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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第四章 天雷鎚・サンダハンマー
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天砕/沖和正

和正は地の揺れるような音と共に、建物七階、ガラスの外壁がけたたましく割れる音を聞いた。それとともに中から弾き飛ばされた何かが、逃げるように、さらに上の階へと外壁を駆け上がるのも同時に確認した。そしてそれを追って外壁を走る、光り輝く白閃――

「状況は」

『汽嶋巡査が負傷しました』

「生死に関わるか」

『残念ながら……生きてます』

『っざけんな、すぐ治んだよッ。勝手に殺すな』

「なら、いい」

――お前らに、興味はない。

「“対象”の状況は」

「多分もう意識、無いです。私達の事も分かんないみたいで……鬼人危険指定特Ⅰ種はあります。正直、特Ⅱ種の無力化対象(レンキ)より厄介です」


そこでまた、バリィッと周囲に音が響いた。それにまた、驚いたような声が上がる。どうやら長い尻尾のようなものが、逃げるそれを、再び建物内に押し込んだらしい。

「三位明崇の、発現レベルは」

『尾はもう大分……後、もう始翼が』

――分かった。

「統括班の指示を受けて全員外付けから17階に上がれ。対象はそこに逃げ込んだ」

「……了解です」

そこまで言って、インカムを切った。

始翼。そこまで発現が進んだということは。

「使ったか。赤ラベル」

まぁそのほうが有りがたい。貴重な臨床データになる。


和正は、今回の事件の犯人、鳥越充が人間離れした身体能力を持つ、いわゆる鬼人であることも、既に承知している。別に今に始まった事ではない。ずいぶんと昔から、鬼人化した人間が絡んだ犯罪は起こっていた。なにせその矢面に立ち、表向き対応するのが、和正の役割なのだから。

十五年前、東京都鎌田、住宅街での針鼠(ヘッジホッグ)と呼ばれる鬼人による連続殺人事件。

三年前の真鬼と呼ばれる骸鬼形態鬼人及びブルーギルと名乗る鬼人による警察大学校襲撃事件。

上げればキリがない。全て和正の班が対処した事案だ。

先に突入したあの三人は、その和正の直属の部下に当たる。そして鬼人に対抗するわけだから、彼らも同様の存在でなければならない。

つまり、鬼人である。

しかし三位明崇は鬼人ではあるが、和正の部下ではない。

あいつは、特別だ。


三位明崇は発現過多が起こった鬼人の中でも、レアな遺伝子をコードしている。過去の分類上その遺伝子を発現する個体は“龍鬼”と呼ばれる。

まず特徴として他の鬼人と異なり、発現初期は全身に鱗状の金剛骨・『龍鱗』の形成が見られる。そして尾骶骨から強靭な『龍尾』、発現が進むと最後は肩甲骨から腕状の翼の形成核、『始翼』が生じる。その姿は他の鬼人と大きく異なり、現実離れした存在だ。

過去に存在した龍鬼は彼を含めて歴史上たったの四例。

鎌鬼もそうだが、あれはまた格が違う。伝播(いでん)しない超の付くレア個体だ。

その境遇のために明崇自身が、悩み、苦しみ、足掻いて。ここまでを生きてきたのを和正は知っている。

――さぁ、もっと苦しめ。

その先に明崇。お前は何を見出す。

彼の行く先を見守る、それはもう一つの和正の、役割でもあった。

これはもはや、父親の勤め、と言い換えてもいいかもしれない。

「期待しているぞ」

和正が笑う。その横顔が、醜く歪んでいた。


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