づけば周囲を強面の男たちに囲まれていた。案内人の影からひときわ大きな男が現れる。
「ほう、貴族とは大収穫だな」
「ええ、ええ。報酬はいつも通り折半で」
どうやら騙されたらしい。この案内人は迷いの森に案内するといい、山賊の巣に連れ込んで冒険者を襲わせているようだ。迷いの森の噂を利用すれば、怪しむ者はいないということか。
サイズは別段驚く風もなく、冷静な表情のまま言った。
「アンジュ、任せた」
国防副大臣の命令を受けたアンジュ少尉は、一瞬だけ祈るように胸に手を当てると、進み出た。
「おいおい女かよ。しかも上玉。こいつは身ぐるみはがした後も楽しめそうだぜ」
ニヤつきながら二人の男がアンジュに近付く。
「ほらお嬢ちゃん。俺たちが可愛がってあげる……」
そしてアンジュに手を伸ばした瞬間、首が飛んだ。いつの間にかサーベルを抜いたアンジュが返り血に染まる。
「お、おい、今何が起こった!」
「気を付けろ、この女強いぞ! 全員で殺しにかかれ!」
と、慌てふためく山賊たちが一斉にアンジュを攻撃し、戦闘が始まった。
サイズは目をつぶって空を仰ぐ。その場だけ時が止まったように動かなくなると、今度は素早い動きで身を翻し、杖を振った。
「ぐう!?」
まともに杖の打撃を食らった案内人が倒れ込む。サイズはすかさず杖を向け、宝珠を光らせた。人質にでもしようとしたのだろうが、サイズはそこらの魔道師とはモノが違う。少なくとも山賊の威を借る詐欺師一人に後れを取ることはないのだ。
腰が抜けたように口を開ける案内人を、サイズは虫けらを見るような冷たい目で睨みつける。
「サイズ!」
サイズは後ろからの声に気を向けた。その瞬間、案内人はさっと立ち上がると全力疾走して逃げ出した。
「あ、あいつ!」
「構わん。捨て置け。どうせ山賊がいなきゃ何もできん」
深追いしようとするアンジュをとどめ、サイズは山賊たちの立っていた場所に目を向けた。屈強な、十人はいるであろう山賊たちが、無残な姿で地に伏していた。
「サイズ、無事?」
「ああ」
サイズは死骸から目を背けるように、アンジュに顔を向けた。天使の名を持つ悪魔は、天使のような安堵の表情を浮かべる。
「サイズ、知ってたの? 騙されてるって。ずいぶん冷静だったけど」
「不審だとは思ってたよ。迷いの森の道順を知ってるだけで充分警戒に値する。まあ利用できるから付いていったが、ちゃんと入り口までは案内してくれた。ところでアンジュこそ、冷静だったな」
「私は慣れてるからね、奇襲とか。むしろ奇襲する側だったし」
「そうか」
彼女はきっと、自分とはくらべものにならない経験をしているのだと、サイズは改めて思った。
「でもこれからどうするの? 迷いの森には着いたけど、入ったら二度と出られないんでしょ?」
「落ち着け。一度入って出てきた奴がいるだろ」
「あ、そっか。サイズここで修行してたんだっけ」
そう、何を隠そうサイズはここに入って出てきた張本人なのだ。その事実がまず、ただ遭難するだけの森ではないことを物語っている。
「そもそも出て来られないというのが間違いなんだ。もともとは一度入ると散々迷って、いつの間にか入り口に戻ってるというのが正解だ。俺が入った頃の噂はそれだった。出られないというのは、大方さっきの連中がここ最近で流した噂じゃないか?」
「ふーん。でも、入り口に戻ってるんだったら、結局どうしようもなくない?」
「まあ、そうだな。しかし……」
サイズは木々の間に目を向けると、おもむろに森に入っていった。
「今は大丈夫そうだ」
「え、どういうこと?」
アンジュは首をかしげながらサイズを追った。
「ねえサイズ……」
天井を覆う葉が日の光を遮り、鳥のさえずりが不気味に木霊する。薄暗い森の中に、落ちた枝を踏みしめる音が響いた。
「私たち、迷ってない?」
「だな」
「だよね。いや、別にサイズのこと信用してないんじゃなくて、どこ歩いてるか全然わかんないから心配になって……て、ええ!? ほんとに迷ってるの!?」
何食わぬ顔であっさりと返事をしたサイズに妙な安心感を覚えてしまったアンジュは、一転して怒涛のノリツッコミをした。
「だからそう言っただろ」
「でもさっき『今は大丈夫そうだ』とかかっこつけて言ってたのに!?」
「別にかっこつけてたわけじゃない。それは入り口に戻るという現象が大丈夫ということだ。今はただ迷ってるだけだな」
「もっとダメじゃん! 遭難だよ、遭難!」
「まあ、もともと迷いやすい森だからな。俺が初めて入ったときも散々迷って死にかけた」
「ええ……それじゃあ私たちここで死んじゃうじゃん!」
「何とかなるだろ。現に五歳のころの俺でも何とかなった」
「そのときって、どうやって何とかなったの?」
「運がよかったな」
「運が悪かったら死んじゃうじゃん!」
アンジュは大げさにリアクションすると、頭を抱えながら「どうせ死ぬなら戦場がよかった……」とか勇ましいことを言っている。
迷いの森に踏み込んだサイズとアンジュは、道なき道をひたすらに歩いていた。
どういうわけか方位磁石の利かないこの森では、今どの方角に向かっているのかも不明である。まっすぐ歩いているつもりではいるが、そんな感覚など当てにならない。何せ景色は歩いても歩いても同じ、ひたすらに木なのである。
きっと多くの遭難者がそうであるように、同じ場所をぐるぐる回っているのではないかと、冷静な表情のサイズでさえちょっと不安になってきたところだ。初めてこの森に分け入ったアンジュの不安は相当なものだろう。
しかし、サイズには確実に目的地にたどり着くという確信があった。
「やかましい。何とかなる。あの爺さんは変人だが、それほど鬼畜じゃねえよ。たぶん」
「爺さん?」
「それより昔ばなしでもしよう。この森の歴史だ」
「今その話関係あるの?」
「ない。暇つぶしだ。どうせ歩き続けてりゃ着くんだ。ただ歩くよりは気がまぎれる」
要領を得ない行動に困惑するアンジュを置いて、サイズは話し始めた。
「現在の迷いの森は、一度入ったら出られないなんて噂の立つよくわからん森だ。しかしこの森は悠久に経過する歴史の中でその姿を刻々と変えている。現存する文献で最初に登場するこの森は、神の住まう森だった。雄大な自然と近づきがたい不気味さを併せ持つこの森は、周辺地域では崇拝の対象だったんだ」
つい先ほどまでかまびすしく騒ぎ立てていたアンジュは黙り込んでいた。しかしそれは決してサイズの話が興味深いからではない。話に夢中なサイズは気づいていないが、アンジュの辟易が顔に出まくっている。全然興味ないけど、こうなったサイズは何を言ってもマニアックな話を止めないとわかっているからである。
要するに諦観して、話自体は極力右から左に聞き流そうということだ。
その後のサイズの蘊蓄を時系列順に並べて要約するとこうである。
状況が大きく変わるのが起源八〇〇年ごろ。神の住まう森は一転して悪魔の住まう森へと変貌した。周辺地域が王国の勢力に組み込まれていく中で、未だ人が足を入れられないダンジョンのような森には、強力なヴァンパイアが住むと言われるようになる。おそらくこのころから、魔族の脅威というものが、大陸全体に共通するものになった。
それからしばらくは長らくヴァンパイアが住み続けることになるが、一四〇〇年代も後半に入るとウェアウルフの群れが隠れ住むようになる。人間が銃を用いた戦術で魔族を圧倒し、大陸を手中に入れたのがだいたいこのころである。ヴァンパイアほどの脅威ではないにせよ、一般市民からすれば大きな脅威であるウェアウルフの残党がいる方が、近隣住民には現実味があったのだ。
時が進み大航海時代には魔女。魔女の解釈は、魔族と契約した魔道師というのが一般的だから、要するに半人半妖である。遠く陸と海の向こうのデルシアの話を、大陸の魔族なんておとぎ話でしかない世代が聞いて、どこかリアリティのない中途半端な魔族の脅威になって現れた。
そしてここ百年の内には高名な魔道師が一人住み着き、怪し気な魔法の研究をしていると噂が流れるようになった。
つまりこの迷いの森は元からの神々しい、あるいは不気味な性質と、人間の妄想が生み出した噂という畏怖の念が混じりあい、その処女性を保っていたのである。
「実害がほとんどないにも関わらず、噂を怖がって誰も調査に入らなかったという部分に、人間の面白い性質が隠れている。たとえば……」
「あ、ええっと、その高名な魔道師が、サイズの師匠ってこと? ルチルさんだっけ?」
最後の部分だけ聞いていたアンジュは、これ以上面倒な話にならないよう、ギリギリ自分の興味のある質問をぶつけた。話の腰を折られたサイズは、渋々と質問に答える。
「まさか。爺さんなのは確かだが、まだ百年も生きてない。大陸に脅威となる魔族がいないことは宣言されていたから、噂の登場人物がついに人間しかいなくなったんだろ。もともと噂が先行していて、そこにたまたま爺さんが本当に入ってきたということだ。ま、五歳の俺は、噂を信じてこの森に入ったんだけどな」
「サイズの師匠って、そういえばすごい家柄の人なんでしょ?」
「ああ、公爵。要するに王の遠縁だ」
「そんなすごい人が何でこんな薄暗い森に一人で住んでるの?」
「知らん。修行してた頃は公爵だってことも知らなかったしな。王国に戻って個人的に調べたら発覚した事実だ。もともとは優れた知性と魔法の才能を湛えた人格者だったらしい」
「何度聞いても胡散臭いなあ……」
「俺も何度考えても胡散臭いと思ってる。何考えてるかわからん爺さんだったからな。ただまあ、魔法の実力は本物だったよ。膨大な魔力を持つ天才ながら、それに驕らず基礎を怠らない。古今東西のあらゆる魔法を熟知し、新たな理論を見出す。あの爺さんなら、市民に魔法を教えることもできるかもな」
「ほんと!?」
「ジョークだ」
「はあ、魔法かあ。私が魔法……ふふ」
「いや、だからジョークだと……」
アンジュは自分が魔法を使う妄想でもしているのか、サイズの話などすでに耳に入っていないらしい。過剰に期待されても困るなあ、などと考えながらも、サイズはあながち不可能ではないかもしれないと思った。
あの仙人には、こと魔法に関しては、不可能なことはないと思わされる。十年の歳月を賭して開発したプロメテウスには、ルチルの先進的な研究の下地がある。そして何より、見ただけでプロメテウスのメカニズムと毒を把握し、たった一日で結界を作り上げたのはルチルその人なのである。
「さて」
風に流されるように、ただ当てもなく歩き回っていたサイズが不意に立ち止まった。
「到着、だな」
サイズは深呼吸するように天を仰ぐ。
「え、いつの間に……」
と、驚くアンジュは、サイズに釣られて頭を上げた。
巨木が立ち並ぶ森の中で、ひときわ巨大な一本の樹が、まるで世界を分断する壁のように立ちふさがっている。空を覆う枝葉からは木漏れ日が差し込み、神聖性と怪しさを演出する。それはまさに世界の中心であった。
「す、すごい……」
「そうだな」
あまりの神々しさに言葉を失うアンジュに対して、サイズは淡泊に返した。
「あ、サイズ待って」
大樹の根が一部盛り上がっている。サイズは何の躊躇もなく根を潜ると、アンジュが大樹を見上げ続けたまま追ってきた。
根を潜り抜けると大きな空間ができていた。木と土の間の、日の光が一切届かぬはずのその空洞は、しかし草原のように明るかった。よく見ると白く輝く光の粒が至る所に浮いている。
続いて顔を出したアンジュが、幻想的な光景に「ほあー……」と再び感嘆の声を上げたとき、サイズはついに、足を組んで座り込んだ懐かしい背中を見つけた。
「よう、久しぶりだな、爺さん。いや、大魔導師サン・ルチル殿」
サイズの言葉にゆっくりと振り向いた人物に、アンジュは三度言葉を失った。その表情はまさに、サイズが初めて彼を目にした時と同じものだった。
神聖なる森の神々しい大樹に住まうのは神であった。しかしその神は人にパンを与え、傷をいやし、罰を与える。奇跡を起こす神ではない。
ボロボロのローブを羽織り、土にまみれた白髭を蓄え、老人の皮をかぶったその神は、人に、あるいは人の世にさえ何の関わりのない、異次元の目をしていた。
老師はサイズに目を向け、次いでアンジュを一瞥すると、また後ろを向いた。
「相変わらず無口な爺さんだな。わざわざ結界まで解いてくれたのに、急に恥ずかしくなったのか?」
サイズの煽るような言葉に、老師は一切の反応を示さない。代わりにアンジュが疑問を口にする。
「結界?」
「そういえば言ってなかったな。迷いの森に入ると、散々迷って入り口に戻るって言っただろ。あれ全部、爺さんの魔法だ。ほかの人間が立ち入らないように、魔法で結界を張ってるんだ。森全体に」
「も、森全体!? こんな広い森の!?」
「ああ。しかも俺たちがここまで辿り着いたのも魔法だ。迷ってるように見えて、必ずここに来れるように結界を書き換えたんだ。入り口に戻るのと原理は同じだが、魔力の練り方が微妙に違う。この微調整は熟練の魔導師でも難しい」
「すごい……。何がすごいのか正直わかんないけど……」
アンジュはたぶん本当に何がすごいのかわかっていない間の抜けた顔で驚くと、「やっぱりこの人なら……」とか言いながらルチルの背中に立ち止まった。何をやらかすのかとサイズがいぶかしみながら見ていると、アンジュは不意に軍人のような美しいお辞儀をした。
「弟子にしてください!」
「は?」
その一言にルチルではなく、サイズが聞き返した。
「お前、何言ってんだ?」
「だってサイズ言ったじゃん! この人なら市民にも魔法を教えられるって!」
「いや、だからそれはジョークだと言っただろ」
「でも、サイズがあれだけ言う魔導師だよ! もしかしたらできるかも知れないじゃん!」
「まあ、一概に否定もできないが……」
「でしょ!」
アンジュは論破してやったとばかりに誇らしげに胸を張った。まったくもってアンジュの言葉には説得力がないが、サン・ルチルという人物をよく知るサイズ自身には、そのジョークに妙な説得力が感じられた。
かつて魔法は、神より人間が授かったギフトだとされていた。だからこそ限られた、選ばれた人間のみが使えるのだと信じられていた。動物に魔力があることが証明された今でも、それを盲目的に信じる選民思想の貴族は少なくない。しかし仮にそのおとぎ話が真実だったとしても、サン・ルチルならば、奇跡を起こせて不思議ではない。
「……ところでサイズ。この人さっきから全然動かないけど……」
翻ってアンジュは、今一度ルチルに目を向けるが、老人は煩わしい会話にも一切の興味を示すことなく座り込んでいた。傍から見たら死んでると思われてもおかしくない。
「精神統一だろ?」
「……む、無視されてるの、私?」
「無視っていうか、この爺さんは昔からこうだ。実をいうと俺も正式な弟子じゃないからな」
「どういうこと?」
「弟子にしてくれと頼みはしたが、返事はされてない。拒まれてもいないがな」
「え、サイズ弟子じゃなかったの!?」
「まあ、正確にはな」
サイズはルチルより、直接弟子に取るとは言われていない。なぜ弟子を名乗っているかといえば、まあルチルの下で修業したのはたしかだからである。
当時の状況を簡単に言うと、入り口に戻るとわかっていながら、不屈の闘志で迷いの森に幾度となく突貫し、やっとたどり着いた。直後にどこか知らん山にテレポーテーションさせられ、サバイバルしながら帰ってきた末に、ほとんど真顔と変わらない観念したような表情をされた。
ルチルも、もとより弟子など取るつもりはなかったのだろう。それでも、十年もの間すぐそばで修行することを許され、久々に顔を見せに来たサイズのため結界を解いたということは、 何かしらの思いはあるのだろう。
「それで、私はどうすればいいの?」
「さあ? 真似すればいいんじゃないか? 爺さんが何かを能動的に教えてくれることはない」
「な、何それ……」
アンジュは意味が分からんといった風に言った。何も知らなければサイズも「何それ」である。しかし困ったことに、サイズはその方法で魔法を磨いてきたのである。何もしゃべらぬ老人の隣に付き、老人の真似をし、老人が魔法書の執筆をしている隣で老人の著者を読んだ。
「ま、まあ、そういうことならやってみるか」
アンジュはなんだか納得いってない声で言いながら、ルチルの隣で足を組んだ。座禅という東方の宗教の独特の座り方で、アンジュはかなり苦戦しながら結局諦めて胡坐をかいた。
「ほら、何やってんの? サイズもやるよ!」
アンジュは顔だけ振り返り、隣の地面をポンポンとたたきながら言った。
「なぜ俺がお前に付き合わなきゃならん」
「なんでもいいから」
「わかったわかった」
サイズは溜息を一つ吐くと、めんどくさそうにアンジュの隣で座禅を組んだ。
精神を統一するというより、無心になるというのが正解である。ひとたび座禅を組んだサイズの心は、まさに無である。心を無くし雑念を振り払えば、微動だにすることはない。「心頭滅却すれば火もまた涼し」と東方や極東の聖職者が詠んだそうだが、サイズはすでにその境地に至っていた。
まさしく時間が止まっていた。ひたすらに動かず、サイズたちは瞑想を続けている。風が葉を凪ぐ音。虫たちの息遣い。はるか遠くのごく小さな音のみが周囲に木霊し、しかしそんな音さえもサイズの耳には入らな……。
「ねえ。ねえ、サイズ。サイズ、ねえってば! サーイーズー!」
「だあ、うるせえ!」
脇腹やら肩をツンツンつつきながら耳元で名前を呼び続けるアンジュに、ついにしびれを切らしてサイズは叫んだ。
「おとなしく精神統一してろよ!」
「飽きた」
「じゃあ寝てろ!」
なんかもう十秒くらいでそわそわしだして、次の五秒後くらいには即効で飽きてサイズにちょっかい出し始めたアンジュのせいで、むろんサイズは無心になどなれるはずなかった。それでも一分くらい無視し続けた気概を認めてもらいたいものだと、サイズは思った。
「お前、魔法使いたいんじゃないのか?」
サイズは座禅を解くと、いくらか落ち着いた声で言った。
「だって地味なんだもん。もっとこう、修行って派手なことすると想像するじゃん。なんか、超威力の爆発魔法でドッカーン! ってやったり」
「魔法の修行なんてもんは得てして地味なんだよ。魔力の練り上げ方さえわかれば、あとは放出するだけなんだから」
「でも、軍の魔道歩兵はそうやって訓練してるよ? ドッカーン! って」
「陣形とか集団戦術とか、戦争で連携するための訓練だろ。もし魔法の威力を上げるためにやってるなら完全に無駄だ。帰ったら即刻止めさせてやる」
「精神統一なんて意味あるの? ドッカーン! ってやってる方が練習になりそうだけど……」
「基礎中の基礎だ。魔法の神髄は心にあり」
「え、意味わかんない」
「精神力を鍛えれば使える魔力が増えるんだ」
「魔力って精神力なの?」
「違う。しかしまあ、近しい関係にはある。簡単に言うと、魔力の放出に耐えるために精神力が必要になるんだ」
サイズは立ち上がり、学者のような振る舞いでそこらへんをウロウロしながら説明を始めた。
「魔力は個々人で一定で、生まれた時からどんなに成長しても増えることはない。だからこそ生まれつきの魔力の絶対量が魔法の才能ということになる。しかしどんな天才も、自分の魔力を最大限に引き出すことはできない」
驚くことに、常に自分の最大の力を使っていると思っている魔導師は多い。特に手加減できないとか偉そうに言っている荒くれた軍人気質のものがこのタイプだ。しかし、そんな彼らももちろん全力は出せていないのである。実際には自分で最大限だと思い込んでいるだけであり、自分の最大限を知らないだけ。実は器用で繊細なものほど、自分の魔力量が埋没していることを理解している。
「魔法を使うということはつまり、体内の魔力を放出するということだから、それには強大な虚無感が伴う。血液で考えるとしっくりくる。体内にあるものが急に空っぽになると、精神が疲れるんだ。その精神へのダメージが、実質的には魔力量の限界に当たるわけだ。だから、精神力の強化は魔力の底上げに近い意味を持つということになる。今でも精神を強化すれば魔力が増えると勘違いしている魔導師は多いが、メカニズム上、厳密にいえば……おい、聞いてるのか、アンジュ」
上機嫌に講義をしながらちらりと受講生を見ると、アンジュは話そっちのけでルチルの肩を突っついていた。
「ん? ああ、終わった?」
「お前が聞いたんだろ……」
「ねえ、ルチルさんすごいよ。全然動かない」
「まあ、そうだな」
たしかに。これだけ後ろで騒がしくして、しかもイラっと来るようなアンジュのちょっかいにもいっさい興味を示さず、サン・ルチルは座禅を組み続けている。寝てるんじゃねえかと思うと船を漕いでる様子はなし。死んでるんじゃねえかと思うと、その割には背筋がピンと伸びている。魂はある。しかし心は無なのである。
サイズは困ったように後ろ髪をなでると、溜息をついて踵を返した。
「帰るぞ」
「え? ああ、うん。あれ?」
アンジュはサイズに駆け寄ると、何か思い出したように聞いた。
「そういえば何のために来たんだっけ?」
「お前の魔法の練習だろ」
「あ、そうだったっけ? ……そうなの?」
「まあ、ジョークだよ。気にしなくていい」
アンジュは困惑した表情をした。サイズはアンジュの疑問も気にせず、出口をくぐる。
「聞きたいことがあるのだろう」
背中から響いた声が、サイズの耳を貫いた。決して威圧感はないが、耳から入ったその声は体の中を駆け巡り、脳をつかんで離さないような錯覚にとらわれた。心をすべて見透かされているようで、わずかな吐き気を感じた。
サイズはゆっくりと振り返り、額に汗をにじませながら言った。
「ほう、爺さんから聞いてくれるとはな。あんたの話を聞くのは難しいと思ってたが、意外だったよ」
ルチルはサイズに背を向け、座禅をしたままだった。アンジュは「え? え?」と、さらに困惑したようにサイズとルチルの顔を見比べた。
それから一瞬の沈黙に陥る。サイズのこめかみを一筋の汗が伝い、表情だけ余裕に笑って話し始める。
「どこまで察してるのか知らんが、話が早い。わざわざこんなところまで来たのは、あんたに聞きたいことがあるからだ」
サイズはこみ上げてくる吐き気を必死に抑え、表情を変えないよう必死で口角を持ち上げた。
「教えてくれ。どうやったら魔族を殺せる」
サイズの言葉に、アンジュは驚いたように目を見開いてから、すぐに悲しいような暗い表情になった。
それからまた沈黙が空間を覆った。ルチルは座禅を組んだまま一ミリも動かない。その姿はまるで、どれだけ祈っても答えない。しかしあまりに雄大で、どんな言葉よりも雄弁な、教会に鎮座する神の像のようにも感じられた。
答えあぐねているのだろうか。たしかにサン・ルチルという魔導師は仙人か、あるいは神のような男であるが、神ではない。こと魔法に至っては知らぬことはなくても、なんでもわかるわけではないかと思うと同時に、その背中が人間にわからぬ言葉で答えているのではないかとも、サイズには感じられた。
しばらくの静寂のあと、不意にルチルの背中が動いた。ごく最小限の動きをした後、ルチルの肩越しから金色の放物線が引き、狙ったようにサイズの足元に刺さった。サイズはそれを拾い上げる。
金のナイフである。柄に掘られた王家の紋章はところどころが薄くなっており時間を感じさせるが、その輝きは永遠に変わらない美しさを放っていた。
「これは……」
「そいつでわしを殺せ」
「な!?」
ルチルの言葉に、サイズは思わず聞き返す。
「な、何でそんな……。できるわけないだろ!」
「なぜだ」
「なぜって、そんなの……あんたは俺の師匠で……だから……」
言いながら、サイズは考えた。もし仮にこの老人が師匠でなければ、自分は殺せただろうか。老人の背中は無抵抗である。ナイフで一突きすれば、老いた体はもろく崩れ落ちるだろう。たった一突きで、いともたやすく。
「人は人のまま人を殺せん」
思考にのまれかけたサイズを、もう一度ルチルの声が引き戻す。
「だ、だったら原因はそこじゃない。俺が殺すのは魔族……」
「では、お前がその魔族を人と同じく思っているということだ」
「そんなこと……」
言いかけて、サイズは歯噛みした。人間の定義は権力者たちの思考によって変遷する。その権力者の中でも定義は一定ではない。つまり個々人のレベルで人間の定義は様々で、つまり自分がそれを人間だと無意識で思えば、だれが何と言おうとそれは人間である。
サイズはピアが魔族であることを理解している。人間と明らかに種族が違うとわかっている。ではなぜ殺せない。なぜ躊躇する。自分は、うわべの種族以外の、何を人間の基準にしている。
「どちらかが獣でなければ殺せん。しかし相手がどうしようもなく人間だと自らが思い込んでいる。それでも殺したいならば、己が獣になる他ない。獣となり、生存本能、闘争本能、食欲、利欲、自己顕示欲、復讐、怒り。己の本能のままに動く他ない。己が獣になる方法は、わしよりそこの軍人に聞くがよかろう」
サイズははじかれたように隣に視線を移す。アンジュは暗い顔でうつむいていた。
「あんまり思い出したくないんだけどな……」
突然話を振られたアンジュは、しかし驚いた様子がない。まるでこの話になったときから、自分に話が及ぶことがわかっていたように、達観した表情で天を仰いだ。
「ねえサイズ、どうしても知りたい?」
「あ、ああ……」
サイズは瞬間的に中途半端な返事をして、アンジュの真剣な表情に気づいた。
「ああ。俺には、人類の発展に寄与する使命がある」
「そっか。じゃあ、言うよ。人を殺す方法。自分が獣になる方法」
アンジュは意を決したように一つうなずくと、とつとつと話し始めた。
「この国の市民階級出身の兵士が最初に受ける訓練、知ってる?」
「魔道歩兵は行軍訓練だが、違うのか?」
「人殺しの訓練だよ」
「人殺し……?」
アンジュは思い出したくない記憶を無理に引き出しているようで、苦しそうに手のひらで額を覆った。
「上官の命令で二人殺すんだ。だいたいは魔族の捕虜。適任がいなければ奴隷から見繕ってくる。私の家はおじいちゃんもお父さんも軍人の軍人一家で、私が入隊するのも決まってたから、私が初めて人を殺したのは、七歳のころだった。一人目は奴隷の男性だった。薬ヅケにして、意識が朦朧とした相手を、手に持ったサーベルで一突きさせる」
サイズは薄暗い密室を想像する。窓のない、明かりといえば部屋の隅にポツンと置いたロウソク一本の密室。部屋の中心では椅子が一つだけ置いてあり、そこに憔悴しきった男が座らされている。その前には幼い少女がサーベルを片手に立ち尽くし、隣で慇懃な軍服に身を包んだ上官がいかめしく直立している。
「なんでかわからないけど、みんな嫌がるんだ。私も嫌だった。泣いて拒否した。すると上官に殴られる。それでもできなくて泣きつくんだけど、何度も殴られたり蹴られたりして、ようやくサーベルを構える」
七歳の少女に、人と奴隷の違いはわからなかった。まったく無抵抗の人間を、圧倒的優位に立っている人間が、自らの意思で殺す。自分を殺さんとする相手を、生存本能に任せて殺す戦争とは違う。その殺人には、本能ではなく、意思が介在する。人のまま人を殺すことを強制されるのだ。
上官に殴られるたび、少女の心は獣へと変わりゆく。殴られたくない、殺されたくないという安全欲求から獣の本性を強制的に引き出される。少女の震える手で握るサーベルは、なかなか胸を捉えなかった。うまく力が入らず、刃が体の中で止まった。心の中で「ごめんなさい」と念じながら、「仕方ない」と言い訳し、早く終わらせたい一心で刀をねじ込んでいく。
根本まで差し込んで、突如人に戻った心が目の前の物体を拒絶し、磁石が反発するように柄から手を放す。息も絶え絶え床に倒れ込む。心に罪悪、自責の念、聞いたことのない死者の声が去来する中、上官が「よくやった」と、許されざる行為を称賛するのである。
サイズは一度も見たことのないその光景を、しかし何故かありありと想像することができた。
「二人目はウェアウルフの捕虜だった」
サイズはごくりと唾をのんだ。一人でも凄惨な殺人である。二人目を殺すとき、人は何を思うのか。
「一人殺してから、だいたい半年くらい。次はウェアウルフの捕虜だった。情報を引き出す価値のない雑兵だって。ただ最初のときと違うのは、彼は素面だった」
素面。つまり薬も酒も入っていないということだ。抵抗し、悲鳴を上げる。種族は違っても、より人間に近い相手である。
「散々暴れた後だからか元気はなかったけど、手足を縛られて壁に括りつけられた彼の目は、ずっと私をにらんでた。一人目を殺した記憶があったけど、殴られるくらいなら殺せるつもりでいた。でも、今度は簡単には殺させてくれなかった。右腕を落とすように命令されたんだ。泣きそうになりながら上官の顔を見て、でも上官の顔が怖くて、私はサーベルで肩を切りつけた」
少女は、哀れにも蹂躙される敵を目の前に、記憶のフラッシュバックに耐えた。殺せるつもりでいた、殺害を決意した彼女の胸中は、サイズにはわからない。殴られたくないという本能か、運命にあらがえぬ諦観か、あるいは他人に拷問されるよりは一瞬でという救済、もとい言い訳かもしれない。
しかし彼女の、その異常な楽観は見事に裏切られる。一瞬では殺させてくれないのだ。少女の顔は苦痛にゆがむ。きっとこれ以上ないと感じただろう、人を殺す恐怖の、さらにその上を行く、人を嬲り殺す恐怖である。少女はたまらず上官を見た。とてもできないと目で訴えかけるが、上官の目は人ではなかった。再び心の中の獣が「逃げよ」とささやく。この際の「逃げよ」は、恐怖からの逃避、現実からの逃避、理性からの逃避である。
そして彼女は刀を振り上げると、人と獣を行き来しながら、意識、無意識の判別がつかぬ状態で腕を振り下ろすのである。
「悲鳴が上がって、それを聞いてるのがつらくて、でも骨が固くて全然切れない。悲鳴が聞こえないように叫びながらサーベルを力任せに押し込んでると、上官がノコギリを差し出してきた。私はそれを受け取ると、一心にノコギリを引いた」
かろうじて残る人の心が、悲鳴を拒絶した。悲鳴を声でかき消し、サーベルを打ち付ける。早く終わらせたいのに力は入らない。そんな中渡されるノコギリは悪魔のささやきである。徐々に切ることに特化したその形が、最も早く人を殺せる形に見えるのである。かくして少女は軍人の魂を拷問器具に持ち替えた。
「やっとの思いで腕を切り落とすと、今度は傷口を焼いた。気づくと彼は気を失ってたから、水をかけて無理やり起こした。次は左足を落とすように命令されて、そこから先はあんまり覚えてない。気づいたら首を切って殺してた。死体には腕も足も、目も耳も残ってなくて、生皮もはがれてた」
徐々に骨を削っていくうち、悲鳴が聞こえなくなったのは、気絶したからか、あるいは心を完全に獣に支配されたか。知能ある獣は理性の抵抗を失い、言われるままに傷を焼いて止血し、水をかけて覚醒させ、また蹂躙する。
ようやくすべてを終え、人に戻った少女は、しかし初めて人を殺したときのような反応をしなかった。むしろ冷静に状況を確認し、記憶にとどめている。いやそれは、果たして人に戻ったと言えるのだろうか。
「それから私は、殺人に躊躇しなくなった。初陣ではみんな、幼い私を撃つ前に隙ができた。でも私はその隙に首を切った。たぶん生存本能なんかじゃない。戦場にいるときの私は、たぶんすごく楽しそうにしてる。天使なんて、何でそんな名前になったんだろう。いつの間にか私は、悪魔と呼ばれるようになった」
サイズは壁に手をつき、額を抱えた。耐えがたい吐き気に意識を保つのが精いっぱいだった。
人は人のまま人を殺せない。悪魔、悪人とは、獣に身をやつしたもののことである。
アンジュの言葉が、サイズにはとてつもない皮肉に聞こえた。人の命をどうこうするのは、人を捨てた獣か、あるいは神にしかできないことなのだ。
「どう、サイズ? それでも人を捨てる?」
サイズは答えなかった。進化論が例えば事実なら、獣から変化した人間が、しかしその本性はやはり獣である。理性で外を包んでいるだけで、それを剥がしてしまえば獣の性が姿を現す。
獣になるとはどういうことか、人を捨てるとはどういうことか。それは良いことなのか、悪いことなのか、あるいはもとより善悪などないのか。ただ一度獣に身を落とせば、どんなに上から理性を張り合わせても、もう完全に元に戻ることはできないのだと、サイズはアンジュの目に思った。
「帰ろう、アンジュ」
サイズはクラクラする頭を支えながら、フラフラと歩きだした。アンジュは何も言わず、サイズの後ろに付いた。
サイズは、これを聞くためだけに長い旅路を来た。そして一度は、それすら聞かずに帰ろうとした。きっと心のどこかで、何となくわかっていたのかもしれない。だから、聞きたくなかったのかもしれない。人が人でなくなる方法を。
今はとにかく、広くて明るい場所に出たかった。