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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第一章 鮮血街・ブラッディシティ
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ランブリング・ガールズ/三位明崇


真夜は先ほどのことについては何も聞いてこない。拾い上げてくれた竹刀袋には流石に驚いたようだった。が、人前だからか、彼女はやはり一言も触れない。

ただ隣に立って、以前からそうしていたかのように明崇に歩幅を合わせている。


「学校、来れるようになったの?」

「まぁ、そうだな」


そっか。と言いながら、今度は悪戯っぽい視線をこちらに向けてくる。


「また勝手に早退したりしない?」

「もう流石にそれは無いよ」

「なら安心だ」


久しぶりに見る、彼女らしい笑顔だった。


下駄箱で靴を履き替えても、真夜は明崇のそばを離れなかった。かといって邪魔になったわけではない。気が付いたらそこに立っていて、決して明崇が不快に思うようなことを彼女は一切しなかった。


三階の端の教室を目指して廊下を行く。真夜は当然のことのようにそこにいて、見てもいないのに真夜の気配を色濃く感じる。


隣を歩く彼女はとても様になっていて、一緒にいることにこちらが気おくれしてしまう。


実は、気づいていないわけじゃなかった。彼女が昨日の授業中、ずっと俺を見ていたことも、何か話したいことがあるのだろうということも。彼女は表情が読みにくいように見えて、実は結構感受性豊かなのだ。昔から変わっていない。


真夜は彼女自身が興味あることにしか感情を振り回すことがない。


教室に近づくと背後から、真夜でない女生徒の声がした。

「真夜ちゃんおはよっ」

「おはよう亜子」

確か、登田。登田亜子だ。真面目で、優しそうな娘という明崇の印象は入学当初から変わっていない。

「三位君もおはよっ」

「おはよう」


クラスで嫌われ者の明崇に話しかけることができるところからも彼女の人の好さが窺える。確か以前からも学校に来れば彼女に声をかけられたことがある。真夜とも仲が良さそうだし、何か彼女から聞かされているのかもしれない。


「真夜ちゃん、良かったねっ」

「うん、これも亜子が励ましてくれたおかげかな」

「ぅええっ、私何もしてないよ?」


――何の話だ。


教室が見えた。流石に三人で入ると余計な迷惑を二人にかけそうだ。早足で教室に駆け寄ると、二人の会話はすぐに遠のいた。

と。背後から突然、柔らかい衝撃。どうやら二人にガシっと、体を、押さえつけられた……?


「おい、何して」


こいつら本当、自分達が何してるか分かってるのか。


「登校時、教室に入るときは三人で。明崇、これは命令だよ」

「め、命令だよっ」

真夜はお馴染みの悪戯っぽい眼で、亜子はなぜか使命感に燃えた目で、途方に暮れる明崇を見上げていた。



教室の空気は何をしたらこんな殺伐とするのか、誰かに問いただしたいくらいに悪いものだった。


昼休み。その空気をものともせず、当然のことのように明崇の机で弁当を広げる真夜と亜子。


「アキ君どうしたの、食べないの」

黙っていると亜子がこちらが申し訳なくなるほどに心配そうな視線を向けてくる。

「いや、まぁ食べるけどさ……」


亜子はいつの間にか明崇のことを「アキ君」と呼んでいる。最初こそ「三位君」と呼んでいたのに、今では好き勝手に呼ばれる始末。どう呼んでも文句を言われないと勝手に判断されてしまったようだ。


昼までの四つの授業、その授業の間の三回の中休みの度に二人は明崇の席に襲来し、教室の空気を洗濯機を回すように引っ掻き回していく。基本的に明崇は人が積極的に関わってくることを想定した生き方をしていない。二人を追い返すこともできず、ただただ振り回されていた。そしてその度に、周囲の視線はその厳しさを増す。


「明崇、気分悪い?」


真夜も真夜だ。彼女は精神的にだけでなく、身体的特徴についてもやけに大人びている。亜子がこのクラスのアイドル的存在なら、真夜はその美貌とスタイル、カリスマ性も相まって、神聖視されていると言っても過言ではないだろう。


全く学校に来ていなくても、それくらいはクラスメイト全員の反応と扱いを見ていれば分かる。


そんな真夜と亜子に下の名前で呼ばれ、挙句の果てに昼食を共にしている。普段から学校にも来ず、クラス委員の責任も果たしてない奴が。と、周囲からは思われていることだろう。


「授業中もずっと寝てたよね……ちゃんと夜寝てる?」

真夜が厳しい、母親のそれと言われても納得するような視線を向ける。


彼女たちが心配してくれるのはありがたいが、その度に明崇の中では別の心配事が増えていることに二人とも気付いてくれているだろうか。


「たまたま昨日が徹夜だっただけだよ。普段はちゃんと寝てる」

「駄目だよ。そういう事言うのは普段から無茶してる証拠ッ」


今度はどうやら亜子の変なスイッチを押してしまったらしい。こちらに人指し指を突きつけ、何やら熱くなっている。


「ほんっと、真夜ちゃんが毎回心配になる気持ちがよくわかるよ」

「ね、でしょ。親の心子知らずって言うしね」

真夜もうんうんと神妙に相槌を打つ。

「それだっ」

「お前らは俺の何なんだよ……」

当人を前にして勝手に納得するのは止めて欲しい。ダメ息子扱いされた小学校の三者面談を思い出してしまう。

「あぁ~不貞腐れてる。真夜ちゃん、これは息子さん反抗期ですね」

「明崇、お母さん悲しい……」

「徹夜ぐらいで大袈裟だな!?」


短い人生で二度目のダメ息子判定をされてしまった。非常に不本意だ。



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