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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第三章 嗤魔群・ラフィンレギオン
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研修旅行4/三位明崇

打ち合わせの通り、お土産を買って、剛と合流しようという話になった。


三人はすぐに、銀座線で渋谷に向かった。有名なハチ公前で待ち合わせをし、剛を加えていつもの四人、その他に剛の班の同級生や、真夜についてきた三島を引き連れて、渋谷を練り歩く。


これだけ大所帯で歩けば、普通、行先でもめそうなものだが。


「あたし久々にあそこ行きたい。ディズニーストア」

真夜がそう言えば、自然と皆の足はそちらへと向いた。


――これも、カリスマ性と言うやつだろうか。


渋谷ともなると、流石に人が多かった。浅草寺ほどではないが、前をしっかり見ていないと危ない。グループも気が付けばバラバラに別れ、四人は先にそのディズニーショップについてしまった。


「ねぇね、似合う?」


亜子が陳列された、キャラの絵と模様で縁が彩られた、派手なサングラスをかけてポーズをとる。見た目はもはや、明崇にとってはギャグとしか思えない。それくらい派手なメガネだった。


「……バカっぽく見えるぞ、亜子」

「あ、アキ君笑ったなぁ」


そんな明崇は頭部に突然、何かをかぶせられたのを感じた。


「く、くくっ。似合ってるよ明崇。バカっぽい」

頭に手をやると、何かカチューシャの様なものが落ちた。ご丁寧に鼠の耳付き。

「真夜、お前……」


やりやがったな。


「あ、いいないいな。亜子も付ける」

「おい、売り物にベタベタ触るなよ……」

剛はこんな時でも亜子の兄として、保護者の様にふるまっている。

すると唐突に、亜子は。

「そんな事言うお兄ちゃんは、こうだっ」


振り返った、剛。その頭から、黒くまるい耳だけでなく、ミニー仕様だろうか。赤の水玉のリボンが覗いている。

「剛、ははっ。何だそれッ」

明崇は堪えきれず、噴き出した。

「け、傑作……」

「わお、お兄ちゃん似合ってるぅ」

「亜子……お前なぁッ!」

「あははっ、お兄ちゃんが怒ったぁ」


そう言えば。真面目で常に落ち着いている剛が怒ったのを、明崇は一度も見たことがない。すごく新鮮だ。そして剛と亜子はその後も、仲良くじゃれ合っている。

こういうのも、兄妹なら。昔は珍しくなかったのだろう。


そんな二人を見てふと、悪戯心が生まれる。明崇は真夜の頭に、先ほどのそれと同じものを、お返しとばかりに素早くかぶせた。しかし彼女はそれを取ろうとはせず、見上げてくる。


「似合うな……」


真夜が付けると、なんだかとても絵になった。黒髪に赤が、とても映える。

「何その上から目線。ムカつく」

そう言いつつ真夜は頬を赤く染め、今日一番の笑顔を見せてくれた。



帰りに真夜、亜子がねだるので、明崇は二人に、色違いの水玉柄のシュシュをプレゼントした。それ以外にもたくさんのグッズを、四人で買い込んだ。特に明崇がこの年に見合わない大量の賃金を所持していたので、これだけの量になってしまっている。


「明崇……ごめんな亜子があんなにねだって」

「いいよ。お世話になったのは事実だし」


そして、明崇は少し緊張しつつ、剛に紙袋を手渡した。


「あの二人はこれが良いって言ってたからさ。剛は……どういうのが気に入るのか分からなかったんだけど。包みも無くてごめん」


剛が伸ばしかけた手が、躊躇う様に宙で竦む。


「え、いや、いいって」

「いや、受け取ってくれよ。剛には……真夜と亜子と同じくらい、本当に感謝してるんだ」

中には、目立ちすぎない程度の色合いの、ブレスレットが入っている。

「いや、何か亜子の事とか……、こっちこそありがとな」

そう言って剛は強面の顔の割にくしゃっとした、魅力的な笑顔で笑った。



「もう疲れたね……帰ろっか」

真夜が言った。隣の亜子も疲れた顔をしているが、思いだしたように携帯を触り始める。どうしたのだろう。


「あ、あのね。学校は明日もお休みだから……真夜ちゃん、アキ君、今日も泊まっていかない?ってママが」


そう。明日は振り替え休日で学校自体は休みだ。お泊り。あの暖かい空気が懐かしい。


「全然大丈夫だよ」

「うん、俺も」


しかし亜子はまた携帯を睨んでいる。

「あぁーでも晩御飯これから作るから、まだ遊んできてもいいよだって」

とはいっても、時刻は五時半を回っている。

「じゃあ駅ナカになってる、渋谷ヒカリエ。あそこだったらすぐ帰れるし……ギリギリまでいられるだろ」


他に意見は無かったので、一団はその巨大に聳え立つ商業施設の中へと、足を踏み入れた。


見上げれば周囲より明らかに背の高いその施設は、様々な光に照らされて正に都会の象徴と言った空気を醸し出している。



中に見回すと、内部には大きな縦穴が空いていた。その一つずつの階に、様々な店舗が軒を連ねている。その様々な食品や菓子類が並んでいるのが、何気なく目に入った。


「そう言えば……今からお邪魔するんだから、手土産でも買って行こうか」

「そだね。亜子、お母さんって甘い物好き?」

「うん、大好きだよ」


二人は店の、その奥へと入っていく。そこで明崇は何かを感じ、振り返った。


今明崇達のいる階から覗く、一つ上の階につながるエレベーター。それを……


なんと丁度、B組の他の班の学生たちが昇っていく。そしてその中には、途中で別行動をとったはずの後藤と、その後藤を連れ出した教師、鳥越の姿もある。

確かに合流しようとは言ったけど。


――待ち合わせをしたわけでも無いのに。


この時はまだ、そのくらいにしか思わなかった。


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