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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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残心ー再起動

浩人はその時、暴走し鬼人化した警備課の警察官に銃口を向けていた。

聞こえたのは、悲鳴。仕方なく発砲、しかし銃弾の前に、その、鬼人化させられた警察官は力尽きてしまっていた。

顔を、悲鳴のした方に向けた。その、浩人の目に映ったのは。


巨大な鬼人、その蜘蛛の様な八本の爪に勢いよく殴りつけられる、三位明崇の姿だった。


――明崇ッ!


浩人は我を忘れ、走り出す。


中心部の廊下の端。そこにたどり着くまで、さほど時間はかからなかった。


そこに、巨大な穴が開いている。その場で桑折真夜と登田剛が、放心したように膝をついていた。


「援射ッ、おい、追うぞッ」

汽嶋の怒号が木霊する。しかしもう誰も従おうとしない。そう、戦いは終わった。


既にもう先ほどまでいた、鬼人の姿がそこにはない。


「っざっけんなよクソッ」

汽嶋が叫んだ。それを後目(しりめ)に、桑折真夜が明崇の落ちた階下を目指し、走り出すのが見えた。







涙が止まらない。


真夜は勢い余りつつ、外付けの、鉄骨の非常階段を駆け降りている。明崇が落ちながら開けた鉄骨の竪穴は嫌なくらい長い。鉄骨が落とされた彼の形そのままに、巨大な穴を開けてそれは続いていた。

――明崇お願い。


「死なないで」


こう思うのって身勝手かな。でも明崇を失ったら私は、私は――。


深海の様に暗い、階下の闇に潜る。周りが暗くなって視覚が鈍ると、絶望的な現実が押し寄せてきた。


亜子が攫われた。あの時私は何もできなかった

そして、助けに行こうとした明崇が――


明崇の体に抉りこむ、八本の爪。私はあの時も何も、

何も。


自分の体も同時に、抉られたかのようだった。

「……え」


気が付けば二階の、分厚い鉄骨の床が見えている。

そこに巨大な、隕石が落ちたような凹みがある。しかしそのどこにも――

「明崇……ッど、どこ」

三位明崇の姿はなかった。






『SIRG一係、榎本警部です』

ジジッとインカムが鳴る。

『怒紅狼が……何故か後退。結果的に撤退しました』

その報告を警備課員誰もが、沈黙しながら聞いている。

インカムからそれに続き、立て続けに聞こえてくる“事後報告”。

『パーティ参加者での死亡者12名』

『避難は牛頭羅との戦闘開始時点で80%完了していました』

『警務部広報からの打診です――』

そして最後に、高峰詩織の声が聞こえた。

『SIRG13係に死傷者はいません、ですが――』


三位明崇の行方が不明です。



クレーターのできた、二階、非常用階段踊り場の鉄骨。

そこに高峰詩織がいた。脇には明崇の――確か友人とか言っていたか。桑折真夜、そして登田剛。


沖和正はそこに到着してすぐ、その痕跡(クレーター)が意味する事に気づいた。


「なるほどな」

「何が……何がなるほど、よ」

高峰詩織が小さく呟いた。そして振り返りざまに和正の襟首を、両手でつかみ睨んでくる。


「ねぇ満足!?あんたがあそこまで追い込んで、苛め抜いて――明崇君……明崇君がッ、これ以上なんで、なんでこんな目に合わなくちゃいけないのよッ」



そんなの決まっているだろう。


「ほかでもないあいつ自身が、そう望んでいるからだ」

「そうさせたのは、そう仕向けたのは、あんたでしょう……亜子ちゃんだってッ」

力なくずれ落ちる。高峰の体。

へこんだ鉄骨に歩み寄る。すると立ちすくんでいた少女が、立ち上がった。


「明崇は……どこに行ったんですか」


その言葉に高峰が、ハッと息を飲む気配がした。

ほら見ろ。こんな子供でさえ気づいている。

「ああ、アイツは助けに行ったんだろうな。友人を――登田亜子の事を」


「助けに……」

「あいつがもしその一撃で死んだのならば、ここに死体があるはずだ」

まぁそもそも。あの程度で死ぬとも思ってないが。


「明崇は……生きてる」


桑折真夜が繰り返す。そして

――いかなきゃ。

「剛、助けに行こう。明崇と、そして亜子を――」

「もうやってる」

「え」


登田剛が、和正に詰め寄る。そして、携帯端末を放り投げた。


「明崇のインカムと妹のスマフォのGPSその、現在位置です」


港区近郊。画面上地図に表示される二つの光り輝く座標。どちらもはっきりと、その地図上の位置が遷移している。


それを和正は、哀れなものを見るように見下ろす。


――この少年は、どんな気分だろう。

友人を名乗りつつ、双子の妹を守れなかったクラスメイト。あんな奴と関わっていなければ。そう思うに違いない。

思い知ったか三位明崇――求めたからこうなるのだ。


しかし登田剛は、和正に向かって言い放つ。


(あこ)の事は……明崇のせいじゃないっす。誰のせいだなんて、言えない、でも」

――貴方のその態度は気に食わない。

「明崇はあんなに、必死になって亜子を守ろうとしてくれた。なのに、なのにあんたはなんだッ。何でそんなに何にも感じないような、感じようとしないような……」



少年がそこで初めて涙を見せる。唇をかみしめながら続ける。

「でもッ……それでも亜子を助けて欲しいです。少しでもその気持ちがあるのなら」

――協力してください。


仕方ない。


「いいだろう」

もはやこれは一般人に被害が出た誘拐事案だ。看過するつもりは初めから、ない。


沖の言葉に。少年はゆっくりと顔を上げた。沖は受け取った携帯端末を、高峰に投げた。


「一度聞いておきたかった」

去り際。今度は桑折真夜が、和正に話しかけてきた。

「貴方は明崇の……お父さん、なんですよね」

沈黙するとそれを、肯定と取ったのか。


「私は……自分が許せない。あの時何もできなかった自分が。でもそれ以上に貴方のその、息子を道具として扱うようなやり方が許せない。明崇を、人として見ずに利用するような、そんな、やり方……」

――私は自分の次に、何より貴方を絶対許さない。


冷たい氷の刃のような言葉。それをものともせず。沖和正は次の一手を打つ。


『各局、A配置。SIRG1係、13係で牛頭羅を追え。拉致された少女の保護を最優先しろ』

――以上、散会。


そうだ。まだそうと決めつけるのは早い。


今度こそ見せてみろ、三位明崇。


お前の――奥底に眠るその正体を。


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