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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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真意そして生死の狭間

雷撃で離脱する。


翼が、青白く励起する。周囲が再び照らし出される、そのまま後ろに反り、出口を目指して――

しかし進んですぐ目の前に。地面から障害が、“突き出して”きた。


銅色の、鈍く輝く金剛骨。そしてバリケードの様に。いたるところからそれが生えてくる。亜子を抱く、明崇の進路をふさぐように。


同時に背後から、圧倒的な気配を、明崇は感じ取った。

「牛鬼……」

広い物流倉庫の対角線上。奥の入り口から、奴が歩いてくる。




戦おうとしては、ダメだ。

亜子を連れてここを出る。彼女を無事なところまで連れ出す。

――それが俺の役目。

「亜子、しっかり」

掴まっていて。そう言おうと思った。



本物の、スタングレネード。

閃光。寂れた物流倉庫の上部から、投げ込まれたいくつもの閃光弾が弾ける。

SIRGだ。思っていたより早い。


ガラスを突き破る音、同時に叫び声。


「明崇ッ、亜子ォッ」

剛が叫んでいる、後ろには真夜と六華、三人が明崇から見て右側のドアから、駆けだしてきていた。

「お兄ちゃんッ」

その時、形容できない違和感が、明崇の中に生まれた。

――いや、ダメだ。


視界の端、牛鬼が。歪んだ笑みを浮かべている。その眼が攫った亜子ではなく、剛を見ている。嘘だろ、まさか――。


「来るな、剛ッ」

地面から勢いよく突き出た金剛骨、それが――

剛の体を貫いた。


雷撃を纏う暇もなく。


また、明崇は間に合わなかった。




「あ、がッ、うあ」

剛の体が刺された箇所から、銅色の金剛骨に飲み込まれていく。


瞬間、雨あられの様に牛鬼に、量産型、アサルトライフル型の金剛杵(バジュラ)白毫(ビャクゴウ)の銃弾が降り注ぐ。


それを牛鬼は、素早く鬼人化し太い金剛骨で受け止める。


「登田君ッ」

六華の叫び声が聞こえた。

「離れてッ」

詩織が真夜と、六華を引き留めるのが見えた。そして金剛骨に飲み込まれた剛に、汽嶋が向かっていく。

「んにゃろ……」

姥鮫(ウバザメ)で、剛が無意識に突き出した、金剛骨に覆われた腕を弾く。



大して明崇は、もう一歩も動けなかった。

「アキ君!?」

地面に膝をつく。亜子が泣きつくように、明崇の両肩に手を置き、前後に揺すっている。


――そうか、そうだったのか。


「アキ君ッ、しっかりして。お兄ちゃんが……お兄ちゃんがッ」

左右に揺らぐ視界の中。明崇は一人合点していた。亜子の涙交じりの声が、どこか遠くに聞こえる。


最初から狙いは、剛だったのだ。


今思えば最初襲い掛かってきた時から、牛鬼は剛に向かって攻撃を仕掛けていた。

あの時――


亜子が攫われた時も。


あの時も狙いは剛だった。剛への一撃を明崇が受け止め、汽嶋が姥鮫で距離を取らせた。


そしてその時点で、キャッスルウォールビルの電力が復旧した。そのため牛鬼は仕方なく、あそこから立ち去らなくてはいけなかった。


だがそれでは諦めきれなかったのか。剛と家族関係にあると最初から睨んでいた牛鬼は、亜子を攫うよう、あのチャイナドレスの女に命じたのだ。


何より、剛を釣るための釣り餌とするために。


剛に――血分をするために。


角鬼は――本能的に自身の金剛骨の、その適合者であるか否かを判別することができる、らしい。牛鬼は感じ取っていたのだろう。剛の、その資質を。


ここまでの事を総合して言えること、それは。


牛鬼は優秀な角鬼としての素質を、剛から見出していた。そして牛鬼が、これほどまで執着したという事はおそらく。剛は角鬼として、類稀なる才能を持っていたという事だ。


剛がほかのサーグの隊員の様に、血分され、すぐに絶命することはおそらくないのだろう。


牛鬼は、血分する事で本人の自我を奪う。そう汽嶋は言っていた。

このままでは、剛が――。



俺の目の前で、剛が、目も当てられない醜悪に歪んでいく。

真夜と六華がその奥で詩織に抑えられつつ、茫然としていた。

亜子の泣き声と銃声だけが耳に届く。


視界の端で。銃弾をものともしない。

牛鬼は笑っていた。


どうして、こんなことになってしまったのだろう。

牛鬼のせい。あいつが全部、やったことだ。

じゃあアイツだけのせいなのか。お前には、何の責任もないのか。

――違う。

俺が馬鹿だから、弱いから。

――半端、だったから。



今までずっと、殺すことを躊躇ってきた。今回もそうだ。あのチャイナドレスの女を殺していれば、確実に止めを刺していれば、亜子を攫われることは無かった。剛がこんな目に合う事は無かった。


真夜、亜子、剛、伽耶奈……皆を守るために自分の手を汚さないなんて……

「間違ってる」


初めてといってもいいかもしれない。同性の友人に、恥ずかしいくらい真面目な質問をした事があった。

皆を守るために、必要なものは、何か……って。

そんな事。

分かりきってるじゃないか。


力だ。


自分の愛する存在を、周囲の人達を守り抜くのに必要なのは紛れもない、圧倒的な、力だ。


広域災害指定Ⅱ種、牛鬼(ニュオグェイ)


鬼人としては、最高ランクの戦闘力を秘めた存在。そんな相手に俺は二度敗北した。あいつは、俺より強い。

――本当に、そうなのか……?


はっきり自覚したはずだ。自分の中に潜んでいた、認めたくなかった、選びたくなかった――

本気で戦う選択を。


「剛は生きてる」

そうだ。まだ間に合う。取り戻せ。

躊躇うな。邪魔する奴は殺すんだ。牛鬼を超える、強大な力が必要だ、そのためなら――


悪魔に魂も、売ってやる。


明崇は自分から。あの血みどろの部屋、その中心――

血の池に飛び込んだ。

視界が赤く染まる。

意識が、衝動に飲み込まれていく。


「え、あ、ア……キ、君」

フラフラと、彼が立ち上がる。その体から、亜子が触れていた肩から。紫色の鱗でできた、蛇の様なものが、飛び出していく。


アキ君の目は、虚ろだ。


全身から、蛇が飛び出している、紫色のそれがうねりつつ、彼の体を、覆い隠していく――。


「だ、ダメッ」


アキ君、そっちに行っちゃだめ。だめだよ。

追い縋る。しかし彼は止まらない。


足が縺れる。亜子が倒れこむとアキ君は。さらに遠くに行ってしまう気がして――

ただ少し、前を歩いているだけなのに。


一人で行かせちゃ、ダメ。


立ち上がろうとした、その時。

前方で爆発するような、衝撃――。

亜子はあえなくまた、倒れこんでしまった。



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