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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第二章 紫夜叉・ヴァイオレットデヴィル
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組織の力学/ 藤堂浩人

ゴールデンウィークもあけて、湿気が強くなる季節。

ここにきて、通称中野の帳場、野方署裏手女子大生惨殺事案は大きな動きを見せていた。

それは捜査方針に関してでもあるし、彼らのモチベーション、はたまた本庁の力の入れように関しても、急激な変化だった。

浩人と璃砂が引き当てた手がかり。

――やはり、布石は打たれていなかったのだ。


戸塚署の死体の損壊状況の酷似した事案の発覚をうけて捜査範囲は拡大、連続殺人事件としての方針転換を余儀なくされたのは言うまでもない。

先ず戸塚警察署の人員と合同になったことが一つ。そして先日付で捜査一課の八係の中から多野班以外の捜査一課員が班ごと駆り出されることになった。


捜査一課八係、三島班。


班長の三島奈々子は捜査一課でも珍しい四十手前の女性。多野班の地道かつ徹底した検証捜査に対し、三島班は独特なセンスと広い視野で捜査に臨む。フットワークの軽い捜査が持ち味だと聞いている。

合同捜査になった初日、浩人はその三島奈々子に早々と声をかけられた。


――多野クンのところがヤになったら、相談してねぇ。


それを見て多野と健人も苦笑していた。

今回の働きで、目を付けられてしまったのだろうか。三島主任は子持ちバツイチ面食いだと言う分かりやすい三拍子だけ、一課八係配属当初から主に健人から聞かされていた。

「浩人さんみたいな細マッチョ、きっともろにタイプですよあの人」


健人は帳場がにぎやかになったことでむしろうれしそうだった。

今回の連続殺人事件発覚の手がかりをつかんだ真の意味での功労者、睦美司や三島班の面々。彼らと出会えたことが、彼は嬉しくて仕方無いらしい。


しかし、その中でも健人を含めた多くの捜査員、特に古参の捜査員は、この帳場にいまだ、拭いきれない霧のような違和感を感じているのは確かだった。


ほかならぬ浩人が、一番その違和感を感じていた。


それが確信に変わったのは、合同になって二日目の会議でのこと。

三島班が、ネタを挙げたのだ。


「報告します。今回の事案に関連する可能性の高い事案が、さらに別の管区内、四谷署管内で発生していた恐れがあります」


また、帳場が揺れる。三島主任が報告する情報の裏付けには定評があるからだ。

――しかも遺体発見は四週間前。


戸塚署の遺体が発見されて推定された事件発生と考えられる日付はおそらく二か月前。そして野方署の帳場が立ったのが、三週間前。

「四谷か……、これまた近いな」

連続殺人事件は二件でなく、三件だったのだ。

そしてここで皆が、その不穏な空気の正体に気付く。


なんで、早い段階で連続殺人だと、こうなるまでに断定できなかったのか。これほどに近い管区内であれば情報がやり取りされているはず。すぐに第二第三の事件が最初の事件に結び付けられるはずだ。


これは明らかにおかしい。


つまり、捜査情報が意図的に、シャットアウトされていたのではないか――

そうなると、身内の警察関係者まで疑わなければいけないということになる。


浩人には、警察組織内の上下関係、派閥の力学と言うのはいまいちよくは分からない。

しかし触れてはいけないものに触れ、開けてはいけない箱を開けてしまったのではないかと、そういう不安に苛まれながらもその流れを止められず、ただただ膨れ上がっていく事件の背後の大きさと、帳場を、眺めていることしかできない。


きっと誰もが気付いている。この帳場の不自然さ、きな臭さを。


でも捜査以外、何もできないのが現状だった。


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