"彼"との距離/門田璃砂
4月29日。正にゴールデンウィーク初日。
門田璃砂は待ち合わせ場所に選ばれた新宿駅の名の知れた喫茶店前で、相方である浩人の姿を探していた。
そわそわと、慣れない私服を着辛そうに、彼の到着を待つ。
昨日はやはり酔っていた。勢いとはいえ彼に、捜査以外で二人きりで会う約束をしてしまったのだ。普段の私らしくも無かったと思う。とはいえ、悪い気はしない。
―― 一夜の過ちとは、こんな感じなのだろうか。
自分でバカな事を考えているのを自覚する。緊張した時、ふざけた考え事に逃げるのは悪い癖。そう、彼と二人きりで会う今になって、璃砂はどうしようもなく緊張していた。
彼が今日どのような伝手を使って捜査をするのかについては全く知らされてはいない。恐らく、汽嶋巡査を警戒してのことだと思う。だからだと思う。彼がラフな格好で待ち合わせしようと言ったのは。
そこから待つこと、五分もかからなかったと思う。
「あ」
遠目からそうと気付いた璃砂が手を振ると、浩人もようやくこちらに気付いてくれたようだった。
彼はおとなしい色のTシャツにジーパン、黒のジャケットを羽織っていた。まぁ無難な気もするけれど、スタイルの良い彼だと何を着ても様になると璃砂は思う。
「私服ってのも……あれだな」
ん、何ですか。どこか変ですか、私。
「新鮮、だよな」
璃砂は春らしい水色のセーターにベージュのパンツ。確かにいつも来ていたスーツとは、自分でも驚いてしまうくらいに印象が変わる。
自分は人見知りする性格ではないと思うけど、男性との距離感はよく掴めない。浩人とは、まだ軽口をたたき合える仲じゃない。でもお世辞くらい。
――まだその、カワイイとかキレイとか。
他に何か言う事は無いのという文句は、この際呑み込むことにした。