環と隣人
―ピピピ―ピピピ―
目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。アラームの音の種類は鳴り響いているそれのみ。特にこれといった特徴のないシンプルなデザインだ。
―ピピピ―ピピピ―
シンプルなそれは役目を果たす為に鳴り続ける。目覚まし時計の役目とは設定された時間ちょうどにアラームを鳴らすことだ。設定したその持ち主を起こす為に。
―ピピピ―ピピピ―ピ―
そろそろ目覚まし時計自身もアラームを響かせることにむなしさを感じ始めた頃、もぞもぞと音のする方へと手が伸び、ついに目覚まし時計は今日の役目を無事に終えることができた。アラームを止めたのはもちろんこの目覚まし時計の持ち主だ。
「ふぁ…」
顎が外れそうな位あくびをしながらも、うーんと伸びをして先程まで眠っていた体に朝が来たことを知らせる。そして朝日を浴びることも忘れない。閉めていた青いカーテンをレースカーテンごと思い切り開け、腰窓を開ける。窓を開けると隣の家の2階の窓がちょうど同じ高さに見える。
数時間前に迎えたばかりの朝の空気とその光を体に取り入れることが、相澤 環の日課である。
すぅーっと大きく息を吸い込む環。
するとそれを見計らったかのように突然開くのは隣の家の窓。
「たまき!おはよう!今日もカッコいいね!もう大好」ガラガラピシャッ
相手の言葉の途中で窓を閉めるなど本来であれば大変失礼なことであると高校2年生の環は分かっていた。
分かってはいるのだが、毎朝狙ったかのように窓を開けて熱烈な挨拶をしてくる方がよっぽどご近所迷惑だと環は常々思う。
ご近所迷惑な隣人の名は五十嵐暖
こちらの窓を閉めてしまえばさっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返る。ただしそれはあくまで今のところ、だ。
「…今週はこれで1勝4敗か…
勘弁してくれ」
朝の深呼吸がまともにできず、シンプルな時計を好む男子高校生はそう呟きながらも口角は上がっていた。