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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第四章 天雷鎚・サンダハンマー
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三戦目/三位明崇

「下がってッ」

距離を詰めてくる、二匹の獣。この状況で二人を相手にするのはマズい。定石は……。


――まず片方を、無力化する。


「アキ君危なっ」

先ず襲ってくる後藤の刃。前に出てその刃を、脇に挟むようにして受ける。そして……

「ぅんむッ」

そのまま腕と首に絡みつく。重みで傾いでいく体を下に、先ずは肩の関節を腕を捻って破壊する。そのまま、後藤を下にあおむけにし、それに馬乗りになった体勢。

そのまま勢いよく、残りの四肢の関節を。

「ぐ……ごッ」

手で捻り潰し、足で踏み抜いた。

よし。

――再生に5分、といったところか。

これでとりあえず、その間後藤は動けまい。

「おとなしくしてろ」


しかし。

もうその時には、鳥越が恐るべきスピードで迫っていた。

刃を捉えながら、胴体を抑えにかかる、が。

先ほどとはまるで違う。勢いが強すぎる。

「こ、のッ」

いくら足に力を込めても。

スピードを、殺せない――

既に真夜達は背後から離れているが、まだざわめきの様な大勢の人の気配がある。


体勢が傾き、背後の様子が見えた。


建物内の狭いホールに制服の巡査とスーツの警官が半々。携行許可が下りたのか、拳銃を構えているのは制服の警官だけではなかった。そしてその奥に、まだ大勢の人がごった返している。真夜達とともに先ほどの女刑事が、おののくようにこちらを見ている。


その時鳥越に目を向けると、無防備な鳥越の太いとは言えない首が、金剛骨の羽毛、その隙間から覗いた。

――イケる。

腕を抑えたまま、両手でその首を抑え、捻りにかかる。

「がァッ」

鳥越が、苦しそうに吠える。

しかし腕の先に力を入れると、当然のことのように刃のガードが緩くなった。

明崇の背にズブリと、鎌鬼のブレードが突き立てられる。

「ッ……」

咄嗟に腕を反対の後方へ伸ばす。明崇の腕に軌道が邪魔され、刃が遠のく。鳥越の胴体を足蹴にして、明崇はひとまず離脱した。

「ぁッ、はぁ……」

傷のせいか、息が上がっている。視線からその姿が消えた、そう思ったがどうやら奴は飛び上がり、一つ上の階の手すりに張り付きエスカレーターの上、こちらをうかがう様に睨みつけてくる。


今まで以上に異様な化け物の姿が、そこにあった。


その頭部は今まで以上に多い羽毛状の金剛骨に覆われている。もはや頭部だけではなく、全身に鈍色の結晶のように生じた金剛骨も飛び出している。今まで右腕にしか現れなかったブレードも、短いが左腕でも同様に発達し始めていた。


今まで戦ってきた鎌鬼とは明らかに、何かが違っている。


この状況で神薙があるのと無いのとでは大きな違いだ。

ここは、頼るしかない。鳥越を警戒しつつ、背後に声をかける。

「真夜、亜子、みっしょんだッ」

「ん!みっしょん?何っ」

この状況でも亜子の元気良さに、どこか励まされる。

「頼む、伽耶奈にッ」

「伽耶奈さんに、何ッ」

次に返事してくれたのは、真夜だろうか。

「神薙を届けるように、言って」

そこで視界の端で、間接をすべて破壊したはずの後藤、今までピクリともしなかったそれがもそりと動いた。

一瞬、そちらに気が向いてしまう。

「明崇、前ッ」

しまッ――

今度は、抑えきれなかった。

尋常でないスピードで跳びかかってきた鳥越と接触。明崇はあっけなく後方へと、弾き飛ばされた。

「がぁッ」

轟音と衝撃。施設の外壁へと激突し、明崇は無様にずり落ちた。土煙が、これでもかと言うほどに舞う。そしてそれと同時に、周囲からはキャアッとか、イヤァッとか、割れるような悲鳴が上がる。

阿鼻叫喚の地獄絵図。でも、意識を飛ばしてる暇はない。

うっすらと目を開ければ煙る視界の中で、むくりと起き上がる鳥越の姿が見えた。

ここは、できるだけ時間を稼ぐ。人が外に出れば、集中して戦えるはずだ。


そしてここにきて、うるさい発砲音が響いていることに気付いた。警官が携行した拳銃、その銃口を鳥越に向けているのか。しかし、鬼にただの拳銃では効果が薄い。それでは大したダメージに、なりはしない。


やっぱり、俺が。


今は神薙こそ手元には無いが。抑え込むくらいの事はできるはず。

もう鱗の発現は大分進行している。頬はまた、目も当てられないくらい醜く歪んでいることだろう。

だからこそ今の俺は、やつとまともに張りあえる唯一の存在なのだ。化け物には化け物を。

それに――こんなヤツのために、命を損なう警官は、居て欲しくない。


明崇は今一度決意し、鱗で硬くなった拳を握り直した。


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