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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第四章 天雷鎚・サンダハンマー
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逆鱗/三位明崇

スッ、と。安定した体勢のまま駆け寄った。土埃が晴れ、再び鳥越がその視界に入る。

そして、横薙ぎにその掌底をふるう。

しかしそれを鳥越は、ありえないほどの反射神経で躱してみせる。

次は相手の右手が刃とともに迫ってくる。その軌道を捕捉しつつ蹴り――

受け止められたところですぐその足を戻し、伸びきった右腕を抑える、そのまま全体重をかけ、再び、体勢を、崩す――。


明崇は、実は体術にはあまり自信が無い。しかし、このような動きの一連の流れは、いくつも体に叩き込んでいる。実際流れを覚えていなければ、これほど素早く、同時に体を動かすことはできない。


そしてこの後の手順は。


膝。相手の右腕を、棒を膝で折るように、間接の裏を利用して砕く。

「あぐァ……」

相変わらず、痛みに弱いやつだ。フリーだった左手を、動かそうともしない。その代りよほど痛かったのか、目にもとまらぬ速さで右腕を引き抜かれた。

これで、流石に動きも鈍るか――

予想通りの結果なのか、じりじりとした均衡、硬直状態が数秒訪れた。

その中で、明崇は周囲の状況を素早く確認する。

後藤が起き上がろうとしている。出口側から遠い位置にいるのはあの刑事と真夜達だ。

――今しかない。


鳥越を、何とかして抑える。そしてその間に、真夜達を、皆を逃がす。早くしないと後藤が完全に復活してしまう。そうなったら、誰に危害が及ぶかも分からない。

――仕掛ける。

明崇から硬直状態を破り、鳥越に迫った。

間接を破壊され鳥越は主力の右腕が使えない状態にある。少しはおとなしくなったのだと――そう、思っていたのだが。

「ちッ」

それは大きな間違いだった。

手負いであるほど、鎌鬼は凶暴化するものなのか、抑えきれない、先ほどよりもさらに強烈、かつ素早い拳の一撃が――

「クソッ……がッ」


明崇を襲った。


再び鼓膜を破る様なドォンという轟音と、衝撃。

「かハッ……ぁ」

刃を受け止めこそしたものの、もはやそれも意味をなさない。鳥越自体が巨大な弾丸のように、全身を持って、明崇に衝突した。

また、壁際に――

鳥越の首をがっちりとホールドする。三角締め。その態勢を、少しも崩さない

バン、バン、バンと。何度もその体制のまま、明崇は壁に叩きつけられた。


死んでも、離さない。


今だ。今この状態なら、皆を逃がす隙くらい――。

激しく揺れる視界の右で、後藤が片足で立ちあがるのが見える。時間が無い。

「はぁ……っ、は、走れッ、ここから出ろッ、全員だッ」

しかし、明崇が予想外の方向へ飛ばされ、壁に押し付けられた事で分断されたのか、一人が、通路の反対方向に取り残されていた。


その一人を見て、明崇の中に心臓がサラサラと、砂になっていくような恐怖が生まれる。

取り残され、へたり込んでいるのは――


「真、夜ッ」


逃げろ。何処でもいい。建物の中でもいいから。

「中で良いッ、逃げろッ。俺も行くッ」

――行くから。

そこで鳥越の右腕、間接がもうくっ付いたのか、刃がギラリと蠢いた。

「明崇ッ」

真夜の、今にも泣きだしそうな声が聞こえる。

それを煽るように、鳥越の右腕が明崇の腕に、さらに深々と突き立てられる。

これ以上は、鳥越を抑えきれない。手が力なく解け、鳥越が解放された。苦し紛れの蹴りで、明崇は何とか牽制する。

壁に背を預けながら、それでも明崇は真夜を見ていた。

「良いから……早くッ」

真夜の目を見つめた。


守ると誓った、その人の目を。


その時、一瞬止まったように感じた世界。その視界の中で、残酷に、また。二匹の獣が動き出す。目の前の一匹は明崇に、そして。


後藤が真夜に、襲いかかろうと――


それを見て凍っていた心が、一瞬にして沸騰した。

この野郎――。

真夜にッ……

「真夜に、触んなッ」

怒りで頭が白熱した。その熱は一瞬にして全身に、痛みや迷いを、喰らいながら広がっていく。

――ビキッ、パキッ。

燃え盛る薪が弾ける、それが大音量に増幅されたような音が耳元で鳴る。

意識するより先に腰から金属の鱗尾が、うねる様に飛び出してくるのを感じる。

それは鳥越を瞬時に薙ぎ払い。

「うげッ……ごは」

無慈悲に、後藤の胴体の芯を抉り潰した。



真夜。

彼女を抱き、跳躍する。尾を使って三回上のフロアに素早く着地。その奥の店舗が軒を連ねる商業通路へ――。

明崇は一心不乱にそこめがけ、走っている。

後藤を殺したかもしれないという罪悪感が、明崇の胸を、暗く染め上げていった。

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