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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
186/287

その只中/三位明崇

衝撃、衝撃、一拍置いてまた衝撃。


表現するなら、そんなところだろうか。


「これって……」

――俺、生きてる。


目を開けると自分の体を、何かが覆いつくしている。左肩から伸びる始翼がもはや巨大な掌の様に、明崇を庇いながら、発達していた。

――咄嗟にガード?してたのか、俺。



『明崇?明崇ッ』

「ま、真夜?」

インカム、警察用無線から。何故か真夜の声が聞こえる。

死にかけた先ほどの敗北が、嘘のようだ。

――ごめん。

先にそう、謝りたくなる。


死を覚悟したのは、事実だから。


「みんな、その……無事か」

『うん、皆大丈夫。亜子も剛も、元気だよ』


近衛先輩は――そう聞こうとしたが、やめた。真夜がその情報を、彼女が無事なら漏らすはずがない。真夜の性格上、手遅れならばそう言うのだろう。言わないという事は、別行動をとって安否がわからない。しかし、逼迫した状況であることに変わりはない、といったところか。

余計な心配をさせたくない。真夜らしい気遣いともいえる。


そうか、皆、無事――。


『今警備部側の電波をハックしてる』

剛の声だ。先ほどより、やけにクリアに聞こえる。


『この通信も、多分すぐ聞こえなくなる。さっきは何故か、位置情報すら表示されて無かったけど』


あ。後者には心当たりがある。

「ごめん、それ多分、俺のせいだ」

『はぁ?』

真夜の間の抜けた声がする。


「いや、雷撃使うと電波が乱れてさ。多分そのせいで、インカムがフリーズしてたんだと思う」

今思えば電波状況にも影響していたのかもしれない。


『いや、ていうかお前……』

――大丈夫なのか?

「え、何が」

『息……めっちゃ荒いけど』

「あ、ああ……」


大丈夫、大分再生は進んでる。痛みと疲労は引かないが、体自体に異常はないようだ。


周囲を見渡すと、大分遠くに弾き飛ばされたようだった。

牛鬼の姿は、ない。


前方、明崇が飛ばされてきた通り道には、破壊されたコンクリートの跡が点々としている。


背後には自身が衝突した後、綺麗に蜘蛛の巣状のヒビが入った、クレーターがものの見事なまでに広がっている。


完全敗北、か。

痛い事は痛いのだが――それでも今までの経験上、明崇の様な鬼人にとって痛みというのは一時的なものだ。


取りあえず真夜達を避難させ、安全を確かめられるまでは。


『明崇、聞いてくれ』

剛の声に。耳を傾ける。


『俺たちは今、東棟(イースト)側六階、エスカレーターのあるホールに向かってる。多分行けるのはそこまで』

――多分そこから動けない。


「分かった。今すぐ行く」

『ま、待って……ねぇ明崇』

真夜の声だ。

「真夜……もう」

『ご、ごめんってば』

慌てて取り繕う彼女に。一言だけ。

「待っててくれ。すぐ行くから」

「……うん」


インカムの雑音が、消える。それが今の明崇には、酷く物悲しく感じる。


勢いよく立ち上がとうとする、が。


「ッソ動けよッ」


体が思うように、動かない。

先ほどから心中は穏やかじゃない。先ほどから……牛鬼の気配を感じる。確実にその気配は。


真夜達のいる、東棟(イースト)側に――。


言えなかった。言ったら現実になってしまう気がして。


嫌だ。真夜が、剛と亜子が、牛鬼(アイツ)に、もし――。

自分が死んでも。三人には指一本触れさせてはならない。

もし……再び対峙することがあれば今度こそ、牛鬼を。


死んでも引き止めなければならないーー。


そこで……何かの気配。

「お、前」

カラン。鉄骨がヒールで、鳴る音がした。


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