申し出/三位明崇
取り敢えずリビングで続ける話ではないと、亜子の部屋で話の続きをすることになった。
亜子が声をかけたからか、剛も遅れて亜子の部屋を訪れた。
剛の部屋でやらない理由は、極端に言うと剛の部屋より亜子の部屋の方が大きいからだという。これは二人が幼い頃、登田一家がここに越してきた際、二階のスペースの違う二つの部屋を子供部屋にするとなった時、剛が大きな方の部屋を亜子にすんなりと譲ったためとのことだった。
――よくできた兄だと思う。
少し羨ましいし、尊敬する。
「それで、どんな話なの」
しかし真夜が、明崇の現実逃避的な思考を続けさせてはくれなかった。
「できることなら明崇の口から、全部説明して」
どうやら手加減はしない、そのつもりらしい。
「全部は……、無理だな。ただ、俺がやろうとしていること、そしてそれに関すること、最後に今、分かっていること」
――それくらいは、話せると思う。
明崇は、話せることを全て話した。両足切断とか頭部損壊とか、さすがにそういう話は、特に亜子の様な相手には刺激が強すぎるので、ぼかす所もあった。しかしその事件の犯人が自分が巻き込まれた事件と同一犯である可能性があること、そしてその事件が立て続けにこの東京で起こっていること、そしてその犯人を、
――突き止めようとしている、という事。
その三つの事だけは包み隠さず、三人に伝えた。
「なるほどね、まぁ納得はしたけど」
真夜はそう言った。剛は何か合点が言ったような、訳知り顔だ。亜子は先ほどから何か眉根を寄せ、考えるようにしている。かと思えば。
「アキ君、やっぱりあの人を、捕まえるの?」
そう、亜子だけがヤツを――鎌鬼を、目にしたことがある。
「ああ、そうしないとダメなんだ」
――この三人には話していないことは他にもあった。
その犯人が、俺にとって、大事な家族への手がかりになるかもしれないということ。
弟。
四年前の事件、当時の三位家の敷地に父と母の遺体はあったが、明崇の弟、その遺体は何処にも発見されなかった。捜査上は行方不明と言う形になっている。
可能性がある限り、諦めたくは無かった。
顔を上げると、こちらを見つめる、真夜と目があう。
彼女は弟の事も知っているし、おそらくそこらへんも感づいている。真夜は昔から、そう言う事にはよく頭が回る。
果たして、彼女は言った。
「正直なところは、明崇……私はこんなこと、止めてって言いたいよ」
「でも」
「分かってる」
――それでも、やんなきゃいけないんでしょ?
「だったら私も一緒にやるよ。覚悟は決めてるから」
「だっ、だから待てって」
「私も……アキ君に恩返ししたい」
亜子まで……。
「ダメだ、ダメだって」
「明崇」
剛。流石に、そうだよな。妹を引き留めるなら今だ。それでこそ兄だ。
「俺は、やるやらない以前に、役に立つ。俺を使ってくれないか」
え、何で――。
「ちょ、ちょっと待って。ストップ」
思わず、立ち上がってしまった。
何だよこれ……。
分かってない、分かってないよ――。
危険、なんだ。
「言っとくけど明崇」
――私たちは危険だとか、そういうことじゃ納得しないから。
「伽耶奈ッ」
彼女を見ても、助け舟を出してはくれない。
これは本当に、不味いことになったな……。