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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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逆撃つ


「おい、お前ら……誰か見てこい」


倉庫の外から聞こえた――金属のへこむような、ガコンっという音。その音に当てられたのか。


残っていた牛鬼の部下がノバラ達に。横柄に顎をしゃくって見せる。


仕方なく、やれやれと。動かない女性集団に肩をすくめつつ、数人の男たちが鉄製の、二メートルほどの扉に近づいていく。


「ん?」

遠目からも分かりやすく、一人の男が首を傾げた、その時だった。


「んあッ!?」

スタン、グレネードッ……!?


視界が塗りつぶされる、地上に星が降りたかの如く、青白い閃光が倉庫を包み込んだ。


しかし。

輝きが現れるのは一瞬、そして収まるのも一瞬だった。

すぐに周囲には、真っ暗な闇が、饐えた匂いと共に下りてくる。

そう。

誰もすぐには、先ほどまでとどこかが違う事に。

「お前ッ」

気が付かなかった。

「げふゥ」

目の前――すぐ近くにいた男の体が、いきなり“九の字”に折れ曲がる。

「がッ」

次は右隣、何、え、次は。

「おい、離ッ」

一塊になっていた集団、その中心に表れたのは。

「邪魔、だよ」

あの、牛鬼に屠られたはずの――



「チッ、龍鬼(ロングェイ)……ッ!?」


尾の様な金剛骨が背後からの二人を弾き飛ばす、ノバラは素早く頭部から金剛骨を放つ、が――。


巨大な両翼に、阻まれ。


「いッ」

体ごと宙を回転しそのまま、切断――

恐らく侵入からここに至るまで、一秒ともかかっていない。

そして宙に浮いたまま、上から、三つの金剛骨を抉るように突き出してくる。


紫色の不気味な目――魔物の目が、闇に鈍く踊っている。その眼光はおそらく最初から、あの人質――友人の少女を捉えていたのだろう。

「アアッ、い」

少し離れた場所で、人質の娘を押さえつけていた、マキの悲鳴が響いた。


どうやらマキの腕を、あのカッター状の翼で切断した――。

「ぐッ、う」


人質の体が離れる、そのすきを逃さず、周囲に雷が落ちる。



次の瞬間には少年の腕の中に、あの少女がいた。


立ち止まっている。少女を抱きとめたまま無事を確認しているのか。しかしすぐに苛立ちからか、巨大な蛇の様な、龍の尾が鋭くノバラを襲う。


妈妈(マァマ)ッ」

兆子の叫び声が聞こえる。なんとか受け止めたが――

「ん、あッ……あ」

圧倒的膂力。

あえなくノバラの体は、後方に弾き飛ばされ――。

「ぐッ、は……」


倉庫の壁に激突した。



血で滲む視界の中、ノバラはその男を見つめる。

本当、なんて執念――。







不気味な音の後、亜子の視界が眩むように真っ白になった。


そしてそれから間もなく。いくつか激しい音と、悲鳴がして――。


亜子を押さえていた腕が、解けていく。いきなり空中に持ち上げられて。その代わりあれよあれよという間にふわりと優しく。亜子の体を、背中と太ももから受け止めた人がいた。


あ、この匂い、知ってる――。


アキ君だ。


目を開けると嘘みたい。本当に彼だった。

「亜子……」

「え、ぐぇ、ぐすっ」

「怖い思いさせて、ごめんな……」

絞り出すように彼が言う。

「声が聞こえたんだ」

――助けてって。



アキ君の体の匂いには、いつもと違う匂いが混じっていた。鉄棒を握った後みたいな……錆びた鉄の匂い。そう

「血、の……匂い」

「……大丈夫だよ」

大丈夫、って。

「大丈夫、じゃ……ないじゃん。アキ君ボロボロだよ……」

「ごめんな」

ほら、こういう時――


何で、何で謝っちゃうのかなアキ君は。

悪いのは亜子。傷つくのはいつもアキ君で結局亜子は……亜子は怪我一つしてないのに――



それでも嬉しくて。本当に本当に……助けに来てくれたことが、嬉しくて。


安心と、さっきまでの恐怖がひっくり返る。自然に涙が、後から後から出てくる。


「こ、こッ……怖かったよぉ」

「うん、怖かったよな……」

――早く帰ろう。

彼の胸に頭を埋める。こんなに泣いたのは、久しぶりだった。


「こんなとこ、さっさと出よう」

アキ君が亜子を抱え上げながら言った。周りは真っ暗で、でもまだ、人の気配がした。

「……!」

アキ君のスミレ色に燃えた目が、見開かれる。

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