研修旅行3/三位明崇
「写真っ、写真撮ろ」
先ず浅草に到着するとその人の多さに閉口した。なのに浅草寺の雷門前、そこに一塊になって、集合写真を撮ろうと誰かが言いだす。
ここにきているのは明崇の班だけではない。バスの車内で少し話した程度の三島の班や、その他にもB組の面子はちらほらと見かける。見回りなのか、B組の臨時教員をしている鳥越も見た。きっと他の組の生徒もいるのだろう。
「ほら、明崇もうちょっと寄って」
「後藤君も、詰めて詰めて」
ピースサイン。姿勢を変えずに固まる。
「撮るよー。はい、チーズ」
終わったか……。しかし体を動かそうとすると、隣の真夜にガシッと押さえつけられた。
「もう一枚とりまーす」
何だよ、早く言ってくれ。それにしても何でこんなに女性と言うのは、写真が好きなのだろう。伽耶奈も旅行に行くたびに、いつも写真を撮りたがるタイプだ。
その後も何度か、皆で固まって写真を撮った。
「ねぇアキ君っ、コレ美味しい」
「亜子、口元拭きなって……」
「だらしないなぁ、もう」と真夜が亜子の口元をハンカチで拭う。浅草寺へ向かう中途。案の定亜子は、この買い食いがお目当てだったようだ。
「後藤は……何か食べなくていいのか」
明崇はなんとなく今隣にいる、後藤に話しかけてみた、が。
「いい」
――つか、うぜぇ。
すげなく罵倒されてしまった。二の句が継げずにいると。
「お、仲良くやってるかい?」
臨時担任の鳥越。慣れなれしく二人の肩に手を置く。周りにはなぜか、女生徒がたくさん。
「……な、なんすか」
「明崇ァ、何してんの」
二メートル先。真夜がムスッとこちらを見ている。
「三位君、行ってきなよ。後で渋谷、行くんでしょ」
「はぁ、まぁ」
ここはとりあえず頷いておく。
「後藤君は僕らと行動しよう。後で合流すれば問題ないよね」
そういって後藤と女子を引き連れ、人ごみの中に消えて行く。
「なんだったの、鳥越のヤツ」
「なんか、後藤が連れ去られた」
「え、何それ。どゆこと?」
真夜がくすりと笑った。
「まぁでも先生が付いてるから……大丈夫か。後で先生も渋谷行くってさ。その時に後藤とも合流だな」
「ふふっ」
「何だよ」
真夜は、こんな表情豊かに笑う娘だっただろうか。
「これじゃ、いつもと変わらないね」
いつもって……。ここ最近は確かにそうか。真夜、亜子、剛。この三人としかまともに関わっていないのは事実だ。
「ねぇッ、伽耶奈さんにお土産買おうよ」
亜子が駆け寄ってきた。真夜の彼女を見る目はとても優しげだ。
亜子が話す度に彼女の亜麻色の髪が揺れる。爛漫な笑顔に花を添えているよう。
真夜は亜子が少しでも何か言うたびに亜子の目を見て頷く。時折浮かべる微笑は驚くほどに柔らかい。
まるで姉に話しかける天真爛漫な妹。その妹の話を熱心に聴く大人びた姉。
――じゃあ俺は、この二人にとってどうあるべきなのだろう。
ふと立ち止まる。さほど不快には感じなくなった、浅草のにぎやかな喧騒。先を行く、花のような二人。
居場所をくれた目の前の二人に、そして剛に。嫌な思いは、させたくない。そう、素直に思った。
「どしたの明崇」
「アキ君?」
「何でもないよ。伽耶奈のお土産、俺にも選ばして」
「うんっ」
でも今はこの、心地良い雰囲気に、浸っていても――
罰は当たらないんじゃないだろうか。