分水嶺
「……潮時ダ」
牛鬼を纏う空気が、変わる。明崇だけが、叫んだ。
「危ないッ」
ドッと。牛鬼の体から幾数もの金剛骨が飛び出す。それが牛鬼の付近にいた、警護課の警察官の体に容赦なく撃ち込まれる。
――奴の凶悪な能力のせいだよ。
汽嶋の一言が思い出される。
血分、かッ――。
遅かった。程なくというよりは撃ち込まれてすぐ、彼らの体は牛鬼に由来する、銅色の金剛骨に浸食され。
苦しみながらも仲間に、襲い掛かりはじめた。
やられた。
手薄になった弾幕と攻撃を、難なく突破し明崇に迫る牛鬼。
――だがこの俺が。
「死んでも通さない」
肉薄してきてから牛鬼の初撃。体を宙で捻ると、四本の触手が明崇を捉え損ね、勢いよく地面に刺さる。
これで、後四本――。
手数を減らすッ。
戦えない真夜達、そしてどうやら手負いの六華や詩織さんは後方に下がっていた。しかし後方からも牛頭羅の構成員に挟まれる形となり、石井を筆頭とした特殊班員数人がその全てを相手どっていた。
背後の真夜、六華達を危険に曝せない。これ以上後退するのは避けたかった。
大きく発達した明崇の翼。それをカッターの様に水平に薙ぐ。
「ッし」
牛鬼の金剛骨の触手が再び切断され、体勢が崩れる。よし、このまま――!
「ぐッ!?」
地面、からッ。
断ち切られた、地面に埋まったまま金剛骨。挿し木した枝が新たに芽を出す様に。金剛骨自体が自我を持っているのか。明崇に向かい突き立てられる。
翼で受け止めたものの深々と突き刺さり、その場から身動きが、取れなくなってしまった。
――しまった。
牛鬼が圧倒的速度で、迫るのは。
真夜達のいる方向――。
「や、止めろッ」
尾で勢いをつけ、翼に刺さった金剛骨を手折る。
雷撃を後方に放つ。推進力で――。
間 に 合 えッ
「何で、剛と亜子をッ」
二人に迫っていた、牛鬼の巨体に明崇は立ちはだかった。
「お、おい……、明崇」
「アキ君ッ」
金剛骨とぶつかる刃。鍔競り合いの様に、明崇の神薙がカチャカチャと震える。
――なんて力ッ、ダメだ、もう持たな……。
そのタイミングで、汽嶋の声がした。
「抑えとけよ小僧ッ」
汽嶋さんが肩に構えた、姥鮫の大きな刀身をスライドさせる。
――遠距離形態。
姥鮫――ある角鬼の鬼人の背骨から作られた金剛杵。その特徴は金剛骨の持つ優位な“変形性”。太刀状の形態から、金剛骨を打ち出す遠距離形態へと仕様を変更することができる、過去には無かった発展形――次世代型だ。
「死ねデカブツッ」
――ドッ。
轟音と共に放たれる、金剛骨の矢状弾丸――。
「危なかったな」
「今回ばかりは……ッ、感謝してますよ」
それにしても。
「なんでアレが、当たんないんだ」
牛鬼は距離を取りつつ、それでも隙を狙っていた。
巨大な金剛骨の大砲。あれは厄介だ。まともに相手をしてはいけないと判断できる。
そこで牛鬼は正に敵の、背後に現れた同胞に頼る事にした。