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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第二章 紫夜叉・ヴァイオレットデヴィル
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和解?/藤堂浩人

「いやぁ、美味しいですねぇ」

目の前の璃砂はやたら機嫌良さそうに、名前の長いパスタを頬張っている。

浩人も麺物にしようと思ったが同じものを食べるのが癪だったので、意地を張ってピザにしてしまった。

つか。

――結局、イタリアンかよ。


あの後。璃砂を泣かせた?ことで浩人はあの女学生達に一方的に詰め寄られた。そのまま押し切られ、結局それなりにイタリアンの体をなしたレストランに来る羽目になっていた。

――女の敵。

――多少顔が良いからって調子に乗らないの。

大人数で好き勝手言ってくれるじゃないか。挙句の果てに璃砂は名刺まで渡していた。

「藤堂さん、何かお話しましょうよ」

そう、璃砂はついこの間から時々浩人の事をさん付けで呼ぶことがある。何がお話だ。あの後で何をいけしゃあしゃあと。

「食事中にぺちゃくちゃ喋るのはマナーとしてどうなんだ」

浩人は少し苛立っていた。当然だ。このままでは彼女に対して、威厳を示せないままではないのか。

「そんなこと言ったって。いつも食事中は楽しいお話、してるじゃないですか」

「……」

「ふふん、藤堂さんは小さいですねぇ。昼食一つで」

――すねちゃって。

昼食一つで人前で泣きくずれるお前に言われたかねーよ。


だが、まぁ。ピザもなかなか美味かった。浩人がオーダーしたのは一般的なナポリピッツァ、マルゲリータ。モッツァレラとトマトと時にバジル。シンプルだが飽きない味で、浩人を満足させてくれた。

気が付けば璃砂へのいら立ちが霧散している。自分ながら現金な奴だと思う。

食後には、小さいカップに濃く熱いコーヒー。エスプレッソを嗜む。濃く苦いコーヒーだが、その小さなカップに入れる砂糖の量で甘さの主張だけでなく、その風味が驚くほどに変化する。浩人は砂糖をスプーン二杯近く入れ、コーヒーに入れた砂糖は熱を受け水あめのようにドロドロに半固形化していた。でもこれが、また美味い。

もう一杯くらい砂糖を入れようか。浩人が思案していると、途中から俯きだした璃砂がおずおずと口を開いた。

「……ごめん、なさい」

「何が」

彼女は浩人が今まで見た中で最も消沈しているように見えた。下手をすればまた、泣き出してしまいそうだ。

「口答え、しました。藤堂さん、その……怒っちゃいました……?」

どうやら浩人が一言も発しなかったからか、気分を害したのだと思ったらしい。ピザが思いのほか美味しかったから、夢中になっていただけなのだが。

「私、あまり一人でお店に入ったことな、いや、一度も無いので……」

はぁ、まぁ、なるほど。

璃砂はこの年にしては意外に思うくらいに世間ズレしていない。まだ良い意味で子供っぽいところがある。きっとその成長しきらない所こそ、彼女の良さだと浩人も思う。今回こうやって言い合いしたのも。

別にそこまで、気分を害すほどではない。

「つ、次はうどんにしましょう!だから、その」

いい。もういい。もう分かったから。俺も意地を張りすぎた。

「分かった。明日はうどんな」

ちゃんと目を見て笑ってやると、彼女の中の不安は消えたようだった。



イタリアンを食べ終え、腹を満たしてから目的地、富士見大学へと向かう。被害者が属していた文学部教授とはすでにアポを取っており、その後はサークル中心に交友関係を洗うことにしていた。

隣を歩く璃砂。その表情も既に捜査モードの顔つきになっている。

「大学となると……教授より学部生の方が充てになりますよね」

大学はそれ以前の教育機関と異なり学生と教授の繋がりは希薄であると、浩人も思う。

しかし。

被害者を遠目から見た意見も必要だ。第二、第三者の目線。多角的視点で捜査を行わないと、被害者の事件内での立ち位置がつかみにくくなる。浩人は本能的になのか、今までそういう捜査をしてきた。一足飛びな結論を急ぐ捜査をするときも確かにあるが、センサーに引っかかるまでは地道な捜査で糸口を掴む。捜査一課に来てから今まで、そのやり方を変えたことは無い。

捜査は“把握”することが重要なのだ。これは多野警部補の言葉でもある。

そう言うと、璃砂は玩具を手にした子供のように目を輝かせる。


先ほどまでよりもさらに、その距離感を詰めて来ている気がする。


「なるほど。タカクテキに、ですね」

コクコクと頷く璃砂。

こいつ、本当分かってんのか……。

国家一種試験をパスするのは基本東大生だ。彼女もきっとそうだろう。

――案外頭は切れても、常識が無いやつなのかも知れない。

そんな彼女を微笑ましいと思えるくらいには、浩人は璃砂に心を許せるようになっていた。


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