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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第四章 天雷鎚・サンダハンマー
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前線決意/三位明崇

明崇は、商業施設の奥、真夜と身を潜めていた。

「あァ、んぅッ」

「だ、大丈夫……?」

全身の熱が引かない。鬼人化するとだいたいこうなる。全身熱くて、抑制を聞かせるのが難しい。今。二人は婦人服コーナーの裏、エスカレーターを背にして座り込んでいる。

明崇は先ほどの、鳥越との戦闘を思い出していた。


勝算が、見えない――。


最近相手にした鎌鬼が全て鳥越という個体だったと、言い切ることはできない。しかしそれにしてもあの筋力とスピードは、今までの戦闘経験からしても、明崇の想像をはるかに超えていた。あれは恐らく、内からくる強さではない。外からくる強さなのだろう。


鬼人化は、感情に大きく作用される。感情の高ぶり、激昂、アドレナリンの亢進。しかし、あの強さはいわば、ドーピングでもたらされたようなものだ。全身からあれほどの量の金剛骨が析出する現象が、今まで自分の身に起こったことは無い。


だったらこの場合、明崇もドーピングを試みるしかない。


「何、してんの……」

胸ポケットをまさぐる。取り出したのは赤色のラベル、ポンプが付随した注射器だ。

「いいから……、俺の事ほっといてさ。早く行けって」

「で、できるわけないじゃん」

先ほどから、この問答が続いている。

「あそこからなら外、出られるかもしんないだろ」

「馬鹿言わないで。あそこ、どう考えても行き止まりだよ」

そう。この奥に道は無い。逃げ込むところをどうやら明崇は、間違ってしまったらしい。

「俺と一緒にいるのが、マズいんだって」

「だからっ……それが、やなの」

真夜の声が小さくなる。彼女が顔を伏せたのを見て、注射器のキャップを取り外した。

すると真夜が明崇の鱗だらけの手に、そっと自分のそれを重ねる。


心臓が、跳ねた。


「ねぇ、これ。何しようとしてるの。まさか」

――鳥越とまだ、戦う気?

「だったら「止めて」

何だよ、と続くのを遮られた。

――もう、やっぱさ……そういうの止めて。

でもそう言われても、俺は鳥越と決着を付けなければいけないのだ。凍結された明崇の過去、家族、弟。それに肉薄する大きな手がかり、そこから目を背けることなどできない。


「俺、行くから……」

立ち上がろうとすると、真夜がその、腕を掴んで離さない。彼女の細く白い腕には、先ほど明崇が買ってプレゼントした、水玉柄のシュシュが既に巻かれている。

「真夜、なんで……」

明崇は真夜が何故、自分の様な人間にここまで頓着するのか不思議でならなかった。明崇はそこまで顔が良いわけでもないし、性格もむしろ、取っつき難い方だ。

「何だって、いいじゃない……」

真夜は近くで見るほどに、やはり綺麗だった。

こんな時でも、言えない。昔から、真夜に惚れていたなんて。

――言えるわけ、ない。

「頼む。今は俺の事、黙っていかせてくれないか」

明崇は、無理をして笑った。こうやって笑うと口角が引き攣ってもっと格好悪いよと、前に真夜に言われたことがある。

「後で何だって、真夜の命令に従うよ。何でも我儘、言っていいから。今は俺の我儘を」

――通させてくれ。

「だったら、約束」

「うん」

彼女はこういう時、なんとお願いするのだろう。少し興味があった。

「ちゃんと生きて戻ってきて、そしたらさ……私の物になってね」

――もうどこにも、いかないで。

真夜が笑うとその目から、大粒の涙が、一片落ちた。

心臓が一瞬、拍動を止める。

体の芯が、空っぽになったようになって。

明崇はすぐには、言葉を発することができなかった。


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