表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第三章 嗤魔群・ラフィンレギオン
78/287

研修旅行3/三位明崇

「写真っ、写真撮ろ」

先ず浅草に到着するとその人の多さに閉口した。なのに浅草寺の雷門前、そこに一塊になって、集合写真を撮ろうと誰かが言いだす。



ここにきているのは明崇の班だけではない。バスの車内で少し話した程度の三島の班や、その他にもB組の面子はちらほらと見かける。見回りなのか、B組の臨時教員をしている鳥越も見た。きっと他の組の生徒もいるのだろう。

「ほら、明崇もうちょっと寄って」

「後藤君も、詰めて詰めて」

ピースサイン。姿勢を変えずに固まる。

「撮るよー。はい、チーズ」

終わったか……。しかし体を動かそうとすると、隣の真夜にガシッと押さえつけられた。

「もう一枚とりまーす」

何だよ、早く言ってくれ。それにしても何でこんなに女性と言うのは、写真が好きなのだろう。伽耶奈も旅行に行くたびに、いつも写真を撮りたがるタイプだ。

その後も何度か、皆で固まって写真を撮った。


「ねぇアキ君っ、コレ美味しい」


「亜子、口元拭きなって……」

「だらしないなぁ、もう」と真夜が亜子の口元をハンカチで拭う。浅草寺へ向かう中途。案の定亜子は、この買い食いがお目当てだったようだ。


「後藤は……何か食べなくていいのか」

明崇はなんとなく今隣にいる、後藤に話しかけてみた、が。


「いい」

――つか、うぜぇ。


すげなく罵倒されてしまった。二の句が継げずにいると。

「お、仲良くやってるかい?」

臨時担任の鳥越。慣れなれしく二人の肩に手を置く。周りにはなぜか、女生徒がたくさん。

「……な、なんすか」

「明崇ァ、何してんの」

二メートル先。真夜がムスッとこちらを見ている。

「三位君、行ってきなよ。後で渋谷、行くんでしょ」

「はぁ、まぁ」

ここはとりあえず頷いておく。

「後藤君は僕らと行動しよう。後で合流すれば問題ないよね」

そういって後藤と女子を引き連れ、人ごみの中に消えて行く。


「なんだったの、鳥越のヤツ」

「なんか、後藤が連れ去られた」

「え、何それ。どゆこと?」

真夜がくすりと笑った。

「まぁでも先生が付いてるから……大丈夫か。後で先生も渋谷行くってさ。その時に後藤とも合流だな」

「ふふっ」

「何だよ」


真夜は、こんな表情豊かに笑う娘だっただろうか。


「これじゃ、いつもと変わらないね」

いつもって……。ここ最近は確かにそうか。真夜、亜子、剛。この三人としかまともに関わっていないのは事実だ。

「ねぇッ、伽耶奈さんにお土産買おうよ」

亜子が駆け寄ってきた。真夜の彼女を見る目はとても優しげだ。


亜子が話す度に彼女の亜麻色の髪が揺れる。爛漫な笑顔に花を添えているよう。


真夜は亜子が少しでも何か言うたびに亜子の目を見て頷く。時折浮かべる微笑は驚くほどに柔らかい。


まるで姉に話しかける天真爛漫な妹。その妹の話を熱心に聴く大人びた姉。


――じゃあ俺は、この二人にとってどうあるべきなのだろう。


ふと立ち止まる。さほど不快には感じなくなった、浅草のにぎやかな喧騒。先を行く、花のような二人。

居場所をくれた目の前の二人に、そして剛に。嫌な思いは、させたくない。そう、素直に思った。

「どしたの明崇」

「アキ君?」

「何でもないよ。伽耶奈のお土産、俺にも選ばして」

「うんっ」

でも今はこの、心地良い雰囲気に、浸っていても――

罰は当たらないんじゃないだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ