癒し系男子…?/門田璃砂
藤堂と共に向かったのは待ち合わせたそこではなく、駅から早々離れていないこじんまりとした喫茶店だった。
彼は席に着き、コーヒーを二つオーダーしてから今日の段取りを説明し始める。
まず、例のジャグリングサークルについて。
新宿でも学生が多い管区内なら彼らについての実情はその所轄の捜査員のほうが詳しい。今から会う約束をしているのは早稲田に近い、正に学生がたむろする地域を管轄する、戸塚警察署の警官だという。
例のジャグリングサークルのようなインカレサークルはモノによっては規模が大きく、場合によっては警察が介入する事態にも発展することも珍しくは無いだろう。
この界隈、学生の間で何が起こっているのか。詳しいのは勿論その地域の所轄捜査官、というのは璃砂にもわかりやすい理屈だった。
「ごめんごめん。お待たせ浩人」
かいてもいないように見える額の汗を拭きながら待ち合わせ場所に訪れたのはどこか線の細い、華奢な感じの青年だった。女性かと思ったが、良く見たら来ているスーツは男物であるようだった。しかし顔立ちも、どちらかと言えば女顔。カワイイ系だ。
「あ、初めましてだよね。僕、睦美司って言います。」
所属は戸塚警察署、生活安全課の巡査。まだ若そうだ。恐らく20代前半。世代は璃砂に近いか。
それにしてもこれで……男?
「君が浩人の新しい相方さん?」
顔ちっさいなぁ。目は大きいし。
「あ、はい。門田、璃砂です」
名刺を渡そうとし、近づく。えっ、まつ毛ながっ。やっぱり本当は、女なんじゃないの……。
「へぇ、次の相方はキャリアさんか。浩人ってやっぱり面白いや」
「何が面白いんだ」
「それ、本人に言ったら面白くないじゃない」
それより、何の話だっけ?
そう言って彼は清純派女優にも劣らぬ可憐な笑顔を見せる。話をする前に、女としての自信を無くしてしまった璃砂だった。
さっそく本筋に入るかと思いきや、浩人が睦美と始めた会話は殆ど雑談に近いものだった。
「浩人は何頼んだの」
「コーヒー」
「だけ?」
「そりゃそうだろ」
「えー何か食べたい」
友人と言うより、恋人同士のような会話だ。
「もうお昼前だから二人とも何か食べちゃおうよ……。璃砂さん何にする?」
「え、えと。睦美さんは何に」
「司でいいよ」
ああ、でも何だろう。この笑顔には癒される。自然とこちらもはにかんでしまう。
「つ、司さんは何頼むんですか」
「んー、パンケーキ?」
だから本当に男なんですか。きっと私より女性らしい。
「お前またそんなモノばっか食ってるから肉付かねーんだろーが」
「いいじゃん。僕浩人みたいな筋肉バカじゃないの。突入ッとか叫んだりもしないの」
ん。特殊班時代の藤堂を知っているということは、結構長い付き合いなのか。
「まぁお前、交渉班だったもんな」
交渉班……。
「じゃあ」
彼も元、SIT。
「そうだな。こいつとはSITの一係以来、だな」
特殊班捜査班一係。交渉班と言うことはつまり立て籠もった犯人に、「田舎のお母さん悲しんでるぞー」とか説得する、アレですか。
「こんなナヨナヨしたのでも交渉班の中じゃ一番の逸材だったしな」
「ナヨナヨって……ひどいよ浩人。いや、自分で逸材って言いたいわけじゃないけど」
へぇ、逸材。
「まーまー良いじゃん僕の話はさ。実際二人は今何やってるんだっけ。殺人で帳場が立ったから組んでるんだよね?」
「知らないのか」
「知らないも何も。中野の帳場でしょ。ちょっと変わった殺人だとしか聞いてないよ。何かそっちも規制かけられてるんだっけ」
いやちょっとというか。
「これが中々こじれててな。ややこしいんだよ」