救い/門田璃砂
「……ぷはっ」
ダクトを抜けた。璃砂はやっとの事、電力供給室と思われる、そのリノリウムの廊下に飛び降りた。
「痛ったた……」
飛び降りた勢いで腰を強打した。璃砂は腰をさすりつつ、立ち上がる。
「ここ、だよね」
銀色の外壁と機械類。そして大小様々、無数のメーター類が目についた。
「え……っと」
スマートフォンを操作。電力供給の大元、一際大きなブレーカーを探して、ゆっくりと歩き出す。
「この、先……」
三叉路を右に曲がる。また一つ、広い白銀の空間が広がっていた。
そこで璃砂は大声を上げそうになり。
「……ぇ」
それでも何とか声を押し殺した――。
人だ。いや、この姿。
頭部には角。衣服も――特に背中が、不自然なくらい尖っている。
そしてこちらを、振り向いた。
――いや、え、嘘。
「あ、あの、ごめんなさ――」
――ガァンッ
大きな音と共に。白銀の壁が砕け散る。突然の喧騒に璃砂の、言葉の続きはかき消された。そしてコンクリートの瓦礫から、新たな人影。
は、え?何起こって――。
「うがァァッ」
「え、ええェッ」
何故か鬼人と思われる男は璃砂に向かって突進してきた。冷静になって考えれば、突然背後に出現した何かに、怯えていたというのが正しかったのかもしれない。
「ぐばッ」
間抜けな声と共に、その男の体が勢いよく。璃砂を飛び越え向こう側に弾き飛ばされる。その代わりに男がさっきまでいた場所には巨大な片翼の、人間離れした姿が佇んでいた。
「あ、あれ……」
明崇君?だよね?あれ、こんなんだったっけ?こんな――
こんな尖った雰囲気。
「あッ」
バチッという音が電力供給室に響く。目くらましの様な閃光が弾け、次に目を開けた時には、先ほどまでいたその姿はなかった。
「……ん?」
今のは夢か。それとも現実なのか。
「あ、ブレーカー……」
璃砂は自分の使命を思い出し、慌てて分電盤に駆け寄った。
でも今のが本当に明崇君なら、何か――。
言いようのない不安を、璃砂は感じ取っていた。