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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第二章 紫夜叉・ヴァイオレットデヴィル
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再帰/桑折真夜

「なぁ。どうして笹山さんを泣かしちゃったんだい?」

職員室。

真夜は昼休みの盛大なストレス発散、もとい八つ当たりの結果、ホームルーム後に呼び出されていた。


目の前で真夜を問い詰めながらも困り顔なのは数学担当教師にして一年学年主任、女生徒誑しとして名高い鳥越。

担任だった川田と言う女性教員は四月の初日以来なぜか学校に来なくなったので、1-Bのホームルームを含めた雑事を受け持っているのはずっとこの、優男系数学教師だ。


「泣くなんて思ってなかっただけです。友人の悪口を言われて腹が立ったものですから。フツーの、じゃれ合いみたいなものですって」

徹底反撃しただけ。正当防衛ですから。

――あれ、これじゃ私が本当にいじめているみたいな。

「それにしては、凄い口論だって聞いたけど?」

そう言うとふにゃりと。作った笑いを貼り付けて見せる。この小物な男はこうやって人に取り入ってきたのだろうと思わせる、奥に透けたものが見える薄弱な笑顔だ。


本当は生徒の事なんて。

――まったくどうにも思ってないんでしょうよ。


しかし。


どうにもこの男、何か衝動的なものも感じる。何か巧妙に隠している。そんなイメージが拭えない。真夜は昔から人付き合いは多かった方だ。人を見る目は、自分をひいき目に見なくても確かだと思う。


「悪口を言われたっていうのは登田さんや」

――三位君のことかい?

これだ。この表情に含みのある言い方。やっぱこの教師どこか……


「あらぁ、鳥越センセ。熱心ですねぇ」

鳥越にフォーカスしていた視線が、左上にブレた。

別室ではなく教員室の隅で面談をしていたため、他の教師も必ず通りかかる。話しかけてきたのは確か、家庭科の……

「ああ、ミハラ先生。お疲れ様です」

そんな名前だったっけ。

ミハラという教師は中年の女性だった。雰囲気イケメン数学教師はこの手の年代にも人気が高そうだ。


「ほんっと、鳥越センセには頭下がりますぅ」


ミハラという教師が騒げばその周りに年齢性別関係なく他の教師もワラワラと寄って来始める。どこかで見たような光景だ。学生でも教師でも、人間の本質とはそんなに違わないのだろう。

そこからは教師たちの会話をずっと、傍目から眺める形になった。


あれ、これって……。


「あのぉ、私もう帰っていいですか」

「あ、ああ。もういいよ。次から気を付けて」

何そのまだいたの、みたいな反応。すっごくむかつくんですけど。



あの後一人きり、誰もいない教室でぼーっと無為な時間を過ごしていた。

気付けば、とっくに下校時刻前になっている。


「帰ろ」


廊下は自分の足音が遠くまで響くくらいに静かで、校庭では様々な部活動に所属した生徒が汗を流す声が遠く聞こえる。

部活動、か……。


真夜だってまだ15の女の子だ。いや女子でなくても、高校での部活動に憧れる新入生は、きっと多いだろう。

自分の容姿が周りに比べて優れているのは自覚している。大勢の部活動の勧誘も受けた。だが誘いに乗ったことは一度とてない。

見てくれだけと思われるのが昔から、真夜は嫌で嫌でたまらなかった。


頼んでもないのに寄ってこないでよ。鬱陶しい。


まただ。イライラが収まらない。こうなったら自分以外、他人の事はどうでもよくなってしまう。

きっと少しの事が望む通りになったら、それだけで……。

「あぁ」

自分はいつからこんなに弱くなったのだろう。今までは我慢できていた。“過去”の事を、別の何かに没頭することで忘れようと思ったことすらある。だが高校に入学し、彼と再会し、あまつさえ会話をしてしまった。今はその思い出も憎い。心に刺さって抜けない、私を苦しめる楔だ。


だから、それを暗示させるものに、無条件に、縋りたくなってしまう。

「伽耶奈、さん……?」

校門前。過去の記憶と変わらずクールに佇む彼女が、明崇を辿る希望の糸に、真夜には見えた。


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