一の華・妖精とは
時にあなた、妖精はお好きでらっしゃいますか?
『見るのは好き』? それは何ですね、野生の妖精がひらひら無邪気に飛んでいるのを眺めるのがお好きだと?
はあ、そうですか。そうですよね……まあたいがいのまともな方なら、皆様そうおっしゃるだろうと存じます。
けれども中には居るのですよね。
死骸にしか興味のない方。
可憐な羽根をむしっては、苦痛と絶望に泣き叫ぶその表情を好まれる方。
家飼いでいっさい外に出さずに、自分の部屋だけで飛びまわる生き物を「愛でる」方……。
いえ、何も否とは申しません。人間の幅もいろいろ、とくれば好みもいろいろございます。
まあ個人的にはお近づきにはなりたくない方ばかりですが……。
またこの店にくるお客が、そんな方ばかりときています。
あなた様のような方がいらっしゃるのは、本当に久しぶりでございまして。ついついお相手を務めとうなってしまいました。いやいや、お恥ずかしい。
しかしこの妖精という生き物は、本当に不思議なものですな。
なんでも昔、この老爺がこの世に生まれるずうっと昔に、この世界と別の世界のさかいの壁に「ずほん」と孔が開いたとかいう……。
時空の歪み、星のくしゃみやらはたまた神様のいたずらやら……今日でも説ならいろいろございます。
しかし実のところは何で孔などが開いたのか、今もって名のある学者が、百人首をひねり通しても分からんという……。
ははは、それはわたしなんぞが首をひねっても分かりようがございませんが。
ともかくもその孔の開いたことで、この世界と別の世界との行き来が容易になったのですな。
まあたいていは望まんお方が、望まん形で向こうの世界に迷いこんで、それを俗に「神隠し」とやら言ったりしているんですがな。
とにかくまあそういうことで、その昔は伝説やおとぎ話にしか出てこなかった「妖精」という生き物が、あちらの世界からこちらの世界に、小花のようにひらひら舞いこんでくるようになったのですな。
あなたもご存知のとおり、妖精はそれはもう美しい生き物です。
多くは少女の姿をし、とんぼや蝶のような羽根を背中に咲かせて飛び回る……小さな、愛らしい生き物です。
妖精にもそれはもういろいろな種類がいましてね……。
そうですね、今度は妖精の種類や「愛で方」についてお話をしましょうか。
え? 『本題はまだか』?
ははは、まあまあそう焦らずに……。
お茶のおかわりはいかがです? お茶菓子はお気に召しましたか?
ああ、蜜蝋燭にちょいちょい煤がつきだしました。
ちょいと掃除といきましょう……。