惑う夜/三位明崇
「ま、それ以前に、協力するって言ったって、子供三人加わったところでできることなんてないさ」
「……何を他人事みたいに」
伽耶奈は亜子の部屋で三人と、明崇は剛の部屋で寝ることになった。というより、明崇がそう、主張した。今の真夜や亜子と、顔を合わせたくなかった。
今は洗面台で歯を磨きながら、伽耶奈と口論の続きをしている。
「ふざけないでくれよ」
「ふざけてないさ」
彼女の顔は確かに真剣そのものだ。でも……。
そこで「はぁ」と、伽耶奈はわざとらしくため息をついて見せる。しかしその口から出る言葉にはやけに老成した重みがあった。
「明、今自分に必要なモノが、自分で見えているとは限らないよ」
何故だろう。明崇はその言葉に、言おうとした言葉がつっかえて――
言い返すことができなくなってしまった。
階段を二階に上がって、亜子の部屋の隣。
「おう、お疲れ」
「ああ、いや……気にしないでくれ」
剛の部屋だ。
彼は大きめのヘッドフォンのようなものを付けていた。音楽を聞いていたようには見えない。どちらかと言えば何か、作業をしていたように明崇の目には映った。
「……」
こうしてみると高校生の割に綺麗に片付いていて、そこまで狭い部屋には見えない。
掃除の得意でない明崇ではできない芸当だ。
「寝るのか」
「大丈夫だ。電気は付けといてくれていい」
「いや、俺ももう寝るつもりだったから」
二人で協力し、二人分の布団を敷いた。こうしていると幼い頃、毎日弟と寝床に着いたのを思い出す。
「……あのさ」
「ん?」
同年代の友達と言うのが明崇にはとても新鮮だった。質問に答えようと、体ごと剛に向こうと……。
「さっきの、話」
かと思えば、すぐに現実に引き戻された。また口論をしなければならないのだろうか。捻った体を、そっともとに戻す。
「俺は、さ……。明崇の言いたいことも分かる。自分のやってることに、家族とか」
――あんまし、近づけたくないよな。
「でもそういうのってさ。案外自分勝手だと、俺は思うわけよ。相手の事を考えてねぇっつーか、いや、そこまで責めてるわけじゃないんだけど。単純な話さ。きっと明崇が思ってるのと同じくらい、相手も明崇の事を思ってるってこと」
俺も、そうだったからさ――
亜子と昔、何かあったのだろうか。
「だから危険な場所に身を置くなら一緒に……あいつらが考えているのはそういうことだよ……。うん、それだよ俺が言いたいのは」
うすうす気づいてはいたが、剛は俺なんかより、よっぽど頭が良い。絶対に、口では勝てないなと思う。
「剛は……」
「うん、何だ」
「そういう、さ……」
何が、必要だと思う?
――すぐ隣にいる人達を、守るのに。
分からないんだ。
今まで、守る、なんてことは。
「考えてこなかった」
――それこそ本当に、一人、だったから。
自分の事ならいくらでも。
でも。
彼女達は――
「分からないよ。でも、俺はそれを明崇と、一緒に見つけたい」
――一緒に考えれば、いいんじゃないか?
咄嗟に返事はできなかった。でも、剛はその空気を察してくれたのだと思う。それ以上何も言わず、ホッと、安堵したようなため息をついていた。
会話はそれで終わり、そう思った。
しかし。
「そうだな、お近づきの印にとりあえず一つ、ある情報を明崇に提供しようと思う」
――何?
「今回明崇が追っている、その連続殺人、多分……警察も記者も、誰も信用しちゃダメだと思う」
結局その日の夜、明崇の寝付はそこまで良い物にはならなかった。