研修旅行2/三位明崇
この東京研修の目的、表向きは協調性、社交性を育むこととなっている。研修に行った先の内容について一人ずつレポートを書く、というのが最終目標だ。
つまりレポートが書けさえすれば、もはや自由行動で遊んで帰っても許される。
まぁ、みんなでトランプをしようが、文句を言われることがない程度には。バスの車内も自由だった。
「はいっ、かくめーい」
「ええーッ、真夜ちゃんひどいィ」
今バスの最後尾で、五人は三島が持参したトランプを用いて、三週目の大富豪に興じていた。
ちなみに今は真夜が大富豪、明崇が富豪。大貧民は三島だ。亜子は先ほどから後藤と平民の座を争っている。
真夜が誇らしげに、明崇の太ももに四枚ぞろ目のカードを置いた。
そう、明崇は真ん中の座席のため、先ほどからその太ももには幾数枚のカードが置かれている。お蔭で全く、身動きが取れない。
「じゃあ次は由香里の番ねー」
「うぅっ、また出せないや……」
三島が出したカードを、亜子は悔しそうな表情でパスした。その上に真夜が、また札を重ねる。
そろそろかな……。
明崇の番。躊躇いなく、3のカードを切った。そして。
「革命返しね」
「え、ちょっ、嘘ッ」
今度はハートの8、9、10、11。
「あがり」
最後に二枚の5を添えて、明崇は堂々と“あがり”宣言した。
「やーい真夜ちゃん都落ちぃ」
「明崇ぁ……覚えといてよ。次絶対落とし返してやるんだから」
そう言って真夜は今まで見たことないくらい悔しそうな顔をする。嗜虐思考を抜きにして、そんな表情もなんだか新鮮で良いなと明崇は思う。
「つってももう着くし。もう一周やる暇はないんじゃないか?」
「うっわぁ。三位君って意外と言うね……」
「勝ち逃げは許さないよ。これは、帰ってから続きをやるしかないね……」
その後の真夜の明崇に対する態度は少しの間だけ、ちょっと棘々しくなった。
上野では有名どころの上野動物園、そして国立の博物館をクラス全員で回り、昼前に解散になった。配られた弁当を持って、ここからは昼食も含め自由行動である。なので剛を含めた他の組の班を引き連れ、大所帯で昼食となった。
「だからさ、みんなで渋谷いこーぜ」
「えー、亜子は浅草に……」
「んなこと言ったって、またお前美味いもん食いたいだけだろ」
「し、失礼なっ」
亜子はむくれている。彼女は浅草のアイス最中が大好物らしい。
「じゃあ浅草に行った後に、渋谷で合流しよう。銀座線で一本だし」
明崇は何気無く提案した。
「アキ君……」
「明崇……何度も言うけどさ。あんまりこいつの事、甘やかさないでくれよ」
そんなこと言ったって。俺だってアイス最中が食べたい。