断末の叫び
「もう少しそばにいさせて」
囁くように言い、肩に頭を寄せる女性の顔を僕は思い出せない。
自分が最後に記憶があるのは、飲みっぷして歩けなくなり、公園脇のベンチに横になった事しか思い出せない。それが目が覚めたら、この状況だ。
女性は昔の彼氏のずさんさを毒吐いていた。その話しの流れを聞いていると女性は彼氏の浮気に落胆をし、自殺を図り死んでしまったらしい。その死んでしまった女性、いわば幽霊を僕は口説いてしまったらしい。
「もう離れたくない」
取り憑かれたという意味なのか、長い前髪から光る鋭い眼差しが不気味だ。少し怖くなり立ち上がると、
「どこに行くの?」
「黄泉通り」
自宅前の通行通りを告げ、その場を離れようとしたら、女性はもの凄い勢いで後ろからしがみつき、公園裏にある墓地へ引きずり込もうとしてきた。
予想外の出来事に悲鳴をあげるひまもなかった。ずりずりと引きずり込まれるにつれ、死の恐怖が迫ってくる。それはおびただしい怨念の層に包まれ、自分という存在が同化されていくようだった。
僕は死期を感じた。だがその心は思っていた以上に安堵していた。僕には家族も妻子もいない。あるのは株に負けた多額の借金。借金を背負うくらいなら、もう死のうと思って時のこれだ。
不思議と笑いがこみ上げてくる。暮石に入るのが嬉しいと思ったのは僕くらいだろうか。地獄には苦痛があるが、借金がなければそれでいい。一攫千金の蜘蛛の糸を見つけさえすれば、僕はまた元の世界へと戻れるのだ。