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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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覚え醒めゆく現実に……/三位明崇

こんなに痛いの――久しぶりだな。


カラダ全身、丸ごと煉獄にいるようだ。


衝撃を受けた部分は空白。感覚が真っ白に塗りつぶされている。その後何回も鉄骨を砕いて、破って、突き抜ける度にそれがリセットされて鈍い痛みになって、それがまた遅れて襲ってきて。


何度も衝撃を浴びる度、自分を責める声がリフレインした。

――お前が関わったから。

――お前が弱いから

――お前のせいで皆悲しむ。

何度も何度も何度も――叩きつけられた心と体に。


気が付けば目の前にはあの真っ赤な家。そこで呟く。

「俺は無力だ」


やっぱり一番痛いのは。多分体じゃなかった。

――亜、子……。

声に出したつもりだったけど。声にならない。ただただ、ケモノのうめき声みたいなのが砕けた頬骨から漏れるだけだった。


亜子だけじゃない。真夜だって、剛だって、こうなるかもしれなかった。


「俺が巻き込んだから」

今度は少しマシな声になった。

「俺が甘かったから」

あのチャイナドレスの女。あの女をしっかり――

「殺してさえいれば」


はっきりと、自分でも聞き取れる声。


ぼやけていた視界が、はっきり――クリアになってきた。月が明るい。

頭が一部現実に戻ると。頭が割れるような――なんでだろ。口の中、はちみつみたいな味がする。


視界が傾き、月が見えなくなる。気が付くと体から這い出た金剛骨が、自身を持ち上げていた。骨折は、流石に金剛骨の骨格でも相当だったはずだ。途中で視界がくるくる回り出したのは、頭蓋もやられてたんじゃないかと思う。恐らく脳内出血の症状――普通なら死んでる。


でもそれが、どうやら全部、もうすでに、治っている。


全身が熱い。明崇はそれが痛みではなく、いつもの、鬼人化が亢進したときの症状であることに気づいた。でもいつもより、もっと熱い。


龍骨因子を持っていたことに、これほど感謝したことは無い。


「そこに、いるんだな」

赤い、そこから何かが覗き込んでくる。巨大な気配。


ドアノブをひねる。廃墟になった、血みどろに真っ赤なあの家に入り込む、奥に奥に。潜っていく。


奥に行くにつれて。廊下の奥まで広がっている血の海の嵩が増す。体が赤黒く染まるのもかまわずに。歩き続ける。


目的地は開けた、赤黒い外壁の空間だった。

龍骨因子(ドラコファクター)……」


そこに、やはり、いた。


部屋全体を覆いつくすまでに巨大な、何か。それが血の池を氾濫させながらうねっている。

もうためらいはなかった。いつもとは違い今回は。明崇の方から声をかける。


「……力を、貸してくれ」


より強く、化け物の体がうねり出す。その全貌が顔を覗かせる。

――何、言ってんだよ

子供の声が響いた。ガンガンと、赤黒い部屋に反響する。

気が付けば目の前――

化け物の巨大な姿は消え。代わりにそこに佇む小さな子供。


「もともとお前の龍骨因子(チカラ)だろ」


――ハッ。

意識が戻ったその時には。痛覚がどこか心地良いくらい。そして痛みなんかより、龍鬼としての感覚が、今までにないほどに尖っていた。


「見つ……けた」


汽嶋、詩織、剛、警察官の皆――そして一番近くに、真夜。

いつもよりさらに近く感じる皆の気配が。今は何とも愛おしい。

そして遠くには。亜子の隣に間違いない。“あの女”の気配があった。

「亜子……今行くよ」


その時不思議な、いつもと違う感覚がした。


バサリと、両肩から巨大な翼が広がっている。腰から伸びる尾と共に三つの金剛骨が、自分とは違う何かが蠢く様に。しかし両の手足の様に自在な感覚を張り巡らせていた。


――バチチチチッ


今までの比にならない、雷撃が翼を起点に発散する。そのまま推進力が生じ、天高く舞い上がる。


その途中、非常階段の鉄骨を下る、真夜の姿が見えた。とめどなくあふれる涙を拭うのさえ見える。でも、それでも無事な彼女を見て――明崇は心底嬉しかった。

真夜、ごめん。ちょっとだけ待ってて。

「亜子を取り戻してくるよ」

――もう誰も、傷つけさせない。

巨大な輝きが初秋の空にスパークし、消えた。


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