肉薄/桑折真夜
真夜が剛からの連絡を受けたのは、丁度午後七時を回り、亜子、伽耶奈と共に登田家の夕食の準備をしていた時だった。
「もしもし」
第一声から、剛の興奮が電話越しに伝わってきた。
「いたッ、いたってよ」
「な、何」
居た。もしかしなくてもそれは……。
「明…、崇。見つかったの」
真夜は息を飲んだ。
「ああ。馬場。高田馬場まで取りあえず出てくれ」
やっと。やっとか。剛には本当に感謝しなければ。
「亜子。伽耶奈さんッ」
「分かってるッ」
言わずとも、二人も真夜に電話が来たのを見て察したか、もう準備を始めている。
「行こッ早く早く」
そう言う亜子はまだエプロン姿だが……、仕方無いか。
支度もそこそこ、亜子の母親に書置きをして、作りかけの料理はそのまま。
三人は家を飛び出し、先ず中野駅に向かった。東西線直通、高田馬場駅まで数分。そのとても短い時間が、とても歯痒い。
その間、剛から詳しい事情を聴いた。
明崇は、正気ではない可能性があると言うのが伽耶奈の意見だったが。どうやらそれは確かなようだ。
剛が捜索を依頼した者によると、彼は空き家やビジネスビル、廃墟を転々としていたらしい。一日に何度か、深夜帯でも営業しているスーパーやコンビニエンスストアに立ち寄る姿が目撃されていたそうだが、その様子がとても印象的であったらしい。
「何か、金の計算が満足にできてなかったらしい」
ん、どういうことだ。
「会計で千円超えてるのに、千円札一枚で払おうとしたり、何か注意力散漫って言うのかな……、しかもそれがほとんど毎回だったらしい。とにかくその印象を聞くと、アイツらしくはないよな」
確かに。聡明で注意深い、今の彼らしくない。
「そういうわけですごく明崇の姿は印象に残りやすかったらしい。酷く汚れた学生服、しかも深夜帯にしか現れない」
日を追うごとにそれは酷くなっていたようで、案外捜索は容易になっていったという。
何だ。彼の身に、何があったのだろう。
中野、落合、高田馬場。着いた。きっともうすぐ、それを知ることができる。
――何があったのか、聞かせてほしい。
伽耶奈さんにほとんど聞いてはいるけど、それでも明崇の口から聞きたい、私の知らない四年間を、そして今の明崇を。
電車のドアの特徴的な開閉音と共に、真夜は駆け出した。