UNKNOWN-4
食事が下手な僕に対して、アキラの食事は芸術的だ。四肢の切断にも一切の無駄がない。僕は今でも彼女に初めて、捕食の仕方を教えてもらった日の事を忘れられないのだ。あまりに興奮しすぎて、僕は彼女の食事を目撃する度に股を濡らしたものだ。
そしてその時おこぼれにあずかり味わった禁断の果実。その味もまた、
――忘れられない。
そして今日までそれを忘れられず、その味をずっと、求め続けている。
「酷いよアキラ」
――一度知ったら、病みつきになってしまうよ。
そして僕は脳みそを食べるようになってから、どんどん生命体一個体としては、強靭になっていっているようだった。
“なり立て”の頃はそうでもなかったのに、今では生身で壊せないものは無いし、学校の調理実習で手元が狂っても、包丁で指が切れることは無い。
だから、そうだ。食べるだけ僕は強くなる。僕を食い殺さんとしたアイツを殺せる日も、憧れのアキラを狩る日も、いつかは来ると確信しているのだ。
そして強くなると同時に、脳みそを食べたいと言う欲求も最近増している。
もうみんな家畜にしか見えない。町を歩く人、ひと、ヒト。みんな僕のおやつだ。
――頭の中に、いっぱいのクリームを詰めこんでいる。
小学生くらいの頃僕の好物は生クリームだった。好きで好きでたまらなくて、僕は冷蔵庫からくすねては、両親に内緒で味わっていた。
そしてそこまで行くと今度は、子供のくせして贅沢なことに、食べものに関してこだわりが生まれる。つまり、どこの生クリームが美味しいとか、こうした食べ方の方が上手いとか、そういうのだ。
今そう言ったこだわりに見合うのが、まさに“女”と言う条件にある。男は殺す時もあまり楽しくないし、同性を犯す特殊な趣味もないからつまらない。だがそれ以上に、単純に、女の脳みその方が、美味いのだ。男のはなんだか……、そう。味に深みがない。
それに、美人であればあるほど美味い気がする。
そう。美人は良い……。
アキラを超越し屈服させ、食すさまを、想像する。正に幼い頃覚えた自慰行為のように細部まで。彼女の四肢をもぎ、その小ぶりな頭、その中の甘味に手をかけて……。
いや、でもアキラを殺すのはやはり惜しい……。最初に、そうだな。アキラと同等になることから始めなければ。
僕は強くなる。
旨みと、強さを求めて。アキラとともに、先ずこの東京の裏世界。その生態系ピラミッドの頂点に立つのだ。
野望に燃えていると神の啓示か。「彼」から再び連絡がきた。
「もぉしもーし」
「ああ、あんた今どこ」
「生意気な……」
上から見下ろすような態度に心中が煮え立つ。普段はそこまで気にならないのに、今の僕は気が立っている。
ケチりやがって……、何様だ。良いじゃないか女の一人二人くらい。
お前から、殺してやろうか――
するとククッと声が聞こえた。笑っているのか……?
「ミツル君。そんな態度でいいのかよ」
おい、なんだその言い方。何かいい話でもあるのか。
――贅沢しても良いって、言ってるようなもんだぞ。
「女。やってもいいってよ」
おお。期待通り。
「ただし」
ただし、何だ。早く言え。
「やっていいのは一人だけ。しかも標的は指定してある。しかもあんたの嫌いな男連れだ。」
おいおい。男は殺すななんて無茶言うんじゃねえだろうな。
言う前に察したか、彼はこう言う。
「男ももちろん始末して構わないさ。その二人に関しては煮るなり焼くなりすきにしろ、と言うのがクライアントの要望だ、まぁつまりだな……」
――人を二人、消せ。
誰の都合も知った事か。この際だからたくさんの血を浴びよう。きっと最高に気持ちいい。
そうだ。
もらった薬、あれを全部直接注射でキメて、男をぶつ切りにして、女の方を無理やり犯って、殺って、そして最後に食う。
――うん、良いよ。最高だ。
不思議だ。先ほどまで暗く映っていた新宿のネオンが、先ほどとは全く違って見えてくる。
全身が痺れるような陶酔感。
彼から標的の位置情報を知らせる旨のメールが届いた。確認して一呼吸おいて、僕はありったけのダイヤを溶かし――
丁寧に静脈に注射した。