祈悼/門田璃砂
璃砂は必死で、吹き飛ばされた浩人を探した。
あの男に手渡された、この注射だけが頼りだった。
もう何も考えたくなかった。何やら激しい、現実に即さない衝撃音が聞こえてくるが、それすらもどこか遠く感じる。
それより浩人だ。
浩人だけが、今現実感のない状況から、唯一璃砂をこの場に繋ぎ止めうる存在になっていた。
「浩人さんッ」
浩人は……璃砂を庇ったのだ。そのせいで腹を撃ち抜かれ、大量の血を流している。
そのことだけは確か。彼がためらいも無く璃砂の前に立ったこと。彼の鍛えた体があっけなく貫かれたこと。どうしても信じられない、信じたくない。
けど。きっとどうしようもないくらい、浩人を失うことの恐ろしさに見舞われていた。
彼はそこまで遠くない、二メートルほど先だろうか。自動販売機の近くで倒れ込んでいた。
「っ……」
彼は目を閉じていた。
血が腹部を中心にじわりと広がり、その血の量に、めまいがする。
脈を恐る恐る取ろうとしても、それがどうにも感じられない。
それが自分の気が動転しているからなのか、それとも本当に浩人の血液が循環していないからなのかは分からないが……。
――本当に、助かるの……?
彼の青白い顔を見ると、涙が出そうになる。
いつも彼に頼ってばかり。彼と過ごした、新鮮だった捜査の記憶が、何もできなかった今の璃砂を押し潰そうとする。
こんなことをしてはいられない。
注射器の先についたキャップのようなものを取る。とりあえず腕に、看護師の見よう見まねで、針を刺す。
――お願い。お願いだから。
浩人の大柄な体に対してひどく少なく見えるその液体が吸い込まれていくのを、璃砂はただただ、祈りながら見ていた。