肩寄せ合い/近衛六華
痛い。痛いよ。
痛覚の遮断された夢の中。小さな、見知った男の子の声が聞こえる。
――れい……じ、く……。
「はっ」
目が覚めると、忘れていた鈍い痛みが走る。六華は自分の心臓が未だ、ちゃんと拍動していることに少なからず驚いた。
「大……丈夫?」
寝転がっている目の前に、高峰詩織の顔があった。その額には真珠玉の様な汗が浮いている。彼女も、重症のはずなのに――。
「詩織さッ、無理しちゃ……」
「してないよ」
近くに、注射器が転がっている。恐らく鬼人化促進薬。六華の鬼人化を亢進させ、命を救ってくれたのか。
「動ける?」
「は……はい。もう動けます」
立ち上がる。痛みはあるが体は問題なく動いている。鬼人特有の頑丈さに、六華は生まれながらにして鬼人であること。それに少なからず感謝した。
「詩織さん……その、血」
しかし彼女の体からは、未だに血が流れている。パタパタと、改修の済んでいないコンクリの床に滴る、赤黒い血。
「まだ、待ちましょう?このままじゃ」
六華がそう提案しても、彼女の足取りは止まらない。
「大丈夫だって。後少しすれば傷塞がるし」
でも。でもだからって。
高峰詩織の事は、この日まで、実際に話をするまで。知らなかったわけではない。
彼女は女性初のSAT隊員として、同時にSIRG十三係のメンバーとして。それなりに噂は聞いていた。