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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第三章 嗤魔群・ラフィンレギオン
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骨一片/藤堂浩人

「浩人さん……、どうするんです?」


取り敢えずモンタージュはあのメンバーのみに通達した。しかし……。


「捜査本部には今のところ……このモンタージュと発覚したもう一つの事件について、伝えるつもりは無い」


璃砂が不安そうに見上げてくる。

「い、良いんですか?それ……」

よかないよ。全然よくない。でも……今はあのメンバー以外、どうしても信用できない。


今回の事件には、不可視かつ巨大な組織的圧力が働いている。それを承知で事件を解決したいと望むのなら、巨大な警察組織に頼るべきではない。信用できないのだ。



そう、考え事をしながら歩けば。


「うわぁ、なんだか、迷っちゃいましたねぇ」

「ああ」

二人でルートを確認して進んでいたはずなのに、住宅街の迷路に、いつのまにか迷いこんでいた。

「いや、大丈夫……。こっちの道……丁度路線沿いだ」

「あれ、本当」

行きに通った道を発見した。ここまでくれば大丈夫だろう。


目の前にはさびれた、それでいて活気のありそうな集合団地がある。そこを目指して住宅街に囲まれた、広いとは言えない一本道を行く。


そこで浩人は、その風景に既視感を覚えた。


……狭い、な。

深夜ともなれば、ここを通るのを男女問わずお勧めはできないだろう。

そんな事を考えているとつい先ほど、沖和正がヒントの前に口にした一言がふと、よみがえった。

――狭いな。


来た。

何かが思い浮かぶ。その前触れ。周囲の音が消える。この思考世界には浩人ただ一人。

――弱者の逃げ場は、存在しない。

出かかっている。喉元まで。落ち着いて事件を整理しろ……。

――被害者女性達と同じだ。


野方の一件は、どうだ。


あの現場は、広かった。でも今思えば……。

あれ、トイレの壁の脇だったな。

公園の公衆トイレ。その脇。青いビニールはそこに沿って広がっていた。

考えろ、考えるんだ。


案外、殺るとしたら、ここら辺……。


浩人は気が付けば、走り出していた。璃砂ももう何も言わず、ついてくる。

路地、迷路、その中の壁、フェンス……フェンス?


閉鎖的な空間が目に飛び込んできた。


フェンス越し、その空間がむしろこちらを覗き込んでいる。それくらいその空間には、それらしい、“雰囲気”があった。

「クソッ」

フェンスは高すぎて越えられない。しかしその向こうに、この空間へと侵入する入り口が見えた。

「高架下……」

そこをくぐると、やっとその入口へと回り込むことができた。

「……」

「ここって……」


狭い入口から覗く混沌とした閉鎖空間。それは団地アパートが奥のフェンスの前に、ぴったり張り付く事でその混沌とした閉鎖性を完成させている。

その深淵が、こちらを睨み返してくる。

黒、ではない。醜悪な極彩色。そんな雰囲気だ。


一歩、踏み出す。


「ここは……」

駐車場の様だ。先ほどの位置からは死角になっていたが、入り口の右隣に開けた場所があり、車が乗り入れられるようになっている。


――ガリッ。


何かを踏んだ。石とは違う、それよりも少し軽めの、触ったことはあっても、踏んだことのないような……感触。


足元、目に移る茶けた白。少し大きめの、園芸に使う軽石の様な、欠片。同じようなものを、浩人は幼い頃、目にしたことがある。

――叔母の葬式。納骨の際に。

「これまさか……」


骨……なのか?


興奮で背筋が泡立つ。まさか……

その時だった。

「誰だッ」

「え、ひッ」

視線を、感じたのは。

「あ、あのぉ、何ですかぁ……」

金網の影から頭が覗く。団地住まいの主婦だろうか。浩人は興奮冷めやらぬままに、パスケースのナス管から、警察手帳を引っ張った。


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