突入作戦/藤堂浩人
外に出ると、所轄の警官でごった返していたものの、もはや浩人と璃砂にできることは何もなくなっていた。ここから先は捜査一課でも浩人の古巣、特殊班捜査係SIT、もしくは警備部の誇る最強の戦闘部隊、SATの管轄だ。特に今回の状況を見たところ、人質を取った立て籠もり事案でもないので、SATが出向くことになるのだろうと浩人は踏んでいた。
――そうなると、中に取り残された人たちは……。
浩人と璃砂はすぐ近くの、捜査本部として設置された都会に似合わないテントで二人の男女を保護し、念のため事情を聴いた。
二人は双子の兄妹だった、登田剛、亜子。互いに高校一年生。鳥越充の勤める高校の研修旅行でこの渋谷を訪れたと二人は主張した。話を聞いていると、果たして。決定的な事実を彼らは口にした。
「間違いないです。アレは、まぁバケモンじみてて中々信じられないとは思うんすけど……あれはうちの教員の、鳥越充で間違いないっす」
亜子という妹の方に聞いても、間違いないという証言が得られた。
そして。
「中に、俺らのダチが……二人。閉じ込められてます」
名は、三位明崇、そして、桑折真夜。
それを聞くと亜子は目の端に涙を溜め、なぜか璃砂も険しそうな顔をした。
人通り話を聞き終えると、次はその剛の方から、なんと質問をしてきた。
「あの、このままだと明崇と真夜。どうなっちゃうんすか。いつになったら、なんていうんだ……特殊部隊とか。到着するんですか」
あろうことか浩人は、言葉に詰まってしまった。
しかしそこでなんと、剛が続いて、驚くべき発言をした。
「あの、俺、二人を助けたいんですけど。お二人。協力していただけないですかね」
「は?」
こいつ、子供の癖に何を言っている?
「あのな、あれを見たろ?君たちじゃどうこうできる代物じゃない。それこそ、SATの到着を待って」
「別に、俺達が中に入って何かするってわけじゃないです」
――俺は二人を、外に出す方法を知っています。
「ウソを吐くな」
するとそこで、璃砂が馬鹿げた事を口にした。
「藤堂さん、彼らの提案、聞いてあげましょうよ」
璃砂……何でそんな、真剣な表情で?
「門田、お前な……」
「お前って呼ばないでください。それと、その前に私の話を聞いてください」
彼女は未だ真剣な表情だ。
「浩人さんは覚えていないかもしれませんが、以前新宿の路地裏で襲われた私達を助けてくれたのは、今閉じ込められてる、その……明崇君なんですよ」
「な、何バカな事」
しかしそこで確かに、思い当たった。あの少年、どこか見覚えがあると思っていた。あの夜、苦しみながらアスファルトにうずくまる彼の表情。その表情と、鳥越充に渡り合うその苦悶の表情は、今思えば。非常に良く似ていた。
「浩人さんも……覚えてるんですよね」
あのときには、既に腹の傷が塞がり、その傷を作った化け物も消えていた。つまり、彼が俺を治し、あの化け物まで撃退したのか?
考えてみれば確かに……浩人を瀕死に至らしめたあの男が、鳥越充であってもおかしくないと言うわけだ。
「アキ君、学校の教室でも、ずっと一人だった、んです」
突然、沈黙していた妹の亜子が口を開いた。アキ君とは、その、三位明崇の事なのだろう。
「アキ君はきっと、あんなふうに、ずっとずっと苦しそうで。だからもう」
――独りにしないであげて欲しいです。
嗚咽交じりの亜子の声。その声に浩人も、璃砂もどうすべきかを考えあぐねてしまった。