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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第二章 紫夜叉・ヴァイオレットデヴィル
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呑夜/藤堂浩人

「だからっ。なっ、ななな何すかあの態度ッ」

「落ちつきたまえよぉ健人君。わらしだって文句が言いたいのだようあのスケベ主任にはぁ」


会議の後、多野班はたまに飲みに行く。今日は所轄捜査員で数少ない一課側の立ち位置にいる璃砂と時田も共に馴染みの居酒屋で一杯ということになった。席に着いてすぐの議題は先ほど捜査員の休暇を発表した捜査会議について、とりあえず末警部補の愚痴をこぼし合うことから始まった。


「スケベって、どういうことですか?」

浩人の右隣、璃砂が時田の発言を受けて質問する。

「ああーそっすよねぇ知らないっすよねぇ」

庶民的なテーブルと座敷を囲む。弛緩した空気がその上を流れる。

「ゆーめいな話ですよォ。野方署強硬班主任の末さん、風俗通いもうひっどくてぇ。あの、なんだっけ……三丁目のマリアン?」

「ああ、そうそこそこ」


この話はそう、第四方面本部では確かに有名だ。確か違法入国の中国人かなんかが摘発された風俗店。そこまで昔の話ではない。その店の名前が、マリアン。

その摘発された風俗店の客の一人が、なんと同じ管区内の末警部補だったという、まぁそういう、下世話な話だ。


「ほんと情けないッたらありゃしないよ。あれでキャリアの監察官に睨まれてひどくなったもんねェ」

末主任の、本店アレルギー。


どこか苛烈で品の無い文句。それらも続けばいつかは下火になる。

そして酒を交えた語り合いの話題は、自然と帳場に寄っていった。


「いやぁ絶対、犯人は変態野郎でしょ」


変態。時田の物言いはざっくりとしている。だが、言いたい事は伝わった。今回の捜査会議でもたらされた唯一有力な捜査結果の事だ。とはいっても足を動かした捜査官による報告ではないが。


東京都監察医務院、前野検死官による司法解剖の追加報告。被害者の体内から、犯人によるものと思われる“体液”が発見された。体液とは、まぁつまるところ、精液である。


犯人はおそらく無理矢理、被害者女性を犯したのだ。しかも犯行の直前。犯人の科学的手がかりだけでなく精神的特徴についても迫れる重要な報告だった。


その他、今日の報告を踏まえてそれぞれ思うところを意見しあって少し経つと。

「門田君はどう思う」

先ほどから浩人と熱く捜査方針の方向性について議論していた多野警部補がテーブルのはす向かいに声をかけた。

「どう、といいますと」

少し気恥ずかしそうに、コトっとコップを置く。浩人以外に捜査について意見するのには、まだ少し自信が無いのだろう。打ち解けてない、と言ってもいいかもしれない。

「捜査についてだよ。藤堂君とは上手くやれているかな」

「あぁ、はい。藤堂さんにはいろいろとお世話に……」

ちらりと隣の浩人を見て、殊勝にも頭を下げて見せる。


――猫被ってやがる。


まぁでも、うれしい事なのかもしれない。打ち解けてからの彼女の方が、接しやすいのは確かなのだ。

「僕もね。門田さんにはお世話になったから」

「い、いえいえ、父から伺っています。多野主任に失礼の無いようにと」

そうか、門田の父、広報官の門田瑛(かどたてる)と多野主任は旧知の仲だと璃砂が言っていた。接点があってもおかしくはない。

いや、待てよ。


門田広報官はキャリア組だ。エリートであるキャリアとノンキャリに接点なんてあるのだろうか。浩人と璃砂のコンビにしたって、特殊な事例であることに変わりない。それとも門田家は、下位捜査員に関わりたがる、こんな風変りな人間ばかりなのか。そう疑問を抱きつつ、二人の会話を、浩人はしばらく眺めていた。



「風向きがおかしい」

ポツポツと自然発生した複数の捜査考察が一本の大きな流れになり、正に捜査会議のような雰囲気が漂い始めると、多野主任は重々しく、ここまでの捜査の結論を下した。


「この犯人の心情、そして行動理念。とっちらかり過ぎている」

浩人と健人の目を、見る。

「このままではいけない。獲るぞ」

広く浅く、それでいて泥臭く。それが俺のポリシーだと、多野主任は浩人と倉持が一課配属になって初めての際、教授してくれた。それを思い出す。あの時と同じ、穏やかな中に確かな存在感を持つ、どこか老獪な目つき。


犯人は絶対に、多野班で挙げる。彼の目はそう語っている。出会って、それこそ結成して間もないチームなのに、この三人の意思はどこか通じていた。

はい、と。浩人と倉持の声が重なる。三人で決意を固めるこの一瞬。多野警部補から順に、二人に電流が流れるような感覚がある。

「うおぉ、何かかっくいいー」

コクコクと璃砂も頷いている。

時間も大分経っていて。そろそろお会計しようという話になった。


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