選択 -願いを叶える話-
昔から選択するのは苦手だった。
周りに流されて後悔して、独りよがりで後悔して、上手くいった試しはない。
そんなボクに神様が問うた。
「選択してください。あなたのやり直したい過去を」
胡散臭い謳い文句だった。
「なぜボクにそんな言葉を」
当然の疑問からの問題提起。少し黙って神様が考える。
思いついた様な顔をして一言。
「不器用な貴方に興味を持ちました。人生の選択をやり直したくはないですか。まあ、動物実験と思っていください。」
どうやら神様、さすが神様と言った所。興味の方向が人とは離れていることだけはよくわかった。
「不本意な表情もされてますね。」
少し俯いたボクの顔を覗き込む様に神様の顔が近付いた。
神様の瞳に顔をしかめるボクの顔が映る。
「どうしてボクなんて選んだ。そういうことを願いそうな奴なんて数知れないと思うけれど」
こういうチャンスはしかるべき人間に渡すべきだと思う。僕なんかが使っていいことがないはずだ。
「あなたが変えられる世界なんてものは、世界の本筋には届かない微々たるものですから。欲しがる人は、変な気を回しちゃって世の中を乱しかねません。」
どうやらボクはちっぽけな人間だから選ばれたようだ。自分の人間としての可能性は打ち止めなのだろう。気持ちショックを受ける。
「それでどうします。過去を選んでください。チャンスは一度、不平等に訪れます。あなたは何を選びます。」
神様の薄気味悪い笑みと共に僕の世界は暗転した。
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瞼を広げるとそこは教室。
いい思い出と嫌な思い出両方が入り混じる青春の城である母校の中学校である。
窓のほうに顔を向けると沈みかけた太陽から光が届き、思わず顔をしかめてしまう。
自分の格好が学ラン姿であることに気づき、中学を卒業した身で制服を着ている事実に思わず笑いがこぼれる。
窓から教室の出口へと目線を変えると彼女がいた。
ボクの人生の初恋の少女。
当時の姿でボクを見ていた。
「久しぶり。元気だった?」
挨拶をする彼女から当時のままの快活さで懐かしさを覚えてしまう。
「ぼ、ボクは元気にやっているよ。一人暮らしも慣れたし、料理もできる。」
少したどたどしくなりながらも自分の近況をこたえる。
「なんだか、制服姿ですると変だね。大学生みたい」
クスクスと笑いながら彼女は答える。
「大学生なんだから、ボクは。話せる話題なんて特にはないよ」
あの頃のような軽口を叩く。ドキドキしている自分がどこかにいた。
「でも、ここだと私もキミも中学生だよ。」
中学時代の彼女がいるということはそうなのだろう。ボクは女子でもないから身だしなみに鏡なんてもってはいない。確認はできないがそういうことだろう。
「ここは夢ってこと?」
彼女に問うと、
「夢と現実のハザマかな。キミが望めばここは現実、望まなけらば夢のまま」
彼女は答えた。
都合の良い、ご都合主義な話だと思う。
「私からも一ついい?」
笑みを浮かべた彼女は問う。
「やり直してみない。私たちの未来もあったかも」
彼女は少し笑って笑顔を向ける。
「おもしろいかもね。見てみたい」
釣られてボクも笑って言ってみる。
「気づいているよ。おもしろいなんて微塵も思ってないことを」
どうしてと音になったかわからない。そんな言葉と感情のはざまの想いがボクを貫く。
「キミは私と喋っていると思っていたけど、実際は違うよ。私は貴方の記憶の私。多分、所々に美化されている。そんな私。」
「知ってるよ。キミは結婚するんだ。風の噂で聞いた。デキ婚するらしいね。」
「そうキミが知っているなら私も知ってる。なら私をどうしてキミが思い出したか?それはわかる?」
筒抜けの想いを言うかどうか迷ったが、この想いにピリオドを打つ。
「好きっていなかったこと一番の後悔だった。だから全部引きずった。」
軽くボクは息を吸って想いと一緒に吐き出す。
「終わりにするよ。あの頃ボクは好きでした。」
微笑む彼女そして再度問うた。
「やり直してみない」
先程とは違い淋しそうに笑っていた。
「後悔ばかりの人生だけど、嫌じゃなかった。やり直しほど悪いものじゃないんだ。だから、ボクは大丈夫。」
彼女は淋しそうにボクを見つめ、じゃあねと手を軽く振った。
ボクはまた暗転した。
最後に見えた彼女は泣いているみたいだった。
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ボクと彼女は別れ、戻った時は神様もいなかった。
後日、彼女の夫はDVをやっていたらしく、彼女はそれを苦に自殺してしまったらしい。
奇跡に二度目はなく、多分、ボクはまた間違えた。
久々に思いついたものを整理せず、思うが儘にキーボードをタッチしていました。
楽しんでいただけたら幸いです。