合同捜査会議直前/藤堂浩人
目を覚ましてまず目に入ったのは、見覚えのない白い天井だった。見回すと、一人暮らしには広すぎるであろうその寝室の全貌が見えてくる。
「ぅん……」
自分の今の状況を把握するのに、数十秒を要した。
「ああ……」
昨日を思い出すと朝なのに、どうしようもなくまた、途方もない倦怠感に襲われる。
するとどたどたと、忙しそうな音がした。目の前の寝室のドアが開かれ、これまた見覚えのないリビングと、
「藤堂さん、おはようございます」
ドアの前に立つ、スーツの上にエプロン姿の璃砂が視界に入った。
「ぁ、ああ。おはよう」
「寝ぼけてる暇ないです。着替えて下さい」
もしかして朝っぱらから買ってきたのか。新品のスーツとワイシャツが一着。リビングから漂ってくるのは、朝食の匂い、だろうか。
「すまん、助かる」
「いえいえ」
浩人にスーツを手渡しながら璃砂も、いそいそとスーツのしわを伸ばしている。
「なんでそんなに急いでるんだ」
――決まってるでしょう。
「今日は新宿署に移った帳場で、初の合同捜査会議じゃないですか」
携帯を確認する。倉持と多野の両方から数十の着信があった。
「大丈夫です。私から連絡は入れておきましたから」
その対応はむしろ、状況を悪化させているんじゃなかろうか。また健人に何か言われそうだ。
「襟、変ですよ」
「あ……、ああ、すまん」
起き上がってスーツを着ると、かなり自分が空腹であることに気付いた。朝食の匂いが意識を完全に覚醒させてくれる。
「ど、どうぞ」
「いただきます」
豪勢な朝食だと浩人が言うと、彼女が出来合いだと言ってはばからないそれを胃袋に収めて、二人してマンションを出る。新宿までは電車で30分もかからない。
捜査会議には、何とか遅刻せずに来れた。
もう既に、多野警部補、そして倉持が、全国で最大の規模を誇る所轄警察署・新宿署、正にその前で二人を待ち構えていた。
「おっ、おお、おぅ」
連れだって歩いてきた浩人と璃砂を見た、健人がうるさくはやし立て始める。
「いや、良いっすね。やっぱ二人並んで立ってると……、こう、絵になるわぁ」
「藤堂君は大丈夫かい」
「は、はい……?」
「少し体調悪いって聞いてたけど」
体調が、悪い?
――昨日死にかけたと知ったら、この人は何というのだろう。
それにしても。
門田警部補、ウソ下手すぎるだろ。ズル休みとかしたことないのか優等生。
「大丈夫です。何の問題もありません」
何で君が答えるかな……。
倉持はふやけたような笑顔を浮かべ、多野ですら苦笑している。
「……行きましょう」
居心地の悪い空気を察したか、多野は巨大な新宿警察署、その自動ドアへと足を向けた。
「結構、不味いことになってるよ」
多野が、神妙そうに、藤堂に告げる。
「どういう意味ですか」
「会議が始まれば分かることだけど……、でもまぁ、僕達が動き辛くなるのは間違いないと思う」
何だ。何があったのだろう。