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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第三章 嗤魔群・ラフィンレギオン
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柔覚/三位明崇


明崇が目を覚ましたのは、その、匂いのせいだったのかもしれない。


知らない、布団。天日干しした洗濯物の匂い。背中に感じる柔らかい寝床の感触。優しく包む、布団の重み。

「……」


明崇は完全にその眼を開けた。

そこはどうにも、見知らぬ部屋の寝室、そこに敷いた布団の上の様だった。

部屋自体が、柔らかい、落ち着いた雰囲気を持っていた。クリーム色の壁、明るい色合いの棚、机などの家具。そして、いたるところで目に入る、ぬいぐるみ。


そこでその部屋の、ドアが開いた。


「あっ、どうも。失礼しますぅ……」


なんと、見知らぬオジサンが、そこに立って。

「あ、おはよーぅ」

明崇に、笑いかけていた。

「……」


いや。待て待て待て待て。

――ここ、何処!?

見知らぬ、しかし女性的な部屋。そしてなぜかそこに入ってきた、正にサラリーマンの休日といった風体の、ポロシャツの中年。


いや、これはマズいって。何が何だか分からないけど、いろいろマズい。

俺はそのオジサンを見据え、起き上がり、取りあえず距離を取ろうと――


「ちょっと、パパぁ?勝手に入っちゃダメェ」

「えッ」

そこで何とか、明崇は冷静に立ち返ることができた。

「あれ、アキ君おはよ」

亜子だ。また、エプロン姿。じゃあつまり、この部屋は……。

「パパ、亜子の部屋に勝手に入らないでって、いつも言ってるよ?」

そう言い、彼女は腰に手を当てる。明崇は、亜子が人を叱っているのを初めてみた。しかも相手は父親。


――なん、だよな?


「そ、そんなこといったってさーぁ?気になるじゃん?その、亜子の友達泊まってるっていっても今度は、お、男なんだぜっ。気になるじゃん。パパ気になって夜も寝られない、じゃん。まぁ、昨日は普通に寝たけど」


な、何なんだこの人……。


「ぅんもっ、いいからパパはホラっ、あっち行くっ」

「え、ちょ、ひどぉい。亜子ちゃんひどぉい」

中年、もとい登田父、退場。

「……今の、お父さん?」

「うん、パパ」

――そう、だよな。


一般的な家庭なら、父親がいるのも当然のことだ。まあそれ以上に、疑問に思うことは多々ある、変わったお父さんではあったかもしれないが。


そこでストン、と。亜子が明崇の寝る、布団の枕元に腰掛けた。

「アキ君、真夜ちゃんはママとスーパーに行ってるから、それまで亜子とお話ししよ?」

――二人とも、もうすぐ帰ると思うけど。

「あ、ああ。それはいいけど。伽耶奈は」


至急、今後の事を話し合わなければならないのだが……。


「伽耶奈姉さん?お仕事昨日までお休みしてたから、今日は行かないとって言ってたよ?」

そうか。またアイツ、仕事ほっぽりだして来てたのか。

「でも大丈夫。夜にはここにまた来るって。お夕飯食べに」

まぁ、寂しがり屋だからなあいつ。ここに来るなら、その時にちょっとした話くらいできるだろう。

「伽耶奈姉さん、いいお姉さんだよねっ」

「は?」


そうだ。なぜか亜子は先ほどから、伽耶奈の事を姉さんと呼んでいる。


「だから、伽耶奈“姉”さん」

その口ぶりだと、だいぶ伽耶奈と亜子は親密になったようだ。別にそれは構わないのだけど……

――真夜はともかく亜子にまで、余計な事喋ってないだろうな。

少しそれが、明崇の中に心地良い不安と恥ずかしさを生んだ。言い訳をしたいけど、できないような、何かそれくらいの、微妙な感傷。

「アキ君の事、伽耶奈さんもずぅっと探してたんだよ?」

「ああ、そうだよな」

そう、それに関しても、気の利いた文句ひとつ言えない。感謝の言葉しか、ない。


――暴走状態(あのまま)だとどうなっていたか。


そう考えるだけで怖気が奔る。

伽耶奈だけじゃない。考えてみれば真夜も、亜子も、剛も。みんなが動いてくれていたのだろう。今もそうだ。こうやって、休ませてもらっている。

――とんでもない借りが、できてしまったな。

「そう、いえば」

その彼、剛は今。

「剛は……どうしてるんだ」

「お兄ちゃん?んー、お兄ちゃんはね、お昼からずっと寝てるー」

お昼、ね。昼……?

「最近もね、ずっと、忙しそうなの」

そう言えば今、何時なのだろう。日付も。曜日感覚が完全に失われている。


がばっと、飛び起きた。


「わわっ、どしたの?」

今の日付と時刻、曜日を聞くと、彼女はすぐさま、携帯電話を確認した。

「5月22日、日曜日ぃ。ただ今4時22分だよ……あれ、23分になった」

そう言われても、中々ぴんと来なかった。以前亜子と一緒に下校した時が何日だったかも、もはや覚えていない。


あれから結構、経っていることは確かなのだろうが。


「俺、どれくらい寝てた?」

「うん、アキ君が倒れて寝込んじゃったのが、20日の夜だね」

丸一日は、寝ていたということか。

そう言えば……ものすごく腹が減っている。全身がふわふわとして、力が入りにくいことに、自分で起き上がってみて気付いた。


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