四の華・食べ様
お気に召しましたか?
え? 『すごく美味しい』? それは良かった。
時にあなた様……妖精を食したことはおありですか?
ええ? いえいえ、そのようにびっくりせずともよろしいですよ。
あなたそれこそ貝殻虫の「コチニール」よろしく、売り物のふりかけなぞに入っているやもしれませんし。
知らないうちに口にしているやもしれません……。
いやいや、おどかすのではないですよ。
実際「粉妖精」なるものが砂糖の代用品としてまかり通っている今日このごろ、妖精を口にしたことのない方のほうが少ないやもしれません。
え? 粉妖精をご存じない?
ははは、ご冗談を……はい? 本当にご存じないのですか?
いやいや……! これは小生、妖精家業にいささかずっぷり浸りすぎたと見えまする。
ははは……いや、よけいな情報をお耳に入れようとしているのやもしれませぬが。「粉妖精」とは文字どおり、妖精を粉にしたもので。
たいていは植物性のものですが、動物性のは脂がわりに、肉製品に混ぜ物するとか申します。
植物性のは先ほど申し上げましたとおり、砂糖の代わりに使用されます……なにせ元が植物ですから、言ってみれば「甜菜糖」や「きび砂糖」と変わりません。
はい? いやいや、今ほど紅茶に入れましたのは粉妖精ではございません。単なる和三盆糖でございます。
ははは……あなた様は本当に純でいらっしゃる。
うちのような店にやってくるお客は、皆粉妖精を浴びるように紅茶にぶちまく輩ばかりでらっしゃいますから……。
いやいや、お客様の陰口を言っちゃあすみませんな。
今さらですかな……ははは、失言々々。
ところで、お茶のおかわりは……?
ははは、大丈夫でございます。本当にただの和三盆糖でございますよ。