暴龍/高峰詩織
『よし、ゴー』
行け。その合図で、制圧一班の詩織は五階ホールの中に突入した。ともに一班の汽嶋と石田が続く。
上を見上げると、すぐに対象二人を確認できた。秘密裏に支給されたMP5に似せた改造サブマシンガン。それを上方に向けると、
何かはじけるような閃光が奔った。
――誰か、線光弾使った?
そんなわけがない。あんな高い所で。アレは……。
天井付近にいる対象1の背後が輝いている。その姿が――消えた。
ぴかり、ぴかりと。白い閃光が弾ける度にその姿が見えなくなる。
対象2はその度に一撃を受けているのか。体勢を崩し、落下。しかし六階の半ばあたりで持ち直している。
「撃ちまーす」
汽嶋が躊躇いなく、安全装置を外して発砲した。
それを横目に見て、詩織と石田は上の階へと進む。その中途で一瞬、対象1のその、現実離れした姿の全貌を捉えることができた。
彼はかろうじて、人としての姿を保っていた。しかし本当に、“かろうじて”と言うのが正しい。
――明崇君……なんだよね?
巨大な何かが真横を掠めた。そう思ったのは、どうやら対象1の尾骶から伸びる尾であるようだった。それが広いリーチを持って、先ほどから対象2を襲っている。
『状況は』
三人以外にも聞こえる方のインカム。堀田が応答を求めた。
「たッ、待機してください」
また一撃が、掠めた。
『何』
ここは、どう言うのが正解か。
「対象は七階。外付けの階段を上がって」
『急襲が正解、か』
「はい」
『了解した』
ったく。三人でどうしろって……
サブマシンガンを3点バーストに切り替える。狙いは……対象2。
するとそこで、閃光と共に対象1が目の前――
石田の近い位置に、飛来した。
「石田さんッ、横ッ」
石田は詩織が声を発するより早く横っ飛びに避けた。するとすぐに対象1の姿が、また閃光と共にふと消える。
今のって……。
詩織は絶句した。
確かに、見た。対象1、三位明崇の背中、両方の肩甲骨から、二本の腕とは別に、腕に非常に良く似た金剛骨組織が飛び出している。
つまり一見すると、腕が四本ある様に見えたのだ。
そして先ほどから電気を帯びて発光しているのは、どうやらその四本の腕、その掌であるらしい。
「石田さん……」
「集中しろ」
石田が通路を横に滑り、位置を調整。再び対象二を狙う。
カカカッ、ガガッという、サブマシンガン特有の掃射音が縦穴に鳴り響く。
しかしそれを、圧倒的な反射速度で、対象2も躱す。
こっちもこっちで……。
そしてその音に充てられたか、対象二は詩織と、石田めがけて駆け上がってくる。
「もらったッ」
そこに軽い口調が漏れ聞こえてきた。
汽嶋が手すりに乗り出し、跳んでいる。そして宙に浮きながら、自動連射――
ダダダッと。腹に響くような破裂音。それが、対象二だけでなく、追随してきた対象一にも直撃した。
「馬鹿ッ」
汽嶋はそのまま跳躍した延長線上、エスカレーターに跳び捕まった。
――明崇君に当ててどうすんのよッ
『汽嶋、なぜオートで』
石田が注意しようとした、その時だった。
被弾した、対象1の姿が、四対の腕のスパークと共に、消える。
えッ……。
そして、数秒のまもなく。
丁度縦穴の中心部に、対象1がその姿を現した。次の瞬間――
その尾のフルスイングが、対象二と、汽嶋。それを含めた延長線上を斜めに刈り取った。