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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第二章 紫夜叉・ヴァイオレットデヴィル
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明崇の姉/桑折真夜

真夜は腹が立って仕方がなかった。

彼が四年間していたことを聞いても納得できない。なんでそんなことで私を遠ざけたりしたのか。私をなんだと思っていたのだろう。


――バッカじゃないの。

伽耶奈さんの言うことが本当なら、明崇は本当に大馬鹿野郎だ。


こうなったら、意地でも謝らせてやる。


そんなことで、私から逃げられるなんて思わないで欲しい。

むくむくと怒りがこみ上げ、試験前に強壮剤を飲んだかのように全身が熱い。先ほどまでの元気のない自分は、気が付けば雲散霧消していた。


――明崇のヤツ。絶対とっちめてやる。


そんな独り言が、真夜の口から漏れ出た。

「ふっ、あははっ」

「なっ、なんで笑うんですか」

真夜の表情を見て何を思ったか、伽耶奈は口元にこらえきれない笑みが浮かんでいる。

「いや、そうだよ。昔からそうだ。君はいつも私の代わりに明崇を叱って、引っ張ってくれた。君には落ち込んでいるのなんて似合わないよ」

――本当、真夜はそれくらいが、君らしくて実に良い……。


「別に落ち込んでなんていませんよ……」

「そう見えたと言うだけの事さ」

堪え切れず、からからと笑う伽耶奈。


「それで件の亜子ちゃんのところに、今からお見舞いに行くんだろう?」

そう、亜子や剛についても、伽耶奈には教えている。彼女は信用できると、真夜が判断したのだ。

すると彼女は。

「私も、お供させてもらっていいだろうか」

「それは、良いですけど……」

どうして?

「実はその、気恥ずかしい話なのだが……」


彼女曰く、明崇の捜索を決行してから仕事も休み、明崇が見つかるまで落ち着けそうにない、と。

「だからその、何かしてたいんだ。いや、はっきり言おう。私は今、一人になりたくない」

なんでまた、そんな堂々とした顔で。いわゆるドヤ顔で、伽耶奈ははっきりと、“寂しい独り身宣言”をした。

――まぁこういうのも憎めなくて、伽耶奈さんの魅力なんだよね。


亜子宛て。携帯に「明崇のお姉さんも来るけど良い?」と打ち込み、真夜は最後に送信ボタンを押した。






「ええっ、アキ君昔はこんなに小さかったのー?可愛いっ」

伽耶奈さんは財布になぜか、大事そうに幼い頃の明崇の写真を忍ばせていた。


それを今、亜子相手に見せびらかしている。


「そうだぞぉ。私の事を姉さん姉さんと。それはそれは可愛らしい弟だった……」

ウソ付け。昔はいつも邪険にされてお菓子で私達を釣ってたくせに。

「いぃーなー。亜子も伽耶奈さんみたいなお姉さん、欲しかったなぁ」

「そーかそーかぁ。君もアタシの妹になるかい?」

おいで、と両腕を広げる。


「姉さんっ」


亜子もひしっと抱きつき、いとも簡単に姉妹契約がなされていた。

打ち解けすぎでしょ……。


亜子はベッドに横になり、上体を起こしている。最近までは真夜がお見舞いに来ても決まって青白かった亜子の頬には朱がさし、血の気が戻ってきている。

「あははっ、アキ君のお姉さん面白ーい」

うん、伽耶奈さんを連れて来たのは正解だった。最近ふさぎ込みがちだった亜子も、何とか元気を取り戻しているように見える。


亜子が落ち着いたのを見計らって、伽耶奈さんは慎重に、しかし笑顔のまま切り出した。

「さて、じゃあ亜子ちゃん。その明の事だけど」

「は、はい」

「君が、自分を責める必要はない。あれが明崇の仕事なんだ。大袈裟に、使命と言い換えても良い」

亜子の頭を、優しく撫でる。本当の姉の様だ。

「で、でも……」

――私のせい。


数日前を思い出したか、亜子の笑顔がくしゃりと歪む。彼女の目端には涙が溜まり始め、それが小さな洪水のように溢れる。

「でも、じゃない」

伽耶奈さんがぎゅっと。亜子を抱きしめた。

「明はあれで怖がりなんだ。人が怖いんだよ。だから、私達からすぐに逃げようとする。でもそんなところある癖、明は寂しがり屋さんでね。そういう煮え切らないところは、明のとても悪い所だ」


――私達が、ちゃんと叱ってあげるべきなんだよ。


すすり泣く亜子と母親のように彼女を抱く伽耶奈。そしてそれを見る真夜。心地よい沈黙が部屋に漂っていた。


その時。


「失礼しまぁーす」

唐突にガチャリと、亜子の部屋のドアが開く。亜子の母親、芽衣子(めいこ)だ。

「お茶、入りましたよぉ」

「ああ、いえそんな、お構いなく」

もらい泣きしていたのか涙を拭き、鼻を啜りながら、伽耶奈が亜子から離れる。

何もしゃべらない三人に違和感を感じないのか、鼻歌を歌いながらテーブルにカップを並べる。


亜子の母親は本当に、肝が座っていると思う。伽耶奈を快く家に上げたのにも驚かされた。

そんな彼女が、伽耶奈さんに突然、質問を投げかける。

「伽耶奈さんって科学者さん、なんですって?」

「ええ、まぁ」

そこで芽衣子さんは一息ついて、

そこから怒涛のように話を続けた。


「もう、亜子は素敵な友達を持ったものねぇ、真夜ちゃんにこんなお綺麗で頭の良い方紹介していただけて。本当この子理科だけはからっきしなんです……。この子に勉強、教えてあげてください、なんて。ああ、今日はできればお食事も食べていってくださいね?夫は出張で剛も普段は家にいないから。でもびっくり。剛はたった今、帰ってきまして。あ、剛ってのはうちの長男ですぅ。だからいつも食卓は真夜ちゃんを誘っても三人ぽっち……。お母さん寂しくて泣いちゃう。伽耶奈さんは夕食、何がお好みですか?なんでもお好きなもの、作りますよ?」


もはや独り言に近い発言も、その中には混じっている。

「うあ、いえ、その」

普段は饒舌な伽耶奈さんも不意を突かれたか、中々返事を返せないでいるようだ。亜子のお母さんは普段から若干マシンガントーク気味。初めて会った時は真夜も圧倒されたほどだ。


「あらぁ亜子。起きたのね?お兄ちゃん久々に帰ってきてるよ」

今気付いたとばかりに、話の矛先を娘に向ける。

「ぅんむ。ぐずっ」

亜子は涙に塗れた顔を拭い、言葉にならない相槌を打った。

「じゃあママ、お兄ちゃん呼んできて」

「うんうん、分かった。ごーぉー、亜子ちゃん呼んでるぅー!」


ぱたりと、再び閉まるドア。少し疑問に思い、聞いてみる。


「なんで剛を呼んだの」

「……お兄ちゃんに、お願いしてたことがあるの」

お願い。何だろう。


「アキ君を探してって、お願い」


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